第25話 真実と願い



「ちょっと整理させてください……」



頭を抱え込む会長。

なぜだろうか。

会長が以前より少し痩せ細っているような気がする。



「今、下の職員に九条さんが持ってきてもらった魔核を鑑定してもらっています…それにしても一人であの量は……一体どこに保管していたのですか?」


「ダンジョン近くにある貸倉庫を借りてそこに保管していました」


「魔核を!?貸倉庫に!?」



何を驚いているのだろうか。



「九条さん…ちなみにお聞きますが何階層まで行ったのですか?」


「えっと、この間ちょうど50階を突破したところです」


「ご、50!?………九条さん」


「はい」


「あなたは魔核の価値をどこまでご存知ですか?」


「えっと、確か魔核一つが500円から1000円くらいですよね」


「やはり……それは、10階までの話です」



会長が言うには、魔核一つにつき11階から20階までは約1万円。

21階から30階は約3万円。

31階から40階までは約8万円。

41階から50階までは20万円以上で取引されているのだと。



「そうなんですか…?」


「そうです。階層が高い場所で取れた魔核はより強力な武器や防具を作れるんです。最近は、その魔核を新たなエネルギー源として使う研究も行われています。魔核は新たな産業となり得るのです」


「へぇー!すごいですね」


「へぇーって……」



コンコン



「失礼します」



その時、協会の男性職員が部屋の中に入ってきた。

どうやら魔核の鑑定が終わったようだ。



「報告してくれ」


「は、はい…その、今回持ち込まれた魔核の合計金額なのですが…な、7800万円となりました…」


「………え」


「やはりそのくらいはしたか…」


「ですが…一つだけ鑑定不能のものがございましたのでお持ちいたしました。何かの宝石でしょうか、あの袋の中に紛れ込んでいました」



そう言って、男性職員が持って来たのは漆黒の宝石。

通常の魔核は丸い形をしている。

だが、目の前のそれは綺麗に整形されていて光に反射されて綺麗に輝いていた。



「あぁ、それも魔核ですよ」


「え、しかし……」


「どれ、私が見よう」



そう言って会長はそれを手にとって『鑑定』をする。

その瞬間、会長の顔が強ばった。



「天海君、席を外してくれ」


「え......かしこまりました」



会長はいつもより低いトーンで、男性職員を部屋の外へと出す。

改めて宝石を凝視し、視線をゆっくりと俺に移す。



「九条さん…正直に答えてください。これは国家に関わることです」



今までの空気が一変し、会長の眼差しは鋭くなった。



「…はい」


「95階層に行ったのですか?」



鑑定でどの階層で取れた魔核か鑑定できるのか...。

もう少し早く言っていればよかったかな...。

そう。目の前にある小さな魔核は95階層の番人、ザザンガからドロップしたものだ。



「……はい。ランダム転移に巻き込まれてたどり着きました」


「っ!………そうですか。よく無事に帰ってこられましたね」


「ザックがいてくれたおかげです」



それを聞いてしばらく考え込む会長。



「日本のカウントダウンが止まってないということは、95階層よりも先があるのですね?」


「はい。あります」


「九条さん、これから話すのは協会や国からではなく、あくまで私個人からのお願いとなります------



------お一人で東京ダンジョンを攻略してはくれませんか」



その言葉はあまりにも衝撃的なものだった。

1人でダンジョンを攻略する。

それは現在日本探索者のトップに君臨する才波さいばえんでも達成できていないことだ。



「どうして俺に?」


「今から話すことはどうか他言無用でお願いします。それを約束していただけますか?」


「…わかりました」


「現在日本で最も最上階に近い男と言われている才波炎。彼にダンジョン内での殺人容疑がかけられています」


「……殺人……ですか?」


「はい。ご存知の通りダンジョン内には監視カメラもなければ、監視する人もいません。そこは犯罪の起こりやすい条件が揃っています」


「……」


「才波炎が自分のギルド永遠の炎イグニスを創設してから、たまたま街中で会った時に彼のステータスを見たのです。ステータスには殺人犯という状態表示がありました…」



そこから会長の説明は続いた。

才波炎の殺人の疑い。

前々からパーティー内のパワハラ問題や殺人とまでは行かないが、絶命する寸前まで相手を痛めつけたりと、協会側も目をつけていた。



だが、彼の暴行や殺人を立証する証拠がない。

それはSAIBAグループが日本の警察や国に影響を与えることのできる組織だからこそだろうと会長は考える。

つまり、情報操作をしているということだ。

そこで会長のスキルによる証明ができないかとも聞いたが、会長の『鑑定』で見た「殺人犯」は何をもって殺人と見なすか、その定義づけができない限り証拠として出すのは難しい。



また、その事実を探るべく協会からスパイとして送られたのが、西園寺鏡花だという。

彼女は前々から才波炎に気に入られており、それもあって才波炎の監視役として派遣されているのだそうだ。



「それはわかりました…しかし、その話は俺にダンジョンを攻略して欲しいのと何か関係があるのですか?」


「…協会としては、殺人の疑いがある者に日本の未来を託すわけにはいきません」


「……確かに」


「そこで今日、九条さんに会って確信しました。あなたは、強い。いや、強くなった。近い将来、あなた個人があの炎を超えるでしょう。正直、国として強制的にあなたをダンジョン攻略に向かわせることも可能です。しかし、そうするつもりはありません」


「…」


「現在国では日本海近海に新たな国を設立するプロジェクトが進められています。しかし、そのプロジェクトによって移転できる日本国民はわずか3分の1だと予測されています」


「ちょっと待ってください、その話俺にしていいんですか?」


「国家機密です」


「…え」


「国のトップは国民の3分の2を諦めようとしているのです。それに、新たに国を作ったとしてそこにダンジョンが出現しない保証はありません。そうなると、今あるダンジョンをクリアすることが何より日本に住まう人々、土地、文化、私たち日本人の誇りを守ることに繋がるのです。だからこれは私個人としてのお願いです。殺人の疑いがある者に国は任せられない。今ある日本の未来を諦めて政治を行う政治家にも任せられない。私個人が今頼れるのは九条さん、あなただけなのです」



深々と俺の前で頭を下げる会長。

それは日本探索者協会会長としてではなく、未来を思う一般市民の姿だった。

なぜ100年以上も先の未来のために頭を下げられるのだろうか…。

正直、俺には理解できない。

理解はできないが.........



「会長、頭を上げてください。俺は誰かのために戦えるような人ではありません」


「………そうですか………」


「でも、どうやら自分の好奇心には逆らえないようです」


「………ではっ!」


「...あと会長、俺は1人じゃありませんよ。今はザックとサラがいます」


「………ありがとうございます」





 ◆ ◆ ◆





アメリカ合衆国 探索者協会本部。



「これは…世界を揺るがす事実ですね……」


「はい。レベルアップ型スキルは確かに成長が遅いです。しかし、今発見されている全てのレベルアップ型スキルはどれも強力です」


「アメリカに所属しているレベルアップ型スキルの所持者は全部で3人。これが彼らの情報です」



画面に映す出されるプロフィール



ハリー・トリントン 男 LV.23

スキル『聖なる剣エクスカリバー


マリン・ジェームズ 女 LV.20

スキル『能力操作スキルマスター


ボルト・オンデライト 男 LV.22

スキル 『雷神の加護』



「誰もがレベル20代です。しかし、3人ともレベル10に上がった時、真の力を発揮しました。これらの能力は今あるランク1の探索者をも上回るものです」


「今あるランク1の探索者の位置付けが変わると?」


「はい。強さで言えば、おそらくレベルアップ型スキルを持つ者の方が戦力となるでしょう」


「ではレベルアップ型の者もランク1にすべきでは?」


「それでは今あるランク1との区別ができません」




「では……新たにランク0を作るのはいかがでしょうか……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る