第14話 仮眠の果てに
もう、最後の仮眠から何年たったでしょうか。
テントの中で目を覚ますと、誰もいませんでした。
「いけない、本当に仮眠してしまった……」
私たちドラゴンの仮眠は大体十年くらい、本睡眠になると数百年は寝てしまいます。
最後の夜から何年発経ったか分かりませんが、こうして私が起きるまで待ってくれているはずがありません。
「やってしまいましたね……寂しいです」
私がため息を吐くと、テントに大人びた姿になったジーナとリナが入ってきました。
「外でメシを作っていたんだけどね。やっと眠り姫が起きたか!!」
ジーナが笑いました。
「他の連中も一年くらいは待ったんだけどね。限界がきてブチ切れて、金目のものだけ取って逃げようとしたんだけど、エレーナの車には怖くて触れなかったみたいで、鱗を何枚か取って、そのまま車に乗って逃げちゃったんだよ」
リナが笑いました。
「あの、どれくらい……」
「十二年だよ。よく寝るこって」
ジーナが笑いました。
「そんなに待って下さったのですね。嬉しいです」
私は苦笑しました。
「そりゃ待つよ。仲間のつもりだからね。身分証の類いはちゃんとかっぱらっておいたから、困る事はないはずだぞ」
ジーナが私に身分証を手渡してくれました。
「付き人なんてゴメンだから、自己管理ね。冒険者はそうするもんだ」
ジーナとリナが笑いました。
「分かりました。ありがとうございます」
私は身分証二つをグローブボックスの中にしまいました。
ここの蓋は頑丈に出来ていて、施錠も出来るので貴重品入れには最適です。
「エレーナが寝ている間に色々手はずは整えておいたぞ。外の小屋にずっと滞在していて、城の仕事は大臣が代理でやっていたらしい。物好きな国王様だって有名だから、この程度はザラなんだとさ。落ち着いたら挨拶にいくといいよ」
ジーナが笑いました。
「うん、そのおかげでこの辺りの土地を買い上げて国有地になっているから、なにもない田舎の景色のままだよ。あとは知らないけど……あっ、地図もかっぱらっておいたから、旅に支障はないよ」
ジーナが笑みを浮かべました。
「そうですか。まずは、国王様に挨拶しないとダメです。小屋に行きましょう。
私は笑みを浮かべ、テントの外に出ました。
小屋と聞いていましたが、そこそこ大きいログハウスで、警備の兵士たちが巡回してる立派な別荘という感じでした。
私の姿をみた兵士の一人が小屋に入り、中から初老の立派な服装をした人を案内してきました。
「これは初めまして。国王のシドレ七世です。お目にかかるのを楽しみにしていましたよ」
国王様はやんわり笑みを浮かべました。
「私はエレーナと名乗っている、見ての通りただのレッドドラゴンです。うっかり仮眠してしまい、ご迷惑をおかけしました」
私は深く頭を下げました。
「そうでもありません。ここは一種の観光名所みたいになっていましてね。そのテントの中を覗いて、眠っているあなたと写真を撮れば幸せになれるとか、妙な噂まで流れるくらいです。実に愉快な事ですよ」
国王様は笑いました。
「そうですか。すっかりお邪魔してしまいました」
「構いませんよ。この国には長く滞在されるのですか?」
国王様が笑みを浮かべました。
「そうだねぇ……。名所をみるとしばらくかかるかな……」
地図を開いたジーナが、小さく呟きました。
「そうですか。ありがとうございます。しばらく旅をさせて下さい」
私は国王様に向かって一礼しました。
「分かりました。この旗竿に、我が国の国章も掲げておきましょう。これで、事実上フリーで動けますよ」
国王様は小さく笑った。
「これはまた……。ありがとうございます」
私は笑みを浮かべました。
「では、間もなく夕刻です。私はそこのログハウスにいますので、なにかありましたら見張りにでも声をかけて下さい」
国王様は小さく頷き、ログハウスの中に入っていきまた。
「さて、こっちもメシだぞ。ただ、エレーナは乾燥肉くらしかないよ。今日起きるって知らなかったから、食材がないんだよ」
ジーナが頭を掻きました。
「うん、近くの町まで乗り合いバスでも往復一日かかるから、今から買いには行けないんだよ。運良くトロキの弁当屋が通ればいいんだけどね。まだやってるみたいで、たまにくるから」
リナが笑いました。
「そうですか。仮眠開け程度なら、お腹も空いていないですし大丈夫ですよ」
私は笑みを浮かべました。
結局、トロキの弁当屋さんは通らず、私はおやつ代わりに乾燥肉を少し囓ってお酒を一口飲んで、基本的に明示的に消さないと消えない虹色ボールが溢れたテント内に入った。
ちょうど秋口らしく、夜が近くなると肌寒い感じでした。
適温に調整したテントの中はほのかに明るく、外で料理していた二人がお皿を持って入ってくると、私は出入り口のジッパーを閉めました。
「寒くなってきましたね。眠っている間に、なにが起きたか教えて下さい」
私は笑みを浮かべました。
夜も更けて少しだけ酒盛りをすると、ジーナとリナは寝袋に潜りました。
私は起きたばかりなので、二人を見守りながら、虹色ボールをコロコロ転がして遊んでいました。
「暇なのは良いことです。さて、目を閉じていましょうか……」
私が目を閉じた時、外で騒ぎ声が聞こえました。
「な、なんでしょう」
私が慌ててテントを出ると、無数の明かりの光球が浮かべられた中で、見張りの兵士たちが横一列になって槍を構え、迫り来るオークの大軍に向きあっていました。
「これはいけません」
対話どころではなさそうなので、私はいつでも攻撃魔法を使えるように、そっと心構えをしました。
オークの大軍は程なく護衛隊とぶつかり、派手な戦闘音が響き渡りました。
最初は防衛隊が押していましたが、徐々にオークの大軍に押されはじめました。
「……使いますか」
私が覚悟を決めて息を吸い込んだ時、テントからジーナとリナが飛び出し、巨大な火球を放ちました。
それがオークの大軍の中で爆発を巻き起こし、無数のオーガを吹き飛ばしました。
そこに、覚悟を決めた私が吐いたブレスが決まり、オークの大半が消し飛びました。
嬉しくはありませんが、これで少しはお役に立てたでしょう。
ジーナとリナはさらに呪文を唱え、同時に魔力光が光りました。
『……穴ぼこ』
巨大な落とし穴が出現し、オークのほとんどがそこに落とされました。
「これ、便利なんだよね。スコーンに教わって教わっておいてよかった!!」
ジーナが笑みを浮かべ、リナが笑いました。
これで、勝敗は決まったなと思っていましたが、いきなり大型の四輪駆動車がテントの前に止まり、揃って黒のパンツスーツを着て大人びてはいましたが、どこからどうみてもスコーンとビスコッティが降りてきて、間髪入れず呪文を唱えはじめました。
『……超穴ぼこ』
見渡す限り地面が陥没し、オークを全て飲み込むとたちどころに埋め戻されて、元の草原に戻りました。
「……アイル・ウィ・ビー・バック。そういったはずだよ」
スコーンがニッと笑みを浮かべビスコッティが笑い、なぜか同時にサングラスを掛けた。
「なに、本当に帰ってきたの。絶対、どっかいっちゃったと思っていたんだけど」
リナが笑いました。
「十二年間山に籠もって、魔法の開発と修行をしていたんだよ。たまたまこのタイミングだっただけだよ!!」
スコーンが笑いました。
「はい、まさか戦闘中とは。……ところで、このログハウスはまだあったのですね。国王様は?」
ビスコッティが小さく笑いました。
「うん、まだいるよ。気が長いらしい」
ジーナが笑みを浮かべました。
「そうですか。それにしても、無事に再会できましたね。あなた方こそ、どこかに行っていないかと心配していました」
ビスコッティが小さく息を吐いてから、笑みを浮かべました。
「いくわけないでしょ。約束なんだから!!」
ジーナが笑いました。
「よかったよ。気が付いたら、ビスコッティの方が使える魔法増えちゃったよ!!」
スコーンが苦笑しました。
「そうですか。無事でなによりです」
私は笑みを浮かべました。
「さて、騒ぎは収まったし、怪我人の治療をしたら寝よう。もう夜中だ」
ジーナが笑いました。
翌朝、遅めに起きた皆さんは、テント内で大きく伸びをして、テントの外で朝食を作りはじめました。
私も外に出て乾燥肉を囓っていると、変な音楽と共にピンク色の車がログハウスの前まで乗り入れて止まりました。
車体には『トロキのお弁当屋さん』と書かれ、これまた大人びたトロキさんが降りてきました。
「あっ、起きたのですね。さっそくなにか作ります!!」
トロキさんが慌てた様子で料理をはじめ、ログハウスの中にいた国王様まで出てきて、盛大な朝食パーティになりました。
「朝から活気があっていいですね」
私はご飯を食べながら、満足して呟きました。
結局、数時間かかった朝食パーティが終わる頃には、すっかり太陽は頂上に昇っていました。
片付けが終わって暇な時間になると、私たちはテントに引っ込んで今後の予定を立てることにしました。
「今度はどこに行きましょうか。分からないので、楽しみです」
私は笑みを浮かべました。
「そうだねぇ……」
ジーナが地図を開いて、頭を掻きました。
「近くに『ガンダダの滝』っていう観光地があるよ。面白くないかもしれないけど、そんなに遠くはない。今から出れば、明後日の朝には着くと思うよ」
「分かりました。そこに行きましょう。観光地になるような滝ということは、さぞかし立派な滝なのでしょう」
ジーナの言葉に笑みを浮かべて返し、私は急に楽しくなってきました。
「それ、私も聞いたことがあるよ。この国最大の滝なんだって」
リナが笑ました。
「それはいいですね。楽しみです」
私は小さく笑った。
「よし、決まったね。さっそく国王様に挨拶して、片付けして出発しよう!!」
スコーンが笑みを浮かべました。
「分かった。それじゃ、まずはこのテントを片付けよう。途中で必要になるはずだから」
ジーナの声に私を含めて全員が頷き、予想外の事態が起きましたがこうして私たちは、出発準備をはじめたのでした。
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