(二)-11

「どうして?! どうしてまだ戻っていないのよ!」

 美代は南条の胸ぐらを掴み、顔をにらみつけた。

「いや、詳しくは……」

 美代は南条から手を離し、岸壁へ駆けだした。そして岸壁のへりに立った。

「カケル兄ちゃん! カケル兄ちゃん!」

 美代は海へ向かって叫んだ。何度も叫んだ。何度も何度も叫んだ。叫びつつけた。

 すると美代は急に左肩を掴まれた。そして急に体の向きを変えさせられ、両肩を掴まれた。

 正面には南条が立っていた。

「おい、小松! しっかりしろ!」

 南条は目の前で、大声でそう言いながら、美代の体を前後に揺さぶってきた。

 美代は気持ちが高ぶっていた。南条の大声で、押さえていたその高ぶりをそれ以上押さえることができなくなった。そして目から涙が流れ落ちた。両手で顔を覆った。


(続く)

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