第6話 たまには不機嫌
翌朝の天気は雨でした。
朝から雷を伴うような土砂降りをみて、私は洞窟を掘って深くして、身を完全に隠せるようにしてから、雨宿りしながら外を眺めていました。
先に進もうとすれば可能ですが、なにも無理して急ぐ旅ではないので、雨があがるのを待つことにしたのです。
「まあ、これも旅ですね」
私が笑みを浮かべた時、例の六人組が乗った車が猛スピードで、アルスさんの街の方に向かっていきました。
「あ、危ないですね。一直線の道とはいえ、今度会ったらお仕置きしないとだめかもしれません。それこそ、ビシバシして」
私は笑って、身をよじって洞窟に完全に身を埋め、雨が止むのを待ちました。
雨はなかなか止む気配がなくやる事がないので、私はせっせと洞窟を掘り進んで迷宮のようなものを作り、最奥部に鱗を二十枚置いて満足して、そのまま戻ってまた洞窟の入り口に陣取って小さく息を吐きました。
「これは、ここで足止めですね。困りました」
私が呟きしばらくすると、勝手に虹色コレクションと名付けた、あの剣を持った六人組が私の目の前に車を止めました。
「ん、なんでしょうか?」
私が洞窟から出て立ち上がると、一人の女の子が素早く動き、私の手を切りつけました。
自慢の鱗が二枚吹き飛びましたが、なかなか強力な武器のようです。
これは大問題なので、私は彼女たちが乗ってきた車をベちっと踏み潰しました。
かかったままのエンジンが爆発を起こし、車は跡形もなく粉々になりました。
「あっ、車が……」
誰か一人が呟くと、私はニヤッと笑みを浮かべました。
「……背後ががら空きだぜ。お嬢さん」
……ごめんなさい。どうしても、こういう風にいってみたくなったので。
彼女たちが逆上して総攻撃される前に、私は尻尾で軽くなぎ払って道を空け、自分の車に乗り込み、そのまま逃げ去りました。
「全く、私で試し斬りしないで欲しいですね。気持ちは分かりますが……」
私は雨の中、快調に進んでいきました。
小さな森の中を抜け、次の雨宿り場所を探しているとルームミラーに、背後か猛速で迫ってくる、自転車に跨がった六人組の姿がみえました。
「なかなか速いですね。では、こちらも……」
私はアクセルを限界まで踏み込のですが、恐ろしい勢いで迫ってくる六人組は、ついに攻撃魔法を放ちはじめました。
「……先に手を出したのは、あなたたちですよ」
私は目を細め、呪文を唱えた。
「……光の矢、改」
私の背中から極太の光りが放たれ、自転車軍団の真ん中に突き刺さって……それだけだったが、みんな一斉に転けてしまいました。
「ただのこけおどしです。また遊びましょう」
私は笑って先を急ぎました。
しかし、先ほどの六人組は体勢を立て直し、殺気すら放ちながらまた接近してきました。
「……隙あり。スコーン、ビスコッティ、パステル、クランペット、ナーガ、シルフィですか。これで、名前が分かりました。それで十分です。是非ともお友達になりたいのですが、攻撃しか手段がないなら、こうしましょうか」
私は車を一回止めて超新地旋回でくるっと向きを変えました。
急いで車を降りて積んでおいた二百三十ミリ対物ライフルを取りだし、上空に向かって威嚇射撃をしました。
発砲時の爆風で自転車が残らず吹き飛び、全員が気絶してしまったようでした。
「きっと、またくるでしょう。こうしておきましょう。驚くでしょうね」
私は道にサモンサークルを描き、呪文を唱えた。
……あまたの流れる精霊よ。猛り狂う炎よ。これを統べる赤き者よ。今ここに顕現し、我に立ちはだかるものを討ちよ。
「召喚、イフリート!!」
私の声と共にサモンサークルが光り、現れた炎をまとった異形が私に頭を下げた。
「攻撃はダメですよ。おちょくってくださいね」
私の声に頷き、イフリートは道に立ちはだかると、ヨロヨロと立ち上がった自転車軍団の周りを取り囲むように、炎の壁を作ったり消したりしながら、ついには笑いはじめた。
「サモンサークルが消えるまで約二時間。これで、少しは距離が稼げるでしょう」
私はまた超新地旋回でくるっと向きを変え、道を走りはじめました。
道をいくうちに、コンとなにかが体に当たりました。
沿道を見渡すと、巨大なクロスボウを撃ったばかりという感じの人と、へっぴり腰で剣を構える人と……総勢十名の人たちが私を目がけて攻撃しているという感じでした。
「よくいるドラゴンハンターですか。いかにも素人臭いですね。しかし、のちに
ドラゴン族の危機になるといけません。ここは始末しておきましょうか」
ドラゴンを倒して一攫千金を狙う冒険者が、いわゆるドラゴンハンターです。
今のままではとてもそうは見えませんが、これが経験を積んで一流になると厄介なので、早めに芽を摘んでおくべきでした。
「……これが、冒険者を選んだ結果です。手加減はしませんよ」
私は目を細め、攻撃魔法を放ちました。
大きな火球が地面に触れた途端爆発し、全員がバラバラになって吹き飛びました。
「全く、気分が悪いですね。雨の日はロクな事がありません」
私は小さく息を吐き、先に進みました。
道は小山を登り、目の前に迫ってきたトンネルを精一杯身を下げてなんとか通り抜け、なんとか通り抜けると、次の街が見えてきました。
見えてきた門には、赤い旗が二つ掲げられていました。
「あら、嫌われてしまいましたね」
私は苦笑して、街を迂回して進みました。
赤い旗二つは、『近づくな。迎撃する』という、完全拒否の合図でした。
そんな街に私も用はない……というか、ただ騒ぎになるだけなので、無理強いしてもいいことはありません。
再び道に戻り走っていくと、迂回した背後の街で爆音が響きました。
『アトラスシティより各位、中央ジェネレータが爆発炎上した。死傷者多数。応援を求む!!』
基本的に『非常』に設定している無線に、悲痛な声が飛び込んできました。
続けて爆発がおき、もう非常無線でさえ大混乱になる最中、私は引き返す事なく先に進んでいきました。
そこまでお人好しでない事もありますが、近寄るなといわれた以上戻る気はありませんん。
赤旗二本が示すところは、全部自分でやるという意味も含んでいたからです。
「さて、次は大丈夫でしょうか……」
呟いた時、私は気配を感じて防御魔法を使いました。
結界壁に炎が散り、どこで用意してくるのか分かりませんが、いつもの六人組がオフロードバイクで、ちょっとした崖を走って登って飛び出してきた。
バイクを横倒しにして止め、あっという間に体勢を整えた六人組が一斉に攻撃してきましたが、私は片っ端から指でペチペチ弾き飛ばし、気絶した六人を荷台に乗せ、その場から離れました。
しばらくして、背後の街で大爆発が起き、ここまで爆風がやってきましたが、特に問題はありませんでした。
「……また一つ、街が消えた。なんてね」
私は笑みを浮かべ、快調に車を進めていきました。
私だって、機嫌が思わしくない。そんな時もあります。
私は小山を降りたところで車を止め、変な事をされないように積んでいた六人をワイヤーで縛り、口に防水テープを貼って黙らせ、私は長い旗竿に青い旗を追加しました。
これは、どうしても寄りたいので、受け入れて欲しいという意味でした。
やがて街が近づいてきて、門に青い旗が二つと赤い旗が上がりました。
これはぜひ寄ってくれ、但し片付けるから待って欲しいという意味でした。
私が車を止めると、背後の六人が目を覚ましたようで、なにかもごもごいいながらジタバタしはじめたので、足もワイヤーで縛って六人をくっつけ、私は笑みを浮かべて前を見つめました。
やがて赤い旗が降りて門が開き、私はゆっくり車を門の中に進めました。
「どうです、私の手で遊ばれる気持ちは。こうしてみましょうか」
私は笑って、纏めた六人を口に入れてみました。
そのまま飲み込むと、私はドラゴン印の下剤を飲んで笑いました。
六人にはこっそり最強クラスの防御魔法を張っておいたので、消化される事はないですが、さぞかし気持ち悪いことでしょう。
「さぁ、最低でも六時間は出られませんよ。これがやりたかたのです。たまには、苦労を味わってもらいましょう」
私が小さく笑みを浮かべると、町の人たちが集まってきました。
「お噂はかねがね。話に聞いていましたが、確かにインパクト十分ですな。申し遅れましたが、私はヘルツ。この町の代表です」
前に出てきたおじさんが頭を下げました。
「これはご丁寧に。私はエレーナと名乗っています」
私も深く一礼しました。
「そうですか。この町はこれといって特色がありませんが、名物はお汁粉と温泉です。特に温泉はお勧めです。ぜひ……屋根は取ってあります」
ヘルツさんの言葉に私は頷き、私は喉をコンと叩いて飲み込んでおいた六人を吐き出しました。
「これは、このままでいいので置いていきます。全員放心状態ですが、適当にあしらっておいて下さい。ちなみに、その青い結界は約十二時間後に解けます。触ると危険なので、放っておいてください。では、その温泉とやらに……」
「はい、分かりました。では、こちらに……」
アルスさんの案内で、私は巨大なプールのようになっている場所に近づき……やはり気になって、結界でボール状になった六人を抱えて湯船に浸かりました。
ちゃんと勉強して、これが人間の入浴スタイルだと知っていました。
結界ボールをお湯に浮かべて、時々沈ませてみたりして遊んでいると、いい香りのするお汁粉が人数分運ばれてきました。
私はお礼をいってそれを受け取り、結界の一部に穴を空けて、熱々のお汁をせっせと食べさせてから、私の小さな器に盛られたお汁粉を食べました。
ほのかな甘みと小豆の香りが心地よく、どこかささくれだった私の気持ちを落ち着けてくれました。
「あと、お酒がありますが、運転ですよね?」
ヘルツさんが笑みを浮かべました。
「はい、私は大丈夫ですが、こっちの六人は飲むかもしれません。やってみましょう」
私はお酒の瓶を受け取り、結界に手を入れて酒瓶を回して勝手にガンガン飲ませました。
「さて、どうでしょうね。邪魔でしょうし、面白いのでこのまま持っていきましょうか」
私は結界ボールにさらに結界を張り、湯船からそっと上がりました。
「いいお湯でした。これは持っていきますね」
私は車に戻り結界ボールを荷台に積むと、さらに結界で包んでアルスさんの元に行った。
「ありがとうございました。モヤモヤしていましたが、スッキリしました」
「はい、顔にイライラが見えたのでご案内しました。おしっこを漏らしていますし、その六人は解放した方がいいと思いますよ」
ヘルツさんが笑いました。
「分かっています。遊びで結界だらけにしてみました。これで、私で遊ぼうとは思わないでしょう……しばらくは」
私は笑って結界を解き、ワイヤーを解いて六人を自由の身にして、放心状態の彼女たちを車から一人ずつ摘まんで降ろし、車に乗って走りはじめました。
町を出ると、私は雨の道を進んでいきました。
「はぁ、これで嫌な思いはなくなりました。雨の日は長距離移動するものではありませんね」
私は苦笑して、いわゆる魔物も眠るような大雨の中、車をひたすら走らせていきました。
しばらく進むと、道端でテントとタープという収納出来る屋根を張っている人を見つけたので、車を止めました。
テントをチラッと覗くと、いつぞやのトロキが一人で料理を食べていました。
「ぎゃあ、いつかのドラゴンさんだ!?」
トロキは料理を床に置いて、慌てた様子で土下座した。
「はい、お久しぶりです。また、私を味わいますか?」
私は笑って鱗を一枚千切って、タープの下に置きました。
「今度はお一人ですか。これで、スープが出来るとも聞いています。作って下さいね」
私は笑みを浮かべました。
「はい、三日煮込んだらスープの出汁は完成です。これに調味料を加えて一時間煮込めば、ドラゴンのコンソメスープが出来上がります。超高級料理ですよ」
トロキが笑みを浮かべました。
「置いていきますので、調理して下さいね。私は進むので」
私は車を走らせはじめました。
「まさかの出会いでしたね。これも、旅の醍醐味です」
しばらく進んでいくと分岐点が現れ、私は車を止めて地図を見ました。
「右は砂漠、左は草地の後に小さな町……。砂漠に向かいますか。せっかくなので」
地図には砂漠に作られた道もあり、定期バスも通っていると記載がありましたが、危険地帯なので、準備は怠らずにする事とも記載があった。
「私は水も食料も数百年に一回あればいいのですが……。興味がありますね」
私は車を砂漠方面に向け、どんどん強くなる大雨の中砂漠へ通じる道を進んでいったのでした。
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