第3話 展翅3

 *


 〜君のためにできること〜




 まるで僕の返事を聞くのを恐れるように、言いすてて逃げていった君。


 君の背中に翼はないから。

 君は誰も信用しない。


 愛なんてで、おろか者の描く幻想にすぎない。


 君のなかでは、世界は醜く、暴力的で、生きていくのはツライこと。


 でも、君は泣いたよね。

 夢におびえて、とびおきた真夜中。

 僕の腕のなかで、うばわれた翼のカケラを必死に探したよね。


 君はもう一度、飛びたかったんじゃないの?

 誰かを信用したかったんじゃないの?


 君は笑ったよね。

 僕といっしょに試験勉強をしてたとき。

 デザートのお菓子をこっそり盗んで二人で食べたとき。

 屋敷をぬけだして、水車小屋で抱きあったとき。

 星を見あげて、ささやきあったとき。


 僕は幸せだった。

 君に愛されていることを、いつも実感していたから。


 だから、君にもわけてあげる。

 この幸福な想いを。


 僕は君のために、今、ここで死ぬ。

 “愛”を証明するために。


 きっと君は苦しむだろう。

 あのときの言葉を後悔するだろう。


 知ってるよ。

 ほんとは君も「愛してる」と言いたかっただけなんだ。


 どうか、自分を責めないでほしい。

 僕はそんなことのために死ぬんじゃない。


 君に愛を信じてほしいから。


 僕はこのために生まれてきたんだと思う。

 君と同じ時代、同じ国に生まれたことを、神に感謝する。君と出会えたことを。


 もう眠くなってきた。

 体じゅうの血がぬけだしていく。


 おやすみ。

 そして、さよなら……。




 僕は、君の心を展翅てんしする。




 了

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