第19話 異国の旅路
さて、翌朝。曇り空ではありましたが雨は上がり、私たちはテントの撤収作業に入りました。
なにかの事故が起きるといけないので、お風呂は綺麗に埋め戻ししましたが、脱衣所や屋根付きの廊下などはヒントとして残し、私は笑みを浮かべました。
雨で濡れたテントを魔法で乾かし、濡れた車の荷台もやはり乾かし、テントなどを乗せると積んでおいたバイクをパステルが整備して、準備が完了しました。
「これで、いいですね。遊園地とやらにいきましょう」
私は全員乗った事を確認し、車のアクセルを踏みました。
目的地はすぐそこ。
私は急ぐ事なく、程々の速度で車を走らせはじめました。
程なく遊園地の看板が路肩みえはじめ、私は鼻歌交じりにハンドルを握っていました。
「あと十五分くらいですね」
しばらくして大きな遊園地の看板が見えたので、そこの駐車場に車を入れました。
入り口のゲートで駐車料金を取られましたが、今度はスコーンが一時払いしてくれました。
私はバスレーンに車を駐め、エンジンを切りました。
「私が入ると、動物たちが逃げてしまうかもしれません。残念ですが……」
私が笑みを浮かべながら、やんわり断りの話をしようとした時、動物園の制服をきた人がやってきました。
「噂のレッドドラゴンだな。ちょっとバイトしないか。最近遊園地ゾーンが寂しくてな。時給はだす。マスコットとして、一日歩いてくれないか?」
「はい、私でお役に立てれば協力しますよ」
私は笑みを浮かべました。
「そうか、じゃあさっそく裏口に回ってくれ。全員分の入園料は無料にしておく」
こうして、私の遊園地初体験がはじまりました。
制服をきた係員に誘導されて、私は遊園地エリアに入りました。
まだ朝早いせいか閑散としていましたが、そのうち人が集まりはじめ、私の姿にみんなびっくりしたようでした。
「レッドドラゴンだ……」
「はい、エレーナと名乗っています。害意はないので安心して下さいね」
私は笑みを浮かべながら、ゆっくり遊園地内を歩きはじめました。
すると、どこかで噂を聞きつけたのか人が集まりはじめ、みんなが記念写真を撮ったり、私によじ登るある意味冒険者がいたり、それなりに人が集まったようでした。
中には重たい私の竜鱗をむしり取ったりする人もいましたが、すぐに生えてくるので問題はなかったです。
但し、遊園地側としては問題行為に当たるようで、その竜鱗は没収されちゃっかり遊園地の運転資金に回されているようでした。
「よし、今度は動物園エリアだ。ちょうど空いている展示場があってな。そこに三時間だけ入ってもらおうと思ってな。昔は猿山だったんだが、流行病で全滅してしまってな」
「わかりました。お手伝いします」
こうして、私のドタバタ遊園地と動物園エリアの往復が続きました。
夕暮れを迎え、遊園地が閉園すると、園長となのったおじさんが、給料袋を私に手渡してくれました。
その金額は五千クローネで、スコーンがふくれっ面になりました。
「なんで、あれだけこき使ってこれだけなの!!」
「すまんな。最近は業績不振で、これしかだせんのだ。また近くに寄ったら頼む。今日だけで、通常時の売り上げの倍はあった。これで、借金が返せるよ」
園長は決まり悪そうな顔をして、私たちから離れていきました。
「エレーナ、安すぎるって文句いわなきゃダメだよ。私がボロッコイパン屋さんでバイトしていた時でさえ、一日一万クローネはもらえたよ!!」
スコーンが憤慨しました。
「いいのです、お役に立てたようで。大きいわりには、お客さんが少ないようでしたし、竜鱗を何枚も回収していたので、なんとか立て直せるでしょう。ここは面白いです」
私は笑いました。
「さて、いきましょうか。もう夜が近いです。どこかテントを張れる場所を……」
「それでしたら、カッサラという町が近くにあります。そこで私たちは食事を摂って、その先に進んだところでテントを張りましょう。エレーナが泊まれるようなスペースがあれば、そこで一泊でもいいですし」
パステルが笑いました。
「そっか、エレーナは大きいもんね。小さく出来ないかな……研究する」
スコーンがノートを取り出して、なにかブツブツ呟きはじめた。
「まあ、いいですよ。もとより一人旅のつもりだったので、こうして仲間がいるだけ心強いです。ずっと野外泊の予定でしたから」
私は笑いました。
「そうですか。でも、仲間外れは嫌です。もし、スペースがなければ、私たちもテントに泊まります。みなさんいいでしょ?」
パステルが笑った。
そのカッサラという町は、車で約二時間ほどという事だった。
夜闇の中、ヘッドライトを頼りに走っていくと、対向車線を通り過ぎるバスやトラックがクラクションを鳴らして挨拶してくれました。
しばらく走って行くと、ヘッドライトの明かりの中に、呆然と立ち尽くす女の子がいたので、私は車を止めました。
「どうしました?」
運転席から降りて、私は女の子に声をかけました。
「はい、ここで休憩していたのですが、パーティにおいていかれてしまって……。どうしたものかと」
女の子は苦笑しました。
「路上では危ないです。まずは荷台に乗って下さい」
「はい、ありがとうございます。私はララといいます」
ララが荷台に上りみんなで慰める中、私は車を出しました。
背後で話を聞いていると、なんでも新米剣士だそうで、確かにロングソードを腰に帯び、軽装ではありましたが、鎧のようなものも身につけていました。
「もうすぐカッサラです。そこでいったん止まりますがどうしますか。私たちと行動を共にするなら、まずは冒険者ライセンスを見せてください」
パステルが笑みを浮かべながら声をかけました。
「はい、私でよければ……」
ララは鞄の中から、緑色のライセンスプレートを取り出しました。
「まだ冒険者としても新米ですね。苦労が多かったでしょう。このパーティは平穏なので、問題ないですよ」
パステルが笑いました。
「うん、ララって少しだけ魔法使えるでしょ!!」
スコーンが楽しそうに問いかけました。
「はい、拙いですが魔法を帯びた剣を使えます。そのために剣だけはいいものをと思って、ミスリル製にしました。鋼では上手く魔法が乗らないので」
ララが小さく笑いました。
「へぇ、魔法剣だ。あんまり使い手がいないから、これは楽しみだね」
スコーンが笑みを浮かべた。
「それ、ナイフにも使えるの?」
ジーナが笑みを浮かべた。
「はい、理屈では刃物であれば大丈夫です。どんなナイフですか?」
ジーナが腰に挿しているナイフを、鞘ごと取って見せました。
「な、なんですか、この黒い刀身は。虹の文様が浮かんでいて綺麗です。初めてみる材質です」
少し興奮気味になったララは、素早く呪文を唱えて炎を纏ったナイフを作ってみせました。
「刃が鈍ったりしないのでご安心を。魔力との親和性が、ミスリルより高いです。これは、期待できますよ」
ララが笑いました。
「そっか、なら面白いな。ありがとう」
ララが炎を消すと、ナイフをジーナに返しました。
「熱くないんだな……」
「はい、刀身との間に結界のようなものを張るので、剣が熱くなる事はありません。大丈夫ですよ」
ララが笑みを浮かべました。
「魔法剣か……。研究はしたけど、私は剣技が得意じゃないからねぇ」
スコーンが笑いました。
カッサラの町が近づいてくると、赤い信号弾が上がりました。
「やはり狭いようですね。これは迂回です。皆さんは食事を済ませてきて下さい。私は町を迂回して草原にキャンプのベースを作っておきます。もし辛いようでしたら、皆さんは宿でも構いません。その際は連絡を下さいね」
私は無線機のチャンネルを合わせました。
「いくよ、いくに決まってるよ。なんでエレーナだけ外なの!!」
スコーンが頬を膨らませて怒鳴りました。
「はい、無理は禁物なので……」
私は苦笑しました。
「はい、みんなでご飯を食べましょう。まだ食材には余裕があります!!」
パステルが笑いました。
「分かりました、ではみんなで移動しましょう」
私は町を迂回して草原を走り、再び街道に出たところで先に進み、なにかの支えになりそうな落葉した木の脇に車を止めました。
秋も深まり、かなり気温が落ちてきたので、急ピッチでテントを組み立て、中に温度や湿度を調整するための虹色ボールを床が埋まるほど転がしてから、パステルとリナが共同してタープを張って防水シートを垂らし、スコーンがジーナと協力して野外コンロや調理器具を揃え、これでいつものキャンプ体勢が整いました。
スコーンが酒粕を入れたホカホカ豚汁を作りはじめ、脇ではパステルがなにやらご飯の料理を作りはじめました。
「あとは任せましょう。ララは初めてですね。テントの中に入って下さい」
どことなく遠慮気味のララをテントの中に導くと、目を丸くしました。
「なんですか、この綺麗なボールは!?」
「室温調整や湿気の調整などをやってくれるものです。人の動きに合わせてコロコロ転がって邪魔にはならないので、便利ですよ」
私は笑いました。
「そ、そうですか。面白い魔法ですね」
ララがボールを一個拾って笑みを浮かべました。
「明るさの調整も出来るので、眠るときにも困りません。安心して下さい」
私が笑みを浮かべると、外から銃声が聞こえてきました。
ララは取りあえずテントにいてもらう事にして、私はテントから出ました。
「どうしました?」
「うん、なんかいたような気が……」
拳銃を構えながら、ジーナが不思議そうな顔をした。
私の目では、ウロウロしている獣の姿が見えました。
「野獣です。料理の匂いに惹かれて寄ってきたのでしょう。ご飯をあげるとキリがないので、少し脅しましょうか」
私はある程度コントロール出来る殺気を、ちょっとだけ放ちました。
すると、集まってきた三十頭近い野獣は、慌てて逃げました。
「餌付けしてはダメです。誰にでも催促して、襲ってしまう事もあります。これは、野生の常識です」
私は小さく息を吐いた。
テントでの食事は、ララの加入でさらに楽しいものになりました。
冒険者になりたてで苦労が多いそうですが、置き去りにされた回数は二桁にも及ぶそうで、パステルが苦笑しながらフォローしていました。
「このパーティは明るくて、温かくていいですね。変に殺伐としたパーティばかりだったので、私は嬉しいです」
ララが豚汁を食べながら笑いました。
「これも、エレーナの性格のお陰だと思いますよ。おおらかですから」
パステルが笑った。
「噂のレッドドラゴンのパーティに、私を加えて頂けるとは思いませんでした。頑張ります」
ララが笑った。
みんなが食事を楽しんでいる頃、私は室温を少し上げて、窓を開けて換気しました。
外の冷たい空気が入ってきて、少しこもり気味のテント内の空気を綺麗に浄化してくれました。
そのうちみんながお酒を飲みはじめ、もう今日は運転の予定もない私も少しだけ飲みました。
寒いときにはこれに限ります。
体温が上がるので、少しは楽になるのです。
テント内には早々とそれぞれの寝袋が敷かれていましたが、まだ寝ようとする人はなく、パステルがチョコチョコと近寄ってきました。
「あの、私の魔法を強化したいのですが……」
「そういう事は、スコーンに聞くといいですよ」
私は笑みを浮かべました。
「分かりました」
パステルがスコーンの元にいき、なにか相談をはじめました。
「私はあまり教えるのが得意ではありません。スコーンなら、丁寧に教えてくれるでしょう」
私は笑みを浮かべました。
ささやかな酒盛りも終わり、みんなが寝袋に潜った頃、私は虹色ボールの光度を抑え、薄暗い程度に調整してから、テントの端に寝そべりました。
メンバーが一人加わり、今まで苦手だった接近戦の穴が塞がったので、私としては安心でした。
「さて、魔法剣ですか。私も見慣れないので、少し楽しみですね」
私は笑みを浮かべました。
「あの……」
パステルがやってきて、私の石版を指さしました。
「どうしました?」
「はい、もう少し使える魔法をと……」
私は小さく笑みを浮かべ、もう一度『力見』をしました。
透明なガラス状の板が虚空に浮かび、パステルを透かして見せた。
「複数より、単独の方が精度が上がるのです。潜在魔力が七億五千万で最大出力が七千六百万ですか。結構な魔法が使えると思いますよ。あとは、いかに自分で組み立てられるかです」
「はい、教わったのですが、なかなか難解で……」
パステルが困った顔をしました。
「そうですか。では、この魔法書を」
私は空間ポケットを開き、中から初歩の魔法書を取り出しました。
「まずはこれを読んで下さい。よく考えて、分からない事があれば聞いて下さい。なんでも慣れです」
私は笑みを浮かべました。
「なに、魔法談義やってるの」
虹色ボールを積み上げて遊んでいたリナが、こちらにきて笑いました。
「はい、なにか使えるものがないかと……」
「私でよければ教えるよ。ちょっと独特だけどね。ファイアボール三十連発とかやってみたいでしょ?」
リナが笑いました。
「はい、マッピングに便利な探査系魔法など使いたいです」
パステルが頭を掻きました。
「探査系か……苦手だな」
「それは、私が得意です。まず……」
こうして、長い夜の時間は過ぎていったのでした。
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