第27話 ゴーレムと中国



東京ダンジョン前、アゴラ。



「おはようございます、九条さん。驚きましたよいきなりランク2の探索者とは」


「おはよう、立川たてかわ君。俺もまさかランク2になるとは思わなかったよ」


「まぁ、九条さんならやってくれるとは思ってましたけど、ははは」



立川君。

つい最近、東京ダンジョンの門番として派遣された自衛隊員。

20代前半の彼は、好印象を持たれやすい青年だ。

最近は何かと話しかけてくれている。



「今日もお気をつけて!」


「あぁ、行ってくる。ありがとう」



ザックと共にダンジョン前の転移陣に足を踏み入れる。

青白い光が俺らを包み込み、一瞬の内に視界が変わる。

この転移の感覚にも慣れてきた。

最初の頃は、ランダム転移にまた巻き込まれるのではと恐る恐る転移陣に入ったものだ。



「主、いよいよ今日から61階層の探索ですね」


「うーん、そうだな」


「どうかなさいましたか?」


「なんか、随分と景色が変わったなぁって思って」


「確かにそうですね」



俺たちの目の前にはレンガの壁と床。

等間隔に松明が設置されており、そこからは紫色の炎が辺りを照らしていた。

その階層の環境やモンスターは、10階ごとに変わっていくことがわかった。

1階から10階まではランダムだったが、それ以降は環境やモンスターに統一性があった。



例えば、21階からは狼型のモンスターがメインとなる。

31階からは熊型のモンスター。

41階からは小鬼モンスター。

51階から昆虫型のモンスター。

そして、61階からはゴーレムがメインとなる階層だと才波炎の調査で判明している。



才波炎……。

会長が言ったあのことが事実なら気をつけなければいけない男だ。

本当にこのダンジョン内で殺人を……。



「主、大丈夫ですか?」


「ん?あぁ、すまん。大丈夫だ」


(パパぁ〜。はやくだしてよ〜)


「あ、忘れてた。サラ!」



サラの名前を呼んだのと同時に、目の前には赤黒い霧が出現しその奥から姿を表す。



「んんん〜!やっぱり外の方がいいわ」



そう言って伸びをするサラ。

よくよく見るとサラの目がいつもより赤く光り輝いていた。

———吸血衝動だ。



「サラ、大丈夫か?」


「早くモンスターさんをみつけよっ!」


「わかった。じゃあ早速探索をするか」


「はい」


「うんっ!」




 ◆ ◆ ◆




———62階層



「パパ、ゴーレムさんいたよっ!」


「俺が狩ってもいいか?」


「うん!サラお腹いっぱいになった」


「よしっ、じゃあやるか」



ゴーレムに向かって一直線に走り出す。

走りながら腰に用意していた短剣を取り出して、自分の左指に傷をつける。



「『血液操作』」


————————————

【M P】 60/860

————————————


俺の左手には聖剣ヴァニエラと瓜二つの剣が出現した。

それを両手で握りしめて構える。



「『剣心』」


————————————

【M P】 10/860

————————————


突然遅くなる世界。

それは俺だけが体感している極限状態の時間。

ゴーレムの右腕が頭上に降りかかる。

そのスピードは50階層にいたモンスターより速いものだった。

ギリギリのラインでそれを避けて、剣を振りかざす。


————————————

【M P】 60/860

————————————


隙を作ってもう一振り。


————————————

【M P】 110/860

————————————


もう一振り。


————————————

【M P】 160/860

————————————


もう一度。


まだ。


なかなか手強い。


まだ……。


————————————

【M P】 910/860

————————————



「これで終わりにするか『血液操作』」



俺の周りに突然現れる全長30センチほどの針。

それを空中に浮遊させ、高速回転させる。

イメージはドリル———。

回転が増すほどそれは破壊力を増す。



「いけ」



針は俺が剣で傷つけていたゴーレムの胸目掛けて飛ぶ。

そこにはゴーレムの心臓となる機関がある。

その心臓を針は貫いた。

膝が地面につき、ゆっくりと砂となるゴーレム。



「お見事です。主」


「さすがパパ」


「いや、まだまだお前らみたいに一発で、とはいかないよ…」




 ◆ ◆ ◆




中国 北京



ちん主席、アメリカでは48階、ロシアは39階まで攻略されているようです」


「そうか。我が国は現在何階まで攻略している?」


「40階層のボスに挑戦中です」


「まだ攻略できていないのか?もう1ヶ月はそこを突破していないのだろう?」


「はい…しかし、ご安心ください。超越者に新たな力を持った者たちが現れ始めました。どうやら、アメリカではレベルアップ型スキルと呼ばれているようです」


「ほぉ……その者たちを連れてまいれ」


「御意」



中国の政府は、アメリカの提示した探索者協会というプロジェクトには参加しない道を選んだ。

それは中国だけではなく、大国のロシアもそうだ。

ダンジョンは北京に出現し、中国ではダンジョン攻略を目指す者を「超越者」と呼んでいる。

その超越者たちは国に管理され、国から報酬を平等に貰っている。



しかし、超越者の中でも群を抜いている者たちは国から十二将じゅうにしょうの称号を得る。

十二将は全部で12人存在し、その順番は数が小さい方が強いことを意味する。

その12人は主席の管理下に置かれ、権力を与えられて優遇される。

一人当たりの年俸は日本円で約20億といわれている。



「陳主席が仰られたように、アメリカ、ロシア、イギリス、カナダ、ドイツ、イタリア、そして日本にはすでに調査員を潜伏させております。世界各国に存在する探索者協会の調査の内容は随時報告させていただきます」


「あぁ、頼む。新たに世界にもたらされたエネルギー…マナエネルギー。これを独占した国こそが次の世界の覇者となるだろう……」



コンコン



「俺です。お父さん」


「あぁ、梓塁ズールイか。どうした?」


「陳主席、先ほど話していたレベルアップ型スキルの所持者、御子息がそうです」


「何!?そうなのか?」


「はい、どうやらそのようです」


「ほぉ......よくやってくれた」


「お父さん、一つ頼みがあります」


「頼み?」


「はい...私に今の十二将に挑む機会を下さい。私はいずれ......第1将になるので」


「ほぉほぉ......傲慢な息子よ。良いだろう。挑む機会をやろう」


「ありがとうございます......」



笑顔を実の父である陳主席に向ける梓塁ズールイ


だが、その笑顔には深い憎悪が込められていた......。


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