第28話 祝いと決意



東京ダンジョンを本格的に攻略しようと思ってから、3ヶ月が経った。

その間に起こった出来事は大きく分けて2つ。



一つ目は、モナコのダンジョンが攻略されたことだ。

いつ、誰が、どうやって攻略したのか正式な発表は未だ出ていないが、亜門会長から聞いた話ではどうやら外国の旅行客が攻略したのだという。



今までダンジョンが攻略されたらそこに塔は残るのか、という疑問を各国は抱えていたが、答えは否。

攻略されたらそこにダンジョンという名の巨塔は跡形もなく消えて無くなる事実が新たに判明した。



二つ目は、レベルアップ型スキルについてだ。

今までレベルアップ型スキルと呼んでいたそれは、かなり希少性の高いものだとわかった。

さらに、レベルアップ型スキルは個人にしか現れない固有スキルだということも判明した。

そのことから、探索者協会はレベルアップスキルという名称からユニークスキルという名称に変更をした。



「おっさんのスキルってユニークスキルだろ?」


「そうだな」


「日本人ではおっさんだけなんだっけ?」


「そうらしいな」


「おっさん......」


「なんだ」


「……なんでそんな塩対応なんだよっ!」


「だってお前ら……頼みすぎだろ……」



俺の目の前には、大量に注文されたご馳走。

俺は今、ナオ、櫻、熊と一緒にロンドカフェにいる。

今日はこの子らの大学卒業祝いとして、巷で有名な高級カフェに来ていた。



「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」


「…はい」



恐る恐るテーブルに置かれた会計伝票を見る。



¥39,600



…4万円近いじゃないか…。

俺はブレンドコーヒーを1杯しか頼んでいないのに…。



「おっさん、稼いでるんだろ?ケチケチするなって」


「だからってお前ら遠慮というものを知らないのか…」



確かにここ3ヶ月でかなり稼いだ。

総額でいうと4億近いかもしれない。

その金額は全て協会にある俺の金庫に保管している。

探索者ライセンスを介して、カードとしてその金額が使えるということだ。

もちろん引き落とすこともできる。



「九条さんは今何階まで行っているのですか?」


「81階だ」


「「「……わぁ」」」



3人とも顔を引きつらせてこちらを見てくる。



「おっさん、いつから化け物になったんだよ…」


「もう驚かないわ......」


「ていうか、そろそろ才波炎の最高到達階を超える勢いじゃない?」


「今の最高到達階って確か、85階だったよね?」


「うん」


「おっさん、もうランク1で良くない?なんで協会はランク1にしないんだ?」


「俺のステータスじゃランク1は無理だと思うぞ。平均より低いし」


「それでも、強さでいったら群を抜いているんじゃないのかな?」


「どうだろうな。ランク1と力比べをしたことがあるわけじゃないからな」



3ヶ月が経った今でも、才波炎が人を殺したという事実はないことになっている。

本当に奴は人を殺しているのだろうか…?



「お前ら、聞いてなかったけど就職先とか決まっているのか?」


「俺はそのまま探索者になる!『鉄の騎士団オルドル』ってギルドに就職することになった」


「おぉ、そうか。それはおめでとう。櫻は?」


「私は事務職に就く予定です。探索者を続けたい気持ちもあったんですけど、親に猛反対されて…」


「そうか。まあ、命に関わる仕事だからな。熊は?」


「…ナオくんと一緒に『鉄の騎士団オルドル』に就職する予定です」


「おぉ!そうだったのか。おめでとう」


「…ありがとうござます」



そうか、櫻だけ違う道に行くのか。

まあ、でもこの3人の絆はなくならないだろうな。

見ていてわかる。この友情はずっと続くものだ。

俺にもこんな大切にできる友人っていたっけな……。




 ◆ ◆ ◆




探索者協会 日本支部



「お待たせいたしました、九条さん。遅れてすみません、私から呼び出しをしたのに」


「いえいえ。今日はどうしたんですか?」


「ダンジョン攻略は順調に進んでいるようですね」


「えぇ、まあ。80回層に入ってからはかなり苦戦していますが」


「それでもすごいものですよ…もうすぐで最高到達階ですね」


「その後、才波炎の方はどうなったんですか?」


「それが…未だ真実を掴めずにいます…。それにどうやら彼は現在の最高到達階に辿り着いてからダンジョンには一切入っていないそうなのです」


「一切入っていない…?」


「…はい。現在協会の方でも調査中です」


「そうなんですね…」



なぜ才波炎は、ダンジョンに入ることをやめたのか…。



「それで、今日お呼びした件についてなんですが…」


「あ、はい」


「実は協会本部のアメリカから新たな情報が入りまして、現在世界に存在するユニークスキル所持者のランクアップ試験を行うことになりました」


「ユニークスキル所持者のランクアップ?」


「はい。どうやらユニークスキル所持者にランク1の上、ランク0の階級を与えるのが決まったそうです」


「ランク…0?」


「その上で、2ヶ月後にイングランド、つまりイギリスのロンドンダンジョンにて試験を行うそうなのです」


「…行った方がいいですかね?」


「…申し訳ありません。行っていただけると助かります…」



申し訳なさそうにする会長。

上からの圧力でもあったのだろうか…。



「わかりました」



そう言って立ち上がる。



「じゃあ、それまでには東京ダンジョンを攻略しておきます」



「…………………はぃ?」



俺のレベルもそれなりに上がった。

まあ、まだザックやサラに並ぶわけじゃないが、一緒に戦ってサポートできるくらいにはなったと思う。

とりりあえず俺のレベル上げはこれくらいにしておく。



「ザック、サラ」


「はっ」「はーい」



神々しい光と、赤黒い霧が同時に出現する。

俺の背後に二人は姿を現した。



「亜門会長、81階までは俺だけの力で登ってきました。これからはこいつらの力を借りようと思います」


「………サラちゃん………」


「おぃ?」


「あ…ゴッホン……ほ、本当にそんなことが可能なのですか?」


「まあ、やってみなければわかりませんが、こいつらとならできる気がします」


「………よろしくお願いします………」


「ザック、待たせたな。お前が行きたがっていた95階層の先、行こうぜ」



「———お供いたします」

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