第10話 砂漠踏破
第二のオアシスの町が世にふける頃、賑やかな人々の喧噪を楽しく聞いているうちに、私はなんだか楽しい気分になってきました。
傍らでは、私が作った石版に書かれた呪文を研究するスコーンとビスコッティの姿があり、ご飯も食べずに頑張る二人のタフさに感心し、荷台の機関銃を手入れするジーナも手を休めず、そろそろ休憩すればという意味で、私は虚空に赤い丸を浮かべました。
「停止信号です。休憩して下さい」
私は笑みを浮かべました。
「そうだね。休憩しよう。ビスコッティ、頭痛薬ある?」
「ないです。私がみんな飲んじゃいました!!」
スコーンのパンチが、ビスコッティの顔面を……外しました。
「この、避けたな!!」
「……なんだ、今のパンチだったのかい?」
ビスコッティは不適な笑みを浮かべ、スコーンが放った無数の炎の矢をモロに食らって果てました……。
「なに、楽しそうだね」
ジーナの手伝いをしていたリナが、大声で笑った。
「うん、このバカはこの程度じゃ死なないから。さて、調子が良かったら食事にいこう!!」
スコーンが笑ってビスコッティの残骸としか呼べないものを蹴り飛ばしなら、みんなで食事に出かけていきました。
「また、楽しそうですね」
私は笑った。
しばらくなにもないまま時は流れ、眠くはないのですが軽く目を閉じて馬屋の中でじっとしていると、香ばしい匂いがして目を開けた。
「これ、私から!!」
リナが変わった食事を持ってきてくれました。
「ジャンキーだけど、焼きそばとたこ焼き。美味しかったから買ってきた!!」
「ありがとうございます。さっそく頂きますね」
食べ方をを知らなかったので、私は容器ごとバリバリ食べてしまいました。
「おお、豪快だねぇ。それじゃ、機関銃を仕上げないと……」
やや遅れてきたジーナと共に、リナは機関銃の整備を再開しました。
カチャカチャという金属音とジーナとリナが声を掛け合う中、戻っていたパステルが地図を見ながら頭を掻きました。
「この先の砂漠を抜けると、すぐに海に面した小さな町があります。そこからどうしようか悩みます」
「お任せしますが、海があるなら泳ぎたいです。可能でしょうか?」
私は笑みを浮かべました。
「はい、それは可能だと思います。泳げたんですね」
パステルが笑みを浮かべた。
「はい、海は初めてでですが、森の湖で練習していました」
私は笑いました。
ちなみに、クロールだけ出来ます。
「そうですか。海は危ないので、気をつけて下さいね」
パステルが笑って、地図になにか記しはじめました。
「ほら早く!!」
「師匠、待って下さい!!」
そこに、スコーンとビスコッティが帰ってきて、再び呪文の研究をはじめた。
「そんなに根を詰めないで下さいね。……ん」
私は魔物の気配を感じ、馬屋から出て風を感じました。
「……このニオイ。ゴブリンに近い……ホブ・ゴブリンですね」
私は目を細めた。
ホブ・ゴブリンとはゴブリンの上位種といわれていますが、やる事自体は普通のゴブリンと変わらず、無作為に破壊行為を繰り返すだけ。
しかも、進行方向から考えて、このオアシスが狙いなのは確実なので、私は荷台の大きな銃を取って、翼を空打ちしてから夜空に舞い上がりました。
「……見えました。頭にきますね」
ドラゴン故に、夜目は十分利きます。
数は百体ほどでしょうか。
私はまず呪文を唱え、集団に向かって広範囲系の爆発魔法を叩き込んで蹴散らし、残ったホブ・ゴブリンは三十体ほど。
それをもはや射撃だか砲撃だか分かりませんが、とにかく二百三十ミリ対物ライフルに数が少ない弾をを込め、一体ずつ丁寧に撃ち倒していきました。
オアシスの町が近いので、派手な攻撃魔法が使えなかったのですが、これは予想済みでした。
「間に合いますか……」
あっという間に弾切れとなり、私はかなり数が減ったホブ・ゴブリンの集団の前に立って、重たい銃を棍棒のように構えました。
剣の方がよかったかもしれませんが、これは効果がありそうなよりゴツい棍棒であると認識させて、一種の威嚇としたかったのです。
集団が迫った時、オアシスから攻撃魔法による無数の炎の矢や氷の嵐……とにかく手当たり次第といった感じで飛んできて、ホブ・ゴブリンの集団をあっという間に壊滅させてしまいました。
私は息を吐き、再びオアシスの宿の馬屋前に戻りました。
「ダメだよ、一人でいったら!!」
スコーンが私の体をベシベシ叩きました。
「そうだよ。仲間がいるんだから、少しは頼りなさい!!」
リナが苦笑しました。
「そうですね、ごめんなさい。でも、残り一体がいるんです。魔法で姿を隠しているようですが、まだ気配を感じるのです。フル武装でやる気満々の様子のジーナ、背中に乗って下さい。あと、魔法解除に詳しい方、いらっしゃいますか?」
「はい、結界は得意ですよ」
ビスコッティが笑みを浮かべました。
「では、背中に乗って下さい。私は輸送するだけにしておきます。どうにも、怪しい気配を感じた場所があるので……」
私が身を低くすると、ビスコッティとジーナが恐る恐るという感じで私の体をよじ登って背中に乗った。
「しっかり鱗に掴まっていて下さい。飛びますよ」
私は翼を空打ちしてから夜空に舞い上がり、地面すれすれの低空飛行で怪しい気配の元に近づいていきました。
ここだっという場所をみつけると、私は地面に降りたって身を低くしてジーナとビスコッティを下ろし、サポートで勝手に連れてきたスコーンとリナを両手からそっと降ろしました。
「まずはビスコッティさん、お願いします」
ビスコッティは頷くと呪文を唱え、辺りに光りが散りました。
まるで幕を開けたかのように、周囲の景色に溶け込んでいた最後のホブ・ゴブリンの姿現れ、ジーナが即刻アサルトライフルでうちのめしました。
「あとは大丈夫ですね。ありがとうございます」
私は笑みを浮かべました。
「この程度なんともないよ!!」
ジーナが笑いました。
「では、帰りましょうか。気分が良くなったので、ちょっと飛びましょうか」
私は笑みを浮かべ、危ないので四人を二人ずつ両手でそっと掴み、夜空に舞い上がるといわゆるアクロバット飛行をしばらく続け、心に生まれた敵愾心を抜きました。
こうでもしないと、イライラしてどうにも困った事になるので、一種の気分転換です。
しばらく遊んだあと私はオアシスに戻りましたが……両手で掴んでいた四人は全員気絶していました。
「あっ、やり過ぎてしまいましたね。しばらくゆっくりした方がいいと思います」
私は馬屋の床に四人を寝かせ、申し訳程度ですが回復魔法を使いました。
やってしまってからなんですが、これがトラウマにならない事を願います。
翌朝早く、私たちは支度を調え、出発準備をしていました。
新しく同道の車両が二台追加され、扉も屋根もあるけれぢエアコンはないと聞いて、例の虹色に光る光球を車内にばら撒いておきました。
タープはパステルから借りたまま荷台を覆い、こちらも虹色の光球で埋め尽くすと、ジーナとリナが乗り込みました。
三台の車が轟音を上げて宿を離れると、町の出入り口で隊列を整え、ここから約四十キロ先の砂漠を抜けた先にある町を目指して走り始めした。
ちなみに、一号車は道案内役のパステルが乗った四人、二号車はビスコッティが運転する、万一の戦闘になった場合の先鋒として活躍してもらおうと考えている、魔法使い部隊。 そして、私の車の後にはカレンさんとセリカさんが乗った車がつき、あとはバスとトラックが続いていた。
「頑張れば今日中に砂漠を越えられるでしょう。いきましょうか」
出発のクラクションを鳴らそうとしたとき、私の車に横付けして、珍しくエルフの二人が乗ったバギーのような車が現れました。
「私たちも同行していいですか。途中で砂嵐に遭って酷い目をみたので、今度は油断しないで仲間と移動したくなったのです。助手席にいるのは娘のパトラで、私はその母です。色々な名前で呼ばれているのですが、お母さんとお呼び下さい」
お母さんは、にこやかな笑みを浮かべた。
「分かりました。別にお金を頂いているわけではないのですし、私としても歓迎します。身軽そうな車なので、三号車として私の前について下さい」
私が笑みを浮かべると、お母さんとパトラを乗せたバギーが前についた。
「では、いきましょうか」
私がアクセルを踏みこむと、前の三台が動きだし、私は歩調を合わせて車を進ませはじめた。
町の旗竿に掲げられていた旗は赤と黄色に塗り分けられ、その下に黄色の旗も上がっていた。
聞いた話によると、これは『砂嵐の予報だが、小規模なので進行に注意すれば問題ない』という意味らしいです。
「砂嵐ですか。気をつけなければなりませんですね。そういえば、無線の設定を調整してもらいましたね……」
私はチーム全体の各人から、全体宛てにプリセット……というらしいですが、あらかじめ周波数が設定されたボタンを押して、全体に切り替えました。
恐らく、基本はここになるでしょう。
「あっ、お母さんとパトラさんはどうするのでしょうか。チームに入るなら、あとで設定を増やさないと……」
私は前にいるバギーに、例の多機能虹色光球を何個か放り投げて暑さを凌いでもらう事として、砂の大地を快調に進んでいました。
すると、一瞬日を遮って隊列の前に青白いドラゴンが降り立ちました。
「皆さん、アイスドラゴンさんです。攻撃しないで!!」
私は慌てて無線で叫んだ。
車を降りて真っ白なドラゴンにに頭を下げると、向こうも頭を下げた。
「あの、こんな暑い場所で大丈夫ですか?」
アイスドラゴンさんは通常は深い洞窟の中に住み、自ら氷を生み出して眠る冷たい場所を好むドラゴンで、まだ幼生と分かりましたが、こんな場所にきたら暑くて死んでしまうかもしれません。
「あの、大丈夫ではないです。洞窟を探していたら、こんな場所に出てしまっただけ……死にそうに暑いです」
それだけいううと、アイスドラゴンさんは倒れてしまいました。
「まずいです。近くに崖でもあれば……」
私は辺りを見渡すと、はるか遠くに見える砂に埋もれた崖を見つけました。
私は迷う事なく二百三十ミリを構え、予備弾としてキープしていた弾を込め、迷うことなく崖に向かって放った。
崖に巨大な穴が空き、さらに何発か撃ち込んで洞窟を深くすると、体になにかの文様が浮いたアイスドラゴンさんをみて、触っていいか悩んだ。
「ああ、それは間に合わせの呪縛です。動かせば取れますよ」
お母さんが笑みを浮かべた。
私がアイスドラゴンさんを抱えると、確かに文様が消えた。
急いで作った洞窟に飛んで運ぶと、意外に深く掘れた洞窟の奥にアイスドラゴンさんを置き、魔法で大量の氷を作って冷やし、私は満足して洞窟をでた。
本来、卵から生まれた子供が羽ばたいていけば、あとは誰の助けもなく生活しなければならないので、これは反則行為でしたが見逃せますか?
そんなわけで、アイスドラゴンさんに幸運を祈りながら車に戻ると、私はクラクションを一回鳴らし、隊列はゆっくり進んでいきました。
あと四十キロ。
長いような短いような距離も終盤を迎え、予報されていた砂嵐にも遭わず、程なく見えてきた緑の大地が眼前に広がってくると、私はホッとため息を吐きました。
砂漠の出入り口になっているような町が見えてくると、クラクションを鳴らしてバスとトラックが速度を上げて追い越していきました。
「私たちも一休みですね」
青旗が揚がっている町をみて、私たちは町の中に入りました。
まだ日は高かったですが、みんなお疲れの様子なので、早めに宿を取りました。
どこにでもあるようで、かつての馬屋に入ると、私は中に収まって一息吐きました。
「さて、砂漠の大旅行も終わりましたね。少し休みましょうか」
私は軽く目を閉じ、少しだけ仮眠を取ることにしました。
さて、海で泳げるでしょうか。
可能かどうかまだ分かりませんが、今から楽しみでした。
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