第26話 朝食と危惧
1ヶ月後。
「これなぁに?」
「それはたくあんだ」
「たくあん…?」
ポリポリ…
「んっ!お米さんとよく合うねっ!」
俺は今、ダンジョン近くの5つ星ホテル、「桜ホテル」で朝食を取っていた。
目の前にはホテルのパジャマを身につけたザックとサラ。
二人とも食事を取らなくても大丈夫だと言うが、俺は一緒に食事を取るように促した。
一人で食べるより3人で食べた方が飯はうまいからな。
「パパ、今日は何階にいくの?」
「んー、昨日60階層のボスを突破したから今日はお休みにしようと思う」
「えぇ…サラ戦いたかったなぁ…」
「サラ様、主の決定です。それに、休養も大切ですよ」
「むむぅ……わかった」
渋々頷くサラ。
俺は二人と違って普通の人間だ…。
たまには休みくらい欲しくなる。
会長と会ったあの日から1ヶ月近くが経過した。
つい昨日、60階層のボスを倒して明日からは61階を探索する予定だ。
1ヶ月でサラからコピーしたスキル『血液操作』は随分と使い慣れた。
あのスキルは相手に攻撃を与えつつ相手のMPを奪えるからかなり効率良く戦える。
そのおかげもあってか、60階層のボスを攻略できた。
「パパ、これは?」
「それはキャビアだ…」
「きゃびあ…? パクっ……しょっぱい」
ここ、桜ホテルはこの辺りで唯一の5つ星ホテル。
なぜ俺がこんな高価なホテルに泊まれるのか。
それは先日、協会に売った魔核が思いもよらない金額となって返って来たからだ。
朝食は毎朝ビュッフェ式で、和食、イタリアン、フレンチ、中華、なんでも揃っている。
サラのプレートには、大量の食事が盛り付けられていた…。
それを片っ端から手に取っては口に放り込んでいく。
「一体その小さな体のどこにそんな量が入るのか…」
「パパ、レディーの体について色々言うのはめーだよ!...ぱくぱく」
「……はいはい、ごめん」
こういうのも悪くないな…。
家族のいなかった俺に人とご飯を食べることは新鮮なことに感じた…。
「あの......九条さんでしょうか?」
「ん?はい。そうですが…」
「お食事中失礼します。日東新聞の立川と申します。少しお話しよろしいでしょうか?」
「…はい。なんでしょうか?」
「まずは昨日発表された、ランク2へのランクアップおめでとうございます」
「あ、ありがとうございます…」
あの日、魔核を協会に持ち込んだあの日、会長が俺にランクアップ試験を受けないかと促してきた。
断る理由もなかった上に、今の俺の実力を確かめたかった。
試験内容は簡単、現役のランク2探索者との模擬戦だった。
その試験で俺は難なく相手を倒し、ランク2という結果を手に入れた。
まあ、俺の低いステータスでランク2なら上等だろう。
「ランク5からランク2への突然のランクアップでしたが、噂によるとまだどこのギルドにも所属していないんだとか?」
「えぇ…まあ」
「差し支えなければ、今後どのギルドに所属するご予定をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「あぁ…どのギルドにも入るつもりはありませんよ。俺たちはあくまで協会に属しているだけです」
「ギ、ギルドには所属しないのですか…!」
あぁ…こういうの面倒くさいな。
ギルドに所属しなくとも俺とザック、サラの3人ならやっていける。
むしろギルドに入る方が色々と縛られるし、頂上を目指しづらくなる。
「あの、そろそろよろしいでしょうか?食事中ですので」
「ひっ!ひゃい!!ご協力ありがとうございましたぁ……」
さっきまで大人しくしていたザックが新聞記者に向かって話す。
俺の面倒くさそうな雰囲気を感じ取ったのだろうか。
ザックに睨まれた記者は礼の一言を言ってその場を立ち去った。
「ありがとう、ザック」
「当然のことをしたまでです」
「ねぇねぇ...あの人間食べてこようか?パパ」
「やめてくださいっ……」
「えぇ...はーい」
これは最近の悩みである…。
サラが普通に人を食べようとしている件について…。
サラはヴァンパイアだ。彼女には吸血衝動がある。
だが、サラの吸血衝動はダンジョン内にいるモンスターをスキル『吸血』と『血液操作』を使って倒すことによって解消されている。
問題なのは、俺に敵意や不快感を与えた人の命を簡単に奪おうとしているということだ。
いや、その点でいうとザックも同じか…。
「さて、今日は街をブラブラするか。サラは控えていなさい」
「むむぅ…サラもパパとお買い物したいっ!」
「何言ってんだ、サラは陽に当たれないだろ?日陰の場所に入ったらまた呼ぶよ」
「……あぃ」
◆ ◆ ◆
「ジョン、現在の攻略状況を報告してくれ」
「はーい。俺が最後にたどり着いたのは、48階です」
「48階か……。あれは事実のようだな」
「はい…大統領」
アメリカのワシントンD.C.にある探索者協会本部。
そこには月に一度のダンジョン対策会議が開かれていた。
合衆国大統領を始め、軍関係者、政治家、協会会長、有名ギルドのトップの面々がそこには集まっていた。
アメリカのランク1探索者の中では、最強と言われているジョン・ジャクソン。
彼は自分で創設したギルド「ランプ」の代表としてそこに参加していた。
「やはり、国土面積の広い国のダンジョンは難易度が上がるという証言は間違っていなかったのだな…」
「えぇ、あと4ヶ月で崩壊するであろうモナコのダンジョンは、現地のランク2の探索者が既に86階層まで攻略しているそうです」
「では、国土面積が小さければ小さいほどダンジョンは攻略しやすいと?」
「そうなります。しかし、その分魔核の質は落ちると報告を受けています」
「…ダンジョンは攻略すると崩壊するのだろうか…?」
とある政治家が放った一言。
それは、現在のエネルギー情勢を左右する重大な情報だった。
地球に住む人類は今まで石炭、原油、ガスなどの環境を破壊するエネルギー源を使ってきた。
かといって、風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーには限度がある。
しかし、新たな研究で発見した魔核によるエネルギー「マナエネルギー」は、地球に新たな希望をもたらした。
地球温暖化が深刻な問題となった現代、遅かれ早かれ人類はそのエネルギーに頼るしかなくなる。
政治家が危惧したのは、そのマナエネルギーがダンジョンを攻略することによって、消滅するのではないかという問題だった…。
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