第24話 想像と創造




——————


【名前】サラ・ドラキュネル

【称号】夜ノ王

【レベル】 100/100


【H P】 85000/85000

【M P】 48000/48000

【攻撃力】 52000

【防御力】 48000


【スキル】 


『吸血』『血液操作』『高速再生』『眷属化』『霧化』


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実を言うと、最初に召喚したザックは魔王軍幹部で最弱の位置にいる。

人間であるザックは、他の人外である魔王軍幹部には単純な力比べだと負けてしまう。

そういう設定にしたのだ。



だから最初は同じ「人間」として設定したザックが現れた時、妙な安心感があった。

ザックも少し主人に忠実すぎるところはあるが、サラや他の魔王軍はそう生ぬるくない。

主人を守るためなら徹底的にる。

俺がこのスキルの本当の力を知った時に唯一不安に思った点だ。



「パパ、サラつよい?」


「ん?あぁ、強いな。えらいぞ」



頭を撫でる。

猫のように目を細めて喜ぶサラ。

いかんいかん、何かに目覚めてしまうところだった…。

当時ロリ×ヴァンパイアという掛け合わせに、プレイヤーの一部が物凄く盛り上がった。

それほど、目の前にいるサラというキャラが魅力的だということだ。



「じゃあサラ、スキルの中で一番MPを消費しない戦闘スキルを教えてくれる?」


「んー?MPが少ないのはね……『血液操作』だよっ!」


「『血液操作』か……」



それを聞いた瞬間、俺は若干怖気付いた。

せっかくだからサラからもスキルをコピーしようと思ったが、俺のステータス的にはやはりMPの消費が少ないスキルが今は使いやすい。

だが、そのスキルが『血液操作』ときた……。



「サラ、『血液操作』を使ってみてくれない?痛いなら別にしなくても……」



ガッ



俺が言い切る前にサラは自分の鋭い牙で指をかじる。

痛々しいその指から血が滴る。

次の瞬間。

液体であるはずの血液が、くねくねと形を変えていく。

それはあっという間に先が鋭い強靭な針となった。



「あ、ありがとう。やはりゲームと同じ仕様か…」



この『血液操作』は、自分のMPと血液を同時に消費して発動するスキルだ。

このスキルを使い過ぎるとMPはもちろんのこと、血液も消費するから貧血状態になる恐れがある。

このスキルにはリスクが伴うのだ。

発動するのに自分も傷つけなきゃいけない……痛いのは嫌だなぁ……。



「ちなみに消費するMPはどれくらいだ?」


「んーとね、800だよぉ」


「800か………」



すぐに自分のステータスを確認する。



——————


【名前】九条 カイト 

【レベル】 20/100


【H P】 600/600

【M P】 820/820

【攻撃力】 280

【防御力】 300


【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.1)』『剣心』


【召喚可能】

■ザック・エルメローイ(剣聖)

■サラ・ドラキュネル(夜ノ王)


——————




今の俺にとって800MPの消費はかなり大きい…。

だが、サラのスキルをコピーしたところで使えるスキルはこれだけだ。

まあ、試してみないことにはわからない。

とりあえずやってみようと思う。

サラのスキル『血液操作』のコピーをしようと念じる。



「さて、どうやって自分を傷つけようか…」


あるじ!サラ様の能力で己を傷つけなくともっ!」



しばらく黙っていたザックが、慌てた様子で取り乱し始めた。



「大丈夫だザック。サラ、そこの短剣を取ってくれ」


「はぁーい」


「サラ様!」



念のために持っていた短剣。

それを右手に持ち、左手の人差し指第一関節あたりを切りつけた。

…うん。痛い。

それと同時に発動する。



「『血液操作』」



すると、サラの時同様、俺の血液はくねくねし始めた。

俺がイメージする剣……。

イメージはザックが使っている聖剣、ヴァニエラ。

目をゆっくりと瞑る。

ポンメル、グリップ、ガード、ブレイド———。

一つずつ想像し、創造する。



「おぉ……」


「さすが、パパ」



ゆっくりと目を開く。



目の前には、赤黒い色をした立派な剣。

それは聖剣ヴァニエラと比べても色以外違いがわからないほどの精密さだった。



「スキルってこんなこともできるのか…」


「パパ、それはただの剣じゃないよぉ」


「ただの剣じゃ…ない?」


「うん。なんでわからないけどその剣にサラの吸収アブソーブションの力があるみたいなの」


吸収アブソーブション?」


「そそ、サラがグサってした人の魔力をちゅうちゅう吸ってサラのものにできるの」


「…つまり、俺がこの剣で傷つけた相手のMPを吸収して自分のものにできるってことか?」


「そぉー!」



なんだ、そのチート機能…。

確かにサラは「ロード&マスター」の中で、相手の魔力を吸収できるキャラとして作った。

だが、実際にそれを目の当たりにすると改めてすごい能力だと認識する…。



「やばい…早く試したくなってきた」



興奮が抑えられない。

どうも最近はダンジョンやスキルのことばかり考えてしまっている。

それが良いことなのかはさておき、日に日に俺の好奇心は高まっていたのだ。



「では、この後はダンジョンへ向かいますか?」


「サラも戦いたい!」


「んー、そうだな。でもその前にちょっと協会に寄ろうと思う」


「協会ですか…なるほど、あれらを持って行くのですね」


「あぁ、さすがにあの倉庫も場所がなくなって来たし、まとまった金もそろそろ欲しい。新しい防具なんかも買いたいし」


「なになに!何の話!サラだけわからないよぉ!」



 ◆ ◆ ◆



探索者協会 1階。



「おい、見ろよあれ」


「何あれ……一体何が入っているのよ」


「あれって噂の金髪騎士じゃないか?誰だ、あの横にいる冴えないおっさん」


「それにしても…すごい光景だな……」



協会に入った瞬間、周りがざわついているのがわかる。

俺の運んでいる量は大したことないが、ザックの運ぶ量は俺の5倍。



ちなみにサラは控えてもらっている。

あの子が人前に出るときっと大騒ぎになるし、そもそも太陽光が苦手なサラは昼間に出てこれない。



俺らは大きい袋を担いで、2階にある「魔核回収カウンター」に来ていた。



「あの、すみません」


「…は、はい!」


「ちょっと量多いんですけど、大丈夫ですか?」


「……何個ほどでしょうか……?」


「この袋と、あっちのが持っている袋もそうです」


「…………少々お待ちください」



そう言って、受付の男性は電話をかけ始めた。



「あ、あの、大量の魔核が運び込まれまして……はい……はい……はぃ……」



しばらくすると受付の男性は電話を切り、一言だけ俺らに言い放った。



「会長室までお越しくださいとのことです」



「………なんでだよ………」



会長室。



「久しぶりですね。九条さ…………ん?」



会長の様子が変だ。

部屋に入ってきた俺の顔を見るなり、何か変なものでも見ているような顔をし出した。



「く、九条さん、それは一体どうしたんですか…?」



あ、そうだった。

この人には「鑑定」ってスキルがあるんだっけ。

じゃあ俺のスキル欄に『剣心』と『血液操作』が追加されたことに驚いているんだろう。

スキルを後から身につけるなんて聞いたことないからな。



「何で召喚可能欄にサ、サラちゃんがっ!?!?」



え、そっち!?

てか、ちゃん付けかよ…。



「九条さん!是非、私にサラちゃんの姿を拝ませてはくださいませんか!」



うわぁ…。

ものすごい勢いで頭下げられてるんだけど…。

いつもは凛々しくその席に座って「うむ」とか言ってそうなおじさん、それも元自衛隊のお偉いさんのこのギャップは何だろうか…。



「無理です…」


「な、な、なぜっ!?私の一番好きなキャラなのですよ!それをわかって言って——」


「だって、召喚したらサラに飛びつきそうな勢いだもん……」


「そんなことは断じて!断じていたしませんっ!」


「あの…とりあえずここに呼んだ理由を聞いてもいいでしょうか…?」


「あ………コホンッ。どうぞ、席にお掛けになってください」


(だから…何だよそのギャップはっ!)


「何やら大量の魔核を持ち込んだとか?」


「えぇ、約1ヶ月間ダンジョンに籠って溜め込んだ魔核です」


「1ヶ月間?それは何かの冗談ですか?」


「いえ、実際1ヶ月のほとんどをダンジョンで過ごしていました。俺、レベルが上がりにくいのでちょっと張り切ろうと思った結果です…」



正直1ヶ月間ダンジョンにずっといたのは、今考えてもかなりヤバイことをしていたのだと改めて気づいた。



「なるほど…しかし、ザックさんが一緒にいたのなら頷けます」


「あ、いえ。あの魔核は全部俺が狩ったモンスターから取った物です」


「……………あはははは。またまた、九条さんも冗談が上手ですね」


「………」



「…………マジ?」


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