第30話 80階層と90階層



あれから順調に階層を攻略していくザックとサラ。

2人とも俺が攻略を目指すと言った矢先から随分と張り切っている。

そのおかげもあってか、俺たちは今88階層にたどり着いていた。



あるじ、88階のボスはいかがいたしますか?」



俺たちはボス部屋の前にいた。

ザックが今回のボスはいかがしますかと聞いてきた。

つまり誰が倒すかということだ。

ザックは全ての階層でそのように聞いてくる。



「とりあえず、90階まではお前らにボスを任せる」


「かしこまりました」



俺のレベル上げを心配してくれたのだろう。

だが、心配の必要はない。

やはりモンスターを自分で倒した方が経験値は多くもらえるが、二人のサポートをするだけでも経験値は獲得できている。

そう思って自分のステータスを開く。




——————


【名前】九条 カイト 

【レベル】 27/100


【H P】 710/710

【M P】 980/980

【攻撃力】 260/260

【防御力】 360/360


【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.2)』『剣心』『血液操作』


【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)

      ■サラ・ドラキュネル(夜ノ王)


——————



レベルが20になってから、成長が少し早くなった気がした。

おそらく上層階のモンスターを多く倒したからだ。

やはり50階層以下のモンスターと、それより上の階層のモンスターでは大きな差があった。

個体の大きさといい、強さといい。

それに伴い、経験値も多くなったのだろう。



 ◆ ◆ ◆



88階 ボス部屋



ボス部屋に佇んでいたのは、アーチャートロール。

俺が適当にそう呼んでいる。

この80階層のボスは全てトロールなのだ。

だが、剣に秀でたトロール、魔法に秀でたトロール、斧、スピード、色々な奴がいる。

目の前にいたのは、巨大な弓を構えたトロールだっただけの話。



85階層以上のモンスターには名前が存在しない。

それまでは、才波炎が適当にモンスターの名前をつけていたのだという。

『鑑定』のスキルがあれば名前もわかるだろうか。


「では、私にお任せを」


「おう、頼んだ」


この階層ではザックが相手をする番だ。

ザックは背負っているリュックを下ろす。

聖剣ヴァニエラを右手に召喚した。


「参ります」


何かを悟ったのか、アーチャートロールが突然横にステップを踏む。

その刹那、ザックはアーチャートロールの後方まで移動していた。

俺の目でやっと追えるスピードだった。

おそらくまばたきをしていたら、その速さを捉えていなかっただろう。



紫色の血が宙を舞う。

それと同時に、左足が胴体から切り離された。

アーチャートロールの左足だ。



アーチャートロールは慌てて、体勢を立て直す。

右足一本で立ち上がり、左手に突如3本の弓矢を召喚する。

そして、弓を構えてすぐにザックに向けて放つ。

放たれた矢は、標的に当たると巨大な爆発を起こした。

10メートル以上離れた俺の体勢がよろめくほどの爆風が起こる。



「あんなの食らったら俺…多分生きてないぞ…」



ザックの心配はしない。

いや、する必要がない。

次の瞬間、ザックは何事もなかったかのように爆煙の奥から姿を現す。

そして構える。



「良き戦いだった……『次元斬り』」



5メートル以上離れていた敵に向けて聖剣を振るう。

それで決着がついた。

次元ごとぶった切った。

アーチャートロールの胴体は次元の狭間へと消えていった。


「お疲れ、ザック」


「もったいなきお言葉」


目の前の魔核を拾う。

前階層のボスの魔核より若干大きい気がする。

いや、気のせいか?

ただ10階層や20階層の魔核とは比べるまでもなく大きいとわかる。

それをザックが背負ってくれている大きなリュックに詰め込む。



 ◆ ◆ ◆



89階 ボス部屋



んー。

特徴……。

よし、マッチョトロール。

……うん。どうやら俺に名前をつける才能はないようだ。


「じゃあサラ、マッチョトロールを倒してこい」


「あぁーい」


サラはザックと違い、よちよちと歩いてボスの前まで行った。

一見すると可愛い女の子が歩いているだけだ。

だが、俺とザックは惑わされない…。

あの子は………



何も知らないマッチョトロールが戸惑う。

だが、モンスターの本能は忘れてはいない。

目の前の女の子を叩き潰そうと、その巨大な拳を振るう。



パシっ



片手でその拳を受け止めるサラ。

マッチョトロールが再び戸惑う。

そして、焦る。

サラは目の前の拳を握り潰す勢いで力を込める。

「ぐぁっ」と声を上げるマッチョ。

もう、マッチョでいいだろう。

マッチョの額から大量に汗が流れる。

そして、「ゴキっ」と音を鳴らしてマッチョの右手は粉砕された。

なぜかこちらに振り返って笑みを浮かばせるサラ。

寒気がした。

…何があってもサラには逆らわないようにしよう…。



どうやらそこまではサラが楽しんでいただけのようだ。

目の前で悶えるマッチョを見て、「あはっ」と微笑むサラ。

だが、次の瞬間。

サラの左肩から赤黒い巨大な手?羽?のようなものが現れる。

先端は鋭くと尖っていた。

おそらく『血液操作』で作った何かだろう。

それが次の瞬間ブレた。

そう思ったら、マッチョの首は消えていた。

おそらくその大きな羽を使って何かをしたのだろう。



ザックの太刀筋は見えても、サラの攻撃を目視で捉えることはできなかった。

マッチョは砂と化し、魔核だけがそこには残った。



 ◆ ◆ ◆



90階層 



あ、ここ50階の時と同じだ。

目の前には巨大な扉が一つ。

鬼の形相をした彫刻がデザインされている大きな扉。



悪魔デーモン……」



ふとその単語が頭をよぎった。

そうだ。

95階にいたザザンガは自分のことを悪魔デーモンと呼んでいた。

もしかしたらこの90階層は悪魔デーモンがメインの階層なのだろうか。



だが、気にすることはない。

俺にはザックとサラがついている。

そう思って扉に手をかける。






「これはこれは、初めてのお客様ですね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る