現代世紀末短編「地下鉄世界の僕」

西城文岳

本編

 2051年を生きる僕が産まれた時にはもう世界は既に滅んでいた。僕が産まれる十年前の2031年に核戦争?化学兵器?ぱんでみっく?僕には何のことだかわからないが叔父曰く大戦の影響で外はとても危険だと言った。時折叔父は外に行って何かを持ち帰ってくる。変な動物やよくわからないスクラップ、何かの雑誌など色々。僕はその物品を見て育ってきたしそれら戦前の遺産というものを教えられてきた。何かやけに配線が絡まった銃だとか謎原理で光る謎の機械だとか僕にはわからないものだらけだが。

 だが叔父は僕が二十歳を超えた時から帰って来なかった。僕は両親の遺影に手を合わせて自宅のバンカーを飛び出した。僕が居ない間は弟が農家の仕事を続ける。叔父を探してバンカーを飛び出したはいいが世界は叔父が見せてくれた写真の世界と違い大地はひび割れ、海は渇き、外はガスマスク無しでは呼吸がままならない。叔父のくれたスマホとやらには僕と弟、両親、叔父の5人の写真があった。

 叔父はスタルカ―と言う組織に属していて僕が産まれる前から外に出ていた。彼らはバンカーの人間との交流や取引、戦前施設から物資を回収する。だが外は外気以外にも危険は付いてくる。異常に体が変異した自然生物、錆び付き朽ちた建物、変異した植物の発する有毒ガス、そして


「いたぞ!スタルカーだ!」

「また野盗かよ……」


 木々の隙間から粗末な刃物を持った人間が数人掛かりで飛び出す。ナイフを突き出してくる男の腕を掴み肘に膝蹴りを食らわせへし折る。手斧を振りかぶる男に振り下ろされる前にナイフを持っていた男を盾にし攻撃から身を守る。


「な!卑怯だぞ!」


 数人掛かりで一人を襲う奴らが言うのか。

 僕は斧を構えた男ににじり寄る。十分な距離に近づいたところで盾を突き飛ばし斧男をなぎ倒す。そして両者が起き上がる前に側転により勢いを付けた両膝蹴りを叩き込み気絶させる。こんなもんだ。


「さて、近くにアジトがあるな」




 彼らは大体バンカーや人が住めるようになった天然洞窟を根城にしている。野盗のバンカーはスタルカーにその情報が伝えられた時点で彼らの周辺は危険地域として他のバンカーに知らされる。そして投降したもの以外全員殺され物資を粗方持っていく。まあ投降したら過酷な肉体労働と不味い飯しかないが。


「か、金か?水か?そ、それと食糧か?武器もある。弾もあ、あるから…ここ、殺す、なんて言わないよな?助けてくれ!ここら辺はでかい虫が多くてまともな仕事が出来ないんだ!」


 情けない声を出す野盗のボス。ここのアジトはしけてる。野盗なんてするのだから大層な武器があるかと思ったが今持っているリボルバー以外は刃物しかない。


「問答無用で人を殺してきた野盗風情がよく命乞いが出来たものだ」


 そう言って僕はリボルバーの撃鉄を上げる。


「待って!」


 僕はためらわず引き金を引いた。


「あちゃー。なんで待ってくれないのよ」


 そう背後から話しかける人物に振り返る。


 声をかけた人物は僕と同じくらいの歳のポニーテールの動きやすいウィンドブレーカーを着た女性。ガスマスクで顔はわからないが若い声。手ぶらであることから僕との交戦の意志はなさそうだ。


「先越されちゃった。これだけの量持って帰るの大変でしょ?手伝ってあげようか?どこのスタルカー?」

「出身は大阪メトロバンカーだがスタルカーじゃない」

「え!?スタルカーじゃないのに大阪からどうして伏見区までこれたの!?名前は!?どうやってそこまでのサバイバル能力を!?」

「全部スタルカーの叔父が教えてくれた。というかお前誰だ」

「京都本部所属の長町涼子隊員です!あなたは?」

「家出中の守岡悟だ」

「あっはっは!ただの家出君にこんなことされちゃこっち面子が立たないよー。おいでこっちのバンカーに連れてってあげる!」




 長町が運転する車に乗り揺れる。京都のバンカーに辿り着くまで彼女は暇なのか話しかけてくる。


「まさかここまで歩いてきたなんて思わなかったよー。所でなにしに大阪まで来たの?ただの家出だったらわざわざ山超えないでしょ。あんな危険地帯」


「叔父を探してる。居なくなる前に京都バンカーに行ってな。両親には反対されたよ。県をまたぐのは危険だって。色々絡まれたからここまで一か月も掛かった」


「そりゃあそうだよ。動物ならやり過ごせるだろうけど野盗はどこ行っても出てくるもん。スタルカーの叔父さんって言ってたけど名前は?」

「林道宗一だ」

「林道って……それ大阪のナンバー2じゃん!?はえーそんな大物の知り合いならそれだけ強くても納得だわ」

「知ってるのか?」

「そりゃあ近畿圏では有名人の一人だよ。もとじえいかん?とかで対人戦闘の達人だよ!」

「戦争が起こるまえから戦っていたらしいからな」

「でもなんでそんなひとがわざわざ京都に?」

「さぁ?それを知りに来たんだ」

 そう言うと進行方向のマンホールが突然吹き飛ぶ。突然のブレーキに僕は前のめりになる

「またー!」

「今のは!?」

「しっかりつかまって!」

 僕の質問に答える事無く車は全速力で進みだす。飛び出すマンホールの道を避けながら進む。

「あともう少しなのに!」

「あれはなんなんだ!」

「大人しく座ってて!あと少しだから!」


 そう彼女が言うと同時に橋が見えてきた。が橋のそばから大きなムカデだろうか長さ10mあろうヒルのような口の短い足をしたムカデが出てくる。


「間に合え!」


 全速力で進む車と橋をふさごうと橋にムカデが倒れるが間一髪塞がる前に通り抜けられた。




「で、あれはなんなんだ?」

「ミルワームって呼んでる。最近増えてきて困ってるんだ。もとはミミズかなんからしい。バンカー周辺には居ないから安心して。まあ時間の問題だと思うけど。そろそろ着くよ」


 そう言って彼女はビルに車を入れる。ビル内の地下駐車場は暗く壁には蛍光塗料の矢印が塗られてそれらは奥の防火扉に向いていた。


「京都駅本部はここ降りたらすぐだよ」


 そう言って車を降り僕らは防火扉の先の階段をガスマスクを外して降りていく。


「ただいまー」

「おお!涼子ちゃんおかえりなさい!どうだった?外は?大変だったろう。あれそちらの人は?」


 階段の先の彼女を迎えたのは人柄のよさそうなおばちゃんだった。


「彼は大阪から人探しに来たんだってさ。それより見てよ!こんだけの物資があれば相当な額になるよ!」

「へぇそうかい!良かったねぇ。あんたも長い道のり大変だったねぇ。ここで休んでいきなさいな」


 そう言っておばちゃんは門番の仕事をしているのかそこから動かず持ち場に戻る。ここの地下は賑やかだ。見るだけでわかる。人々が一生懸命に支え合っている。スタルカーと政府機関が発行するクレジット(切符)取引が成立していた。大阪では本部付近以外は無秩序な所が多い。だがそれがかえって抑止力になっていたが。


「さて、本部受付に付いたよ。わたしは物資をクレジットに変えてくるから」


 地下鉄の切符売り場だった所の機会が抜き取られ受付になっていた。そこでスタルカー達が台車に乗せた物資や縛られた野盗を改札の向こうでどれだけのクレジットになるかを査定されている。


「アルコール類、瓶1ダース、はい。480クレジット14枚ですね。次の方どうぞ。今日はどうされました?」

「あー、あの人探しに来たのですが」

「行方不明者ですか?それなら向こうの捜索課に…」

「二か月前に林道宗一というスタルカーがここに来たはずなのですが」


 僕がそう言った途端に職員が目を見開いて止まった。


「何か…知っているんですか?」

「ちょっと…待って下さい…」

 放心しているのか覚束ない手取りでどこかに電話を掛ける。

「そうですか。わかりました。君名前は?」

「守岡悟だけど……」

「そうですか。やはり……とりあえず放送がくるまでこれを持って待ってください。」


 そう言って誰の名前も書かれていないスタルカーの認識票を渡される。


「いやー儲けた儲けた。今回の野盗はいい蓄えを持ってましたなー。見てよこれ!」

 椅子に座って待っている僕に数十枚束のクレジットを両手いっぱいに持った長町が見せてくる。

「どうだった?会えそう?」

「さぁ?これ持って待ってろだって」

「スタルカーの認識票?なんで?」

「さぁ?」

「んー?まあいっか。そうだ!悟のおかげでこんな稼げたからなんか奢ってあげようか?」

「そうだな。武器屋行くか」




 地下のマーケットは様々な品が店頭に並べられている。双頭の鹿肉、トラばさみ、銃器、電子基盤、溶接後が目立つ手作りの大型機械が並べられた街道の一つの前に行く。


「ジャンクラット。京都一のジャンク銃砲店よ」


 そう言えば叔父も職人手作りのジャンク銃を愛用していたな。腕が良ければ正規品を超える性能を安く買えると。


「済まない。今いいか?」


 店の奥には機械に囲まれている老人が細いパイプに手作業で溝を掘っている。


「うん?見ない顔だな?だがどこか見覚えが?」

「京都に来るのは初めてだが」

「そうだ!俺の最高傑作を作ってやった奴と似てるんだ!」

「もしかして林道という名前の人か?」

「そうじゃったな。そんな名前だったな…。今はどこで何をしとるのか…わしの超圧縮電圧ボルトちゃん……」

「そんなことより今使える奴見せてよ」

「そうだったな。うちは戦前のジャンク品の中でも取り分け状態の良いものを使ってる高いものは軍で研究されてる希少な装置を組み込んだりな。今一番人気は火炎放射器だぞ。ミルワームやスライム。新種のミュータントにはかなり効果的だぞ。燃料は高いがな。」

「普通の銃器じゃ駄目なのか?」

「ワームは硬いしスライムは菌だしそんなもんでは太刀打ちできん。何のようでここに来たか知らんが京都に来たなら買っといて損はないぞ。一番安いスプレーライター式は480クレジット6枚だぞ」

「スプレー缶は?」

「5本で540クレジット4枚だ」

「ちょっと!この間は3枚じゃなかった!」

「そりゃあ値上がりするさ。みんな買って行くから在庫がどんどん減ってくんだからよ。」


 その時自分を呼ぶ放送が流れる。


「でどうすんだい?」

「買った」




 今僕達は地下鉄のホームにいる。ホームは安全に外に移動出来る通路であるはずである。が今は目の前に広がる肌色の大きな蠢くねばつくそれらは地下の壁を埋め尽くしていた。それを職員から支給された大型火炎放射器で焼きながら僕たちは進む。スライムたちが甲高い悲鳴をあげて黒焦げになっていく。


「対人最強の叔父をミュータントに嗾けた上層部は何考えているんだ。しかも甥であるだけで臨時スタルカーにする何て」

「人手不足なのよ。ミルワームにみんな襲われてスライムが水道管を腐食させて更にワームが漏れた水に卵を産んでスライムは死体から繫殖する。こんな悪循環を隠してたなんて。ゲームみたいに跳ねたり動かないのが救いか……。この任務に向かったスタルカー全員帰ってないなんて……あ、ゴメン…」

「気にするな。薄々覚悟はしてた。それよりも買ったばかりの火炎放射器よりも高性能の火炎放射器を渡した上層部に腹が立つ」

「最初あんたと会った時はいい稼ぎになると思ったんだけどなー。まさかなんも貰えないミュータント狩りに出されるなんて」


 そんな愚痴を叩きながらミルワームが繫殖してる伏見区下水道を目指す。




 地上に放置された車から開けっ放なしのマンホールの前まで来た。マンホールの中に発炎筒を投げ込み下を見る。


「どう?ここ降りれそう?」

「ああ。マスク越しでもひどい臭いだが」


 発炎筒が燃えてるうちに梯子を降りる。降り立ったここはホームの比ではない。


「うわっ。えっぐ」


 床と壁、天井、どこを照らしてもピンク一色。スライム独特の何処から鳴いているのか「ピギー」という鳴き声があちこちから聞こえる。下水は所々で肌色の物体が流れていく。しかも横にはマスクを付けたピンク色の粘液だらけの骸骨。


「やっぱりこいつら人食ってんのか」

「こんな暗闇からワームが来ちゃどうしろってのよ」

「神経を研ぎ澄ませ。何か音がするはずだ」

「聞くにはスライムがうるさすぎるわね」

「スライムを駆除しきるには燃料が足りんぞ。面倒だな」

 その時、目の前をワームが通り過ぎていく。ライトに充てられてるにこっち気付かずに通り過ぎた。

「見た?」

「ああ。光には反応しないようだ」

「もしかして音に反応してる?車の音で追跡してたのかしら?」

 念のため慎重に進んでいく。

「止まれ」

 目の前からワームが一匹進んでくる。

「焼く?」

「ああ」


 こちらを認識してないのかゆっくりと向かってくるそいつに火を浴びせる。突如火を達磨にされて体の火を消そうと水に飛び込む。だが火傷の傷から下水が入り助からないだろう。


 だが


「うしろ!」


 気が付いた時には遅く振り返った時には組みつかれ押し倒される。スライム床のネバネバが肌絡めてとるスライムから出る酸が肌を焼く。


「なにこいつ!」


 僕の上に乗るこの黒い肌の人型、とはいえその体付き、頭部は人とはかけ離れた黒光りする昆虫の様なそれは僕に向かって鋭いかぎ爪を振り降ろす。だがそれと同時に何か苦しむ様子羽が高速で羽ばたき音が甲高い金属を擦り大音量で鳴り響く。


「うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ああぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁ!」


 耳が痛む!鼓膜がやぶれそうだ!

 その黒い人型はそのまま上に飛び上がりマンホールをぶち抜いて行った。


「大…丈夫か?」


 そう長町に聞くが何も答えない。耳をやられたのだろうか?胸ポケットから穴の開いた黒い板が電気をまき散らしながら落ちる。

 そうこうしてられない。あれだけの音が出たならいつワームが襲って来てもおかしくない。火炎放射器を持ち立ち上がろうとするが。立てない。平行感覚が麻痺している。

 なら伏せたまま燃やそうとするが火が付かない。燃料タンクが外れてガスチューブから燃料が漏れていた。

 目の前からワームが何匹も来る。

 ここで…死ぬのか?





「こっちだ!」


 突然ワーム達の背後から男の声がする。振り返ったワーム達の頭が弾けて飛んでいく。

 その声の主を見ることなく僕は意識を失った。




「おい!おい!しっかりするんだ」


 目が覚めた。ここは!?長町は!?下水道でどうなったんだ!?


「落ち着けお前ら全員無事だ。ここは俺の隠れ家だ」


 そう声をかけられる。この声には聞き覚えがある。


「何でここに来た!待てなかったのか寂しがりやめ」

「叔父さん……」

「お前の連れは寝てる。お前らよくお前らあれに遭遇して生きてたな」


 辺りを見渡す。ここはマンションの一室だろうか?よく手入れされていて清潔感漂うそこは前は誰かが住んでいたのか。家具一式あり部屋の片隅に空気清浄機6台が稼働している。僕が寝ていたソファの横のベットで長町が寝ている。

 叔父が穴の開いた板を出してきた。


「お前スマホ持っててよかったな。だが……」


 叔父がスマホを裏返した。そこには僕たちの家族写真があった。ちょうど幼い僕の上に穴が開いていて漏電したせいか少し焦げている。


「お前何で写真で持ってんだ!こいつで写真の撮り方教えてやったろ!何でスマホに写真くっつけてんだよ!」

「だって使い方わかんないし……」

「はぁ……このことはまあいい。これをお前に渡していなかったらお前がここには居なかったし、だが戦前最新モデルが今になって使えないとはな……」

「戦前最新モデル!?」


 突然、寝ていたはずの長町が飛び起きる。


「最新って31年に出た完全防水、銃で撃っても貫通しないで有名なあの!?」

「あ、ああそうだが……?」

「うわーん!そんなの持ってるなら言ってよー!使える人に渡せば計100万クレジット分はあるのにー!」

「失礼なじゃじゃ馬だな……」

「拝金主義すぎるだろ……」




「それでどういう事なんだ?」

「京都の地下で何が起こってるの?」

「そうだな。ワームとスライムの大量発生だがあれの元凶はお前らを襲ったあの忌々しいゴキブリだ。アウトサイダーって呼んでる。並みの銃弾は弾く外骨格、高い瞬発力、鉄を切り裂くかぎ爪。アイツはふらりとやって来た生態系を荒らすだけ荒らして去っていく厄介な奴だ。地下にいたワームを達の洞窟をぶっ壊して近畿中にばらまきやがった。それと同時に琵琶湖にいたスライムの希少な捕食者を食い荒らしてな。それらが京都に雪崩混んで来たんだ。俺はこの近辺にアウトサイダーが出たと報告があってな。そいつとワームをここで駆除せんと大阪までやって来る。そうしたら近畿圏は最悪機能停止になる」

「つまりアウトサイダーを殺せれば後は簡単に解決できるのか」

「時間はかかるがそういうことだ」

「どうするの?わたしたちの火炎放射器は壊れて弱い奴しかない。しかも向こうは暗闇を高速で動く変態。正直きついわ」

「デコイと殺す武器ならある。ゴキブリホイホイで作ったデコイとここで作って貰ったレールガンがな」

「もしかしてそれジャンクラットの?」

「ああそうだ。並みのライフルより威力があるこの高電圧レールガンなら殺せる。当たればだが。」

「当たらないなら意味ないじゃん」

「あとは動きを止めるものがいるんだがな。それがなくてな」

「止めれそうなものならあるよ。叔父さん」

「「え?」」




 商店街の交差点の中心、周りいくつも開いたマンホールがある中の中心に置かれたダンボールで作られた大型ゴキブリホイホイ。僕たちはたくさんの瓶を持って建物の中に隠れる。数多あるマンホールから一つの影が出る。黒い光するそれはおびき寄せられる様にダンボールの中を見る。真ん中にはそれを呼び寄せた撒き餌しかない。屈み撒き餌を貪りはじめたそれに


「投げろ!」


 叔父さんが合図すると同時に建物からそれに向かって瓶を投げる。叔父さんに気を取られたアウトサイダーは後方からの何本も瓶を喰らうが何本かは足元のに落ちる。そいつは僕たちに飛んで来ようとするがそこから動けなかった。そこでアウトサイダーは気付いたのだ。あの瓶の中はスライムだったのだ。足元と自分に纏わり付いたそれは自らを拘束している。この高速から逃れようと体をよじるが邪魔をするように目の前のレールガンから空気を裂く様な破裂音と共に体の装甲が弾ける。なす術なく次々と体を破壊され最後は頭部を破壊され力なく倒れる。


「やったか!?」


 それに近づき様子を見る。体のあちこちを砕かれたそれは立ち上がることは無い。

 だが頭を砕かれたはずのそれは最後の余力を振り絞り羽をすり合わせあの金属音を打ち鳴らす。


「クソ!静かにしろ!」


 耳栓のおかげで問題ないが不快な音を奏でるそれに火を放つ。纏わり着いたスライムとダンボールはかなりの勢いで燃えていく。


「早く逃げるぞ!奴らが来る!車に乗れ!」


 三人が車に乗るとワームが顔を出すのは同時だった。

 車が走り出すとワーム達はこっちを跳ねる様に高速で追いかけて来る。


「急げ!」


 追いかけるワームにスライム瓶を投げつけるが数が多すぎる。時々追いつかれ車に噛みつかれるがスプレー火炎放射器で引き剝がす。


「橋まであとどれだけだ!」

「目の前!」


 だがそう言うと同時だった。

 目の前の橋が突然崩れ僕たちは

 空中に投げ出された。





 今どうなっているんだ?

 冷たい。

 そうだ橋が壊れて川に落ちたんだった。

 そうだ急いで二人を引き上げないと。

 反転した車から出て運転席から長町を引きずり出す。気を失っている。叔父さんは?

 そう思ったが後ろでワームが辺りを見渡している。あいつらにばれないように長町だけでも向こう岸に運ばなければ。

 なるべく静かにゆっくりと後ずさる。

 だがそのワームの頭部が切り落とされる。そこにはアウトサイダーが立っていた。頭部がなく所々焼け焦げ砕かれた体が見える。


「嘘だろ……」


 苦虫を嚙み潰したような顔にもなる。頭部だけでも一週間生きるゴキブリでも頭部がなくても生きるそれはもはや生物なのか怪しい。橋の足には何か鋭いもので斬られた跡が所々にあった。

 幸いこちらに気付く事無く長町を向こう岸に連れてこれたあとは叔父さんだが。


「やめろ!この!」


 車から出た叔父さんがアウトサイダーに襲われている。

 二本の腕を振り回し車の上に立つ叔父はレールガンで攻撃を往なしていた。

 急いで車の上に向かう。取っ組み合う二人は川に落ちる。叔父の悲鳴が聞こえた後レールガンを持ったアウトサイダーがこちらを見ていた。叔父は腹から血を流して気を失っている。

 持っているリボルバーで撃つがアウトサイダーの何事もなくこちらに走るってくる。


 二発目、外れ。

 三発目、足首。だが少し勢いが落ちただけ。

 四発目、腹。だが止まらない。

 五発目、外れ。レールガンのフルスイングをまともに受けた僕は宙に飛ぶ。


 倒れた僕にアウトサイダーは何度もレールガンで殴打する。

 マスクをが壊れ息がままならない。

 首を捕まれ振りかぶる奴。

 僕に向けて振り下ろされる直前


 六発目、レールガンに当たったそれは中に溜まった電流を周囲の水を伝って辺りに巻き散りアウトサイダーに強烈な電撃を浴びせる。かなりの電流が僕とアウトサイダーを直撃、

 そこで両者は力尽きた。






 機械の音が聞こえる。

 ピッ、ピッ、と一定のリズムでなるそれは僕の横から聞こえる。なんだ?何の音だ?

 目を開けて横を見る。視界がぼやけよく見えない。

 今自分はどこにいる?今自分の上に白物がのさばり体が重い。

 口元に何かが付いて息が楽だ。

 もしかして今僕は治療を受けているのか?


「悟!目が覚めてのか!」


 見えづらい目で声がした方を見る。姿はわからないが声からして叔父だろう。

 自分より重症だったはずの叔父が目の前で声を掛ける視界がはっきりとしてきた。

 叔父院内着を来ていて腹のあたりに包帯が見える。お前ベットから飛び出してきただろ。

 後は大変だったらしい。目が覚めた僕、手術後問答無用で歩き回る叔父、看護師たちが叔父を抑え込み今では目の前のベットで拘束されている。僕は電流による火傷、叔父は腹部切傷、長町はこれといった外傷はなかった。僕の最後の一撃でアウトサイダーは完全に焦げていたそうだ。僕の右手に電撃傷が残ったが動かすには問題ない。僕たちを追いかけたワームの殆どが負傷していたアウトサイダーに切られていた。

 今は火炎放射器を持ったスタルカーが下水道でスライムと残りを焼却しているそうだ。今のところ死傷者はおらず今までの死傷者の殆どがアウトサイダーによるものだったそうだ。進化したゴキブリ一匹にかなりの痛手を負わされたものだ。だがそれも焼けた以上京都にはまた平穏が訪れた。




「さてもういいか?」


 叔父に声をかけられる。あれから二ヶ月自分達に多額の報奨金が支払われた。そこで車を買った僕らは今日大阪に帰る。長町は今頃部屋にこもって高いゲームで遊んでいるだろう。


「ああ、大丈夫だ。武器も買った」

「ジャンク屋の爺さんには怒られちまったよ。せっかく作ったレールガンを壊しやがっててな。修理に大分時間が掛かったらしい」


 そう言って車に乗り込む。


「おーい!待ってー!」


 発進する前に長町の声がした。


「なんだ?お前さん?見送り来てくれたのか?」


 そう叔父と振り返る。いや見送りじゃない。こいつ大荷物抱えている。ついてくる気だ。

「はぁはぁちょっと!まって!ぜぇ!」

「なんだよ。」

「あなたと組めばもっと金が稼げそうだから……ついてきていい?」

「まぁいいけどよ……」

「やったー!」


 そうして長町が乗り込み弟の待つバンカーまで向かう。


「あ、そうだ京都発行のクレジット、大阪では使えんからな」


 長町の嘆きが社内に響いた。

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現代世紀末短編「地下鉄世界の僕」 西城文岳 @NishishiroBunngaku

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