第5話 船旅から続く……

 軽く寝ているうちに船はゆっくり進んでいて、聞こえてきた船内放送で対岸までは約二時間かかる事を知っていました。

「相変わらず人間の時間は分かりませんし、太陽もみえませんね。まあ、任せておきましょうか」

 私は笑み浮かべた。

「やはり、時計とやらを買っておいた方がいいですね。正確な時間が分かりません」

 私は次の町で私を受け入れてくれるなら、そうしようと思いました。

「楽しみですね。空を飛んでは、この楽しみは手に入らなかったでしょう」

 私は小さく笑った。

『同じ船だよ。よくみえる!!』

 無線機からどこかで聞いた六人組の一人の声が聞こえました。

 慌てて辺りを見回しましたが、車両に囲まれてどこにも姿が見えませんでした。

「お、同じでしたか。また、なにか仕掛けてくるのでしょうか……」

 船が壊れてしまったら一大事なので、私は神経を研ぎ澄ませました。

「……いた、あそこに」

 私は六人組が乗っている二台の小型自動車を発見しました。

「隙あり、一人の名前は分かりました。クランペットですね」

 私は小さく笑みを浮かべ、『トラクター』の呪文を唱えました。

 これは、なにかを牽引する魔法です。

 その力を使って、私は六人を引き寄せて手の上に乗せました。

「……な、なに?」

 ポカンとしている面々の中で、唯一喋れたのは買い取り屋さんでした。

「なんでもありません。船の中で暴れられたら危ないので、あなた方の身柄を確保しただけです。お詫びにこれを差し上げます」

 私は竜鱗を三枚むしって買い取り屋さんに渡しました。

「か、買い取るよ。ビスコッティ、いいでしょ?」

「……名乗るな。ビシバシします!!」

 買い取り屋の助手っぽい人が、その一人の顔をビシバシ引っぱたきはじめたので、私は慌ててしまいましたが、慣れているようで買い取り屋さんは笑顔で私の鱗を手に抱え、札束をポンポン放り出して、私の手の上に乗せました。

「はい、いいですか。船内では暴れないで下さいね」

 私は笑みを浮かべ、六人組を開放しました。

 床を走って自分たちの車に乗った六人組に笑い、私は前を向きました。

 こうして、初めての船旅は続きました。


 それなりに時間は過ぎ、やがて船が反対側の船着き場に着いたようで、正面の扉が開いて車を留めていたワイヤーが解かれ、私は誘導に従って船から車を降ろし、その先の道を走りはじめました。

 天気は良好で気持ちいい風が吹く中、私は前方に見えてきた大きな街に向かって行きました。

 途中で商隊というのでしょうか、小型トラックの隊列の脇を通ろうとした時、声が聞こえたので、私は車を止めました。

「なんでしょうか。敵意はなさそうですが……」

 私が様子をみていると、先頭を走っていたトラックから人が飛び下り、こちらに向かって歩いてきました。

「またすげぇな。まあ、俺たちは相手が誰だろうと商売する。入り用なものはあるか?」

 トラックから降りてきたおじさんが笑みを浮かべました。

「はい、後ろの重機関銃の弾が尽きそうなので、それを適当に補充する事と時計が欲しいです。さすがに二百三十ミリの砲弾はないと思いますが、ありますか?」

 私は頷きました。

「よし、お安いご用だ。まず、機関銃の銃弾と時計だな。まあ、ちょっと二百三十ミリはねぇが、そういうのが得意なやつがいる。実物があれば、出来ると思うがあるか?」

「はい、これです。重たいですよ」

 私が二百三十ミリの砲弾を手にすると、おじさんが手で合図して屈強そうな男性たちが四人トラックから降りてきて、重たい砲弾を運んでいきました。

 その間におじさんが時計を運転席前のダッシュボードに取り付け、荷台に木箱を積みはじめました。

「ところで、金はあるか。竜鱗でもいいが、基本的には現金取引なんだ」

 おじさんの言葉に頷き、私は貴重品ボックスから札束を二つ取りだして、おじさんに渡しました。

「おいおい、いくらなんでももらいすぎだぜ!!」

「私の気持ちも含めてです。収めて下さい」

 私は笑みを浮かべた。

「そうか、これだけ高額だとお釣りはだせねぇぞ。こっちには、こんな金がないぜ!!」

「お釣りは不要です。そのまま収めて下さい」

 私は小さく頭を下げました。

「よし、分かった。その分の仕事をしよう。おい、意地でも二百三十ミリの砲弾を作れ!!」

 おじさんが叫び、しばらくして一発の砲弾が運ばれてきました。

「取りあえず、試作品が出来たぜ。一発試し撃ちしてくれ!!」

「ありがとうございます」

 私は砲弾を受け取ると、荷台の二百三十ミリ対物ライフルに装填して、空き地に向かって引き金を引きました。

 発射された砲弾は以前より確実に長く飛び、みえないとこまで飛んでいきました。

「これ、凄いですね。これで満足なので、運べるだけ作って下さい」

「分かった。一回作れば後は同じ要領だ。少し待ってくれ」

 おじさんに頷き、私は後続車両がきても大丈夫なように、道端に車を移動し、砲弾が出来あがるのを待ちました。

 しばらくすると、次々と砲弾が荷台に運びこまれ、私は頷きました。

「いやー、さすがにビッグな客だぜ。値切らねぇしな。それじゃ、またな!!」

 おじさんが笑顔で先頭のトラックに乗り、商隊のトラックたちが走りさっていくと、私は車を道に戻しました。


 補充するものを補充したあと、私は街に向かっていきました。

 大きな門が見えてくると、予想に反して青い旗が掲げられました。

 私は白旗と国王様から捧げられた旗がついた旗を振り、閉ざされていた門が開く中、ゆっくりと車を走らせました。

 完全に開かれた門を潜って街に入ると、綺麗に片付けられた道に青と白のランプを屋根に乗せた車が一台前方にいて、ゆっくり走りはじめました。

「ついてこいという先導でしょうね。恐縮です」

 私は一礼して、先導の車に続いて車を走らせました。

 道端には人だかりが出来てしまいましたが、これにはもう少し慣れました。

 先導に続いて進んでいくと、煙突から時々煙を吐く大きな工場のような建物の前で止まりました。

『こちら先導車。これは非常用チャンネルなので、無線のチャンネルを変えてください。7でお願いします』

 私は無線機に並んだボタンのうち、『7』を押しました。

「はい、変えました」

『無線の感度は良好です。ここでお待ちください』

 私は思わず頷き、轟音を立てているエンジンを止めました。

 しばらくすると、建物から屈強そうな男性が現れ、私に向かって頭を下げました。

「いや、すまんな。私はここの工場長兼町長のアルスという者だ。いきなりで恐縮だが、竜鱗を何枚か分けて欲しい。この街は鉄鋼業が盛んでな、ここは主に生産された鋼から武器を生産している工場だ。より強靱な武器を作るために、目をつけていたのが竜鱗なのだが、そんな高価なものを購入予算はない。頼めないか?」

 アルスさんは深く頭を下げました。

「お役に立てるようなら構いませんよ。私こそ、向かい入れて下さって感謝しています。とりあえず、十枚ほどでいいですか?」

 私は鱗を十枚むしって、石畳の上に置いて笑みを浮かべました。

「こ、こんなに……」

 アルスさんが焦ったように声を上げ、私は笑みを浮かべました。

 ちなみに、竜鱗は鎧のような大事なものなので、失われても即時再生します。

 ちぎっても痛みはないので、私は特に困りません。

「お役に立ちましたか?」

「あ、ありがたい話だ。敷地内で待っていてくれ!!」

 工場から多数の人が出てきて、私が置いた鱗を運んでいき、それが終わると先導車がゆっくり動きはじめた。

『敷地内の駐車場に案内します。ついてきてください』

 先導車に続いて広大な工場の敷地に入り、転々と車が止まっている駐車場に車を駐め、ました。

「さて、なにが出来るのでしょうか」

 私は時計をみてワクワクしていました。

 時間は十五時半。日が少し傾いてきましたが、急ぐ旅ではないので、私は武器の完成を待つことにしました。


 一晩駐車場で夜を明かし、早朝から工場が稼働をはじめている事が分かりました。

 太陽が昇ってしばらくして、外が明るくなる頃になって、アルスさんと数名が私でも一抱えはあるほど巨大な剣を持って出てきました。

「いや、加工に手間取ってな。噂に聞いた通り竜鱗は固い!!」

 アルスさんが笑いました。

「これは立派な剣ですね」

 私は笑みを浮かべました。

「ああ、これはお前さん専用だ。試作を兼ねて作ってみたが、おかげで加工方法が分かった。ちなみに、これは試作じゃないぞ。全職人の希望で打ったものだ」

 アルスさんはその刀身が虹色に輝く剣を、私の手に握らせてくれました。

「これはちょうどいいです。人間用の剣では、どうしても使いにくくて……」

 私は笑いました。

「そりゃそうだな。まあ、お礼として受け取ってくれ。十分に竜鱗があるからな。これから量産に入る。助かった」

「そうですか。では、これは剣のお礼です」

 私は鱗を三十枚むしって、駐車場に置いた。

「お、おいおい、もらい過ぎだぞ……」

 アルスさんの顔色が、青白くなってしまいました。

「役立ててくださるようなので、たくさん置いていきます。あの、お願いなのですが、そろそろ体を洗いたくなってきました。水浴びで構いませんので、どこかにそういう場所はありますか?」

 基本的に体など洗わなくていいのですが、人間社会を旅するので、あまり汚いのはよくないと思ったのです。

「よし、ここで洗おう。まだ、朝で機械を温めているところだ。全員でやれば、すぐに終わるだろう」

 アルスさんが無線機でなにやら指示を出すと、工場から太いホースが引かれて、大勢の職人さんたちが出てきました。

「火災に備えて放水装置があってな。それを繋ぎ変えて、炉の余熱で温めるようにした。もしかしたら熱いかもしれんが、その場合はいってくれ」

 アルスさんは、待機している職人さんたちに合図を出ました。

 ホースから勢いよくお湯が噴き出し、私は車から降りてそれを浴びました。

 特に熱くもなく、むしろ気持ちいいくらいでしたが、ファイヤドラゴンの異名を持つ私なので、人間が被ったら大やけどかもしれません。

 それが終わると、今度は全員で洗剤をかけ、デッキブラシで私の全身を擦り洗いしてくれました。

 仕上げに再び熱湯を吹きかけて、全身の泡を落としてくれました。

「悪いが乾燥までは出来ない。これで大丈夫か?」

 アルスさんが笑みを浮かべました。

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

 私は笑みを浮かべました。

「しかし、すっかり世話になっちまったな。この竜鱗は大事に使わせてもらうぜ。もういくのか?」

「はい、急ぎの旅ではないですが、あまり町中にいると目立ってしまうのでいきます。私の首を狙う連中が押し寄せるかもしれません」

 私は頷きました。

「そうか、残念だな。なにかあったら、チャンネル16で無線を入れてくれ。俺に直接話しが出来るからな」

 アルスさんが笑いました。

 私はお辞儀をして、隣のスペースに駐まっていた先導車の後に続いて、町中をゆっくり走りはじめました。

 特に支障なくそのまま反対側の門に着くと、クラクションを一回鳴らして先導車が脇道に逸れ、私は門を潜ってその先の道を走りはじめました。

「よい仕事ができればなによりですね。さて、いきましょうか」

 私はアクセルを踏み込み、いつの間にか海岸から山に向かって走っていた道を走らせました。

 それほど急坂というほどではなく、道の幅も十分余裕がありましたが、この先どうなるか分かりません。

 無線のチャンネルを『非常』に切り替えて進んでいきました。


 山道を走っていくうちに、道幅はどんどん狭くなり、普通の車でもすれ違いは難しいだろうという感じになりました。

「嫌な予感が的中しましたね。急いで抜けましょう」

 所々に待避所があるとはいえ、これは大問題でした。

 しばらく進んでいくと、こちらが見えたのか、反対側の待避所に車が一台止まっていました。

 私は手を挙げてそれに応えぶつかるスレスレで通過し、そんな事が何回も続き、申し訳ないのとストレスが溜まっていきました。

 こんなところで、いわゆる魔物なんて出たら、思わず手加減しないで攻撃してしまったかもしれません。

「はぁ、疲れます……」

 その山道も無事越えて下山すると、平和な草原地帯が現れ、溜まったストレスを緩和してくれました。

 疲れてしまったので、途中で見かけたお茶屋さんの脇に車を駐め、中を覗き込むようにすると、中で働いていた人たちが固まってしまいました。

「旅の者です。害意はありません。少し休憩させて下さい」

 お店の人が無言で頷き、私は笑みを浮かべて体を引いて、車に戻戻りました。

 しばらくすると、お店の人が大きな団子が刺さった串とバケツを持って近寄ってきました。

「こ、これどうぞ。お茶はバケツで申し訳ありません。使っていないもので、ちゃんと洗いましたので」

「ありがとうございます。お代はこれで必要な枚数を抜いてください」

 私は貴重品ボックスからお札の束を取って渡しました。

「わ、分かりました。これでも、頂きすぎですが」

 お店の人がお札を一枚取って、残りを私に返してくれました。

「さて、頂きましょうか」

 私は大きな団子を囓り、バケツのお茶をゆっくり飲みはじめました。

 時刻ははや十八時前。そろそろ寝床を探してもいい時間でしたが、私はしばしゆっくり過ごし、疲れを癒やしました。

 最後にバケツをお店の前に置き、私はごちそうさまと挨拶をしてから車に乗り込み、本格的に寝床の確保をする事にしました。

 しばらく進むと、小山に開いた手頃な洞窟を見つけ、私は車を止めて中を確認しました。

 そこは、私が住処としていた洞窟と同様に、そこそこ広くて奥が浅いという、親しみやすい空間でした。

「ここでいいでしょう。車を止めるスペースもありますし」

 私は道端のスペースに車を駐め、洞窟の中に身を収めました。

「さて、今日は平和でしたね。戦いばかりで困っていたので、ちょうどいいです」

 私は小さく笑い、沈みゆく太陽を見つめたのでした。

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