(二)-12

 美代は思い出していた。父が帰って来なかった、あの八年前のことを。

 それはちょうど高校の卒業式の日だった。卒業証書を手にして帰宅すると、母がいた。上半身を下着姿でTシャツを頭から被りながら居間に出てきたところだった。

 美代は「今日、仕事だったんじゃないの?」と聞いた。

「連絡があって早引けしてきたのよ」

「なんで?」

「漁協から連絡があったのよ。お父さんの船が戻っていないって」

「そうなの?」

 漁師の父が帰りが遅いことはよくあった。仕事が終わると仲間と飲みに行ったりすることもあったからだ。それに豊漁だと水揚げに時間がかかったりするし、不漁だと魚群を追って遠くまで出ることもあり、そうなると帰港が遅れることもあった。だから、美代はこのときあまり心配しなかった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る