第22話 技術と討伐



「全滅する……?」


「はい、3人とも実力はかなりあると思われます。しかし、見たところパーティーは臨時的なものの上に、3人とも攻撃型の戦闘スタイルかと」


「……なるほど」




やっと理解ができた。

一時的に組むパーティーほど恐ろしいものはない。

その上、3人とも攻撃型の戦闘スタイルときた。

パーティーにはきちんとした役割が存在する。

攻撃、防御、支援の3つだ。

おそらくどこのパーティーもこの条件を満たしている。

そうでなければ、パーティーとしての役割が果たせないからだ。



3人とも攻撃型の戦闘スタイルだと、パーティーのバランスが崩れて全滅してもおかしくない話だ……。

永遠のイグニスは一体何を考えている…。

と、その時だった。



「ぅ!!!何やってるのよぉっ!!!!」


「ふざけるなっ!!お前、支援に回れよっ!」


「ギャァァァアアアアアアア———」


「……くそっ!———」



扉の向こうから微かに聞こえる声。

ザックは目を瞑りながら聞いていた。

彼にとって扉の向こうの人間など全く関心の無いもののようだ。



だが…….、ここで見捨てて良いものか……。

見た所奴らはまだ20代前半。

まだ未来のある若者だ…。



その時ふと脳裏に浮かんだのは、自衛隊員の真壁さん。

俺が初めてダンジョンに入った時にサポートをしてくれた人。

彼の言葉、「日本国を、家族を、未来ある若者を守るには戦うしかない」。

不意に浮かんだその言葉…。

誰かを守ために戦う…。



「ザック」


「はっ」


「扉を開けてくれ」


「……かしこまりました」



どっちにしろ、助けなかったら後で胸糞悪くなる。


なら、助けるだけだ……。




 ◆ ◆ ◆




ダンジョンのボス部屋は、基本的に入ったらボスを倒すまで出られない。

だが、後から戦闘中の部屋に入るのは別だ。

例え前に入ったグループが戦闘中でも、続いて入ることはできる。

では、なぜ今まで大人数パーティーの交代制でボス部屋の攻略をしてこなかったのか。



———1人が貰える経験値が減るからだ。

パーティーを組むと、倒したモンスターの経験値は平等に分配される。

モンスターにどれほどダメージを与えたかではないのだ。



ギィィィイ



ザックが扉を開く。

部屋の中央には、悪魔デーモンに似た人型のモンスター。

全長3メートルほどで肉体は筋肉質。

95階層にいたザザンガは黒いツノだったが、目の前にいるそいつは白いツノを生やしていた。

おとぎ話に出てくる鬼のように、髪は細かくちぢれ、黒い腰布を巻いている。

その手には金棒を握りしめていた。



鬼に目線を移した後、ゆっくりとその周りを見渡す。

1人は息を荒くして剣を構え、1人は片腕を失って倒れ、1人は右胸を刺されて意識がない。

思っていたよりやばい状況のようだ……。



「ギィ?ギガァガァアガァァアア」



鬼が扉から現れた俺とザックに気づいた。


「お、お前っ!!何しにきたぁっ!!経験値はやらんぞぉ!!!!」


「……まだそんなこと言ってるのか」


「はぁん!?お前が来たところで何も変わらないんだよぉ!!ぁああははははははぁああ」



過度にやられたのか、どうやら精神状態にまで影響を与えている。

人間って追い詰めらるとこんな姿になるのか……。



「ザック、すまないが奴らにを頼む」


「…かしこまりました」



カチッ カチッ カチッ



鎧の音と共にザックはゆっくりと3人に近づく。

それに反応したのか鬼はザック目掛けて巨大な金棒を振るう。

だが、それを片手で受け止めたザック。



あるじ……こいつはお願いします」


「あぁ。任せろ」



そう言って、受け止めた金棒を思いっきり押し除けるザック。

その勢いで鬼は10メートルほど吹っ飛んだ。



目の前で起こっている異常現状。

3人のうち2人はそれを目の当たりにした。

自分たちが死ぬ思いで戦っていた相手が、片手で圧倒された姿。

それはあまりにも異常だった。



3人の前で手をかざすザック。



「主のめいならば仕方がない。お前たち、主の慈悲に感謝したまえ……『完全治癒パーフェクトヒール』」



神々しい光が3人を包み込む。。



「え…なんだこれ…」


「私の腕…生えてる…」



どうやら治癒は完了したようだ。

あんな奴らでも助けなければ、真壁さんやナオたちに合わせる顔がない。

さて、俺は俺のするべきことをするか。

ザックに吹っ飛ばされた鬼はゆっくりと立ち上がる。

俺はそいつの前に立って、ロングソードを鞘から抜いた。



俺のステータス自体は低い。

だが、ザックからコピーしたこのスキル———『剣心』。

これを有効活用して今まで戦ってきた。

ザックは他にもスキルを持っていたが、俺に合うのはこの『剣心』だけだ。

なぜなら消費するMPが少ないから。

ステータスを眺める。



——————


【名前】九条 カイト 

【レベル】 19/100


【H P】 480/480

【M P】 600/650

【攻撃力】 170

【防御力】 200(+50)


【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.1)』『剣心』


【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)


——————



ザックのスキルの中で唯一『剣心』だけは、消費するMPが50と少ない。

俺がこのスキルを選んだ理由の一つでもある。

一度『剣心』を発動すると24時間は使える。

とても省エネなスキルだ。



「かかってこい」


「グルゥアァァアアアアアアアア」



ドスンドスンと地響きを鳴らしながら突進してくる鬼。

右手に持つ金棒を真上から叩きつけてきた。

軽いステップで右に避ける。

動きが単純で読みやすい、だがあの攻撃を食らったら俺は原型を留めてないかもな。



くそっ……。

なかなか隙を見せない。

あれから3分くらい経っただろうか。

奴の体力は尽きることなく、金棒を振るい続けている。

完全に避けきれないものは、ロングソードで受け流す。

その蓄積されたダメージは確実に俺のHPを削っていた。

横目にステータスを見る。



——————


【名前】九条 カイト 

【レベル】 19/100


【H P】 360/480

【M P】 600/650

【攻撃力】 170

【防御力】 200(+50)


【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.1)』『剣心』


【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)


——————



さすが50階層のボスだ。

金棒自体は俺に当たっていないのにこんなにHPを削られている…。

そろそろ隙を作らなければまずいな。




 ◆ ◆ ◆




「なんだ……あの動きは」



目の前でくり広げられている戦闘。

その動きは達人と呼べるほどの技量だった。

ほとんどの人は、スキルに頼り切った戦闘スタイルを取る。

だが、目の前の男はスキル以上の技術を有していた。

一体どれだけ鍛錬を積めば、あれほどの剣技を扱えるのだろうか。

そう思う3人であった。



「…お前が助けてくれたのか……?」



3人のうちの1人がザックに話しかけた。



「……主の慈悲だ」


「主ってのは…戦っているあのおっさんのことか?」


「…」


「な、なぜ助けてやらない?お前ら仲間じゃないのか?」


「…」



ただじっと主を見守り、その場に待機するザック。



九条が今までザックと戦ってきた回数、526戦。

もちろん九条の0勝526敗だ。

だが、その中で九条は確実にスキル以上の技術を手に入れた。



「グルァガァァァアアアガガァァアアアア———」



金棒が当たらないことに痺れを切らしたのか、突然叫びだす鬼。


その隙を九条は見逃さなかった。


鬼の懐まで間合いを詰めて、眼球を狙って一振り。


初めて鬼にダメージを与えた瞬間だった。


紫色の血が飛び散る。


視界が塞がれたことによって、鬼は金棒を四方八方に振り回し始めた。


隙だらけの鬼の心臓目掛けて一刺し。



「…グゥァ…」



金棒を手放し、九条の目の前で膝をつく鬼。


その巨体はゆっくりと砂と化して消えていった。


その瞬間、じっとその戦いを見つめていたザックが3人に近づく。


聖剣ヴァニエラを瞬時に召喚し、その形状を巨大な盾のように変形させた。


そして、九条を覆い隠すように3人の目の前でその盾を構える。




【レベルが上がりました】


【レベルが20に達したため、スキル『オーヴァーロード』がレベルアップします】


【ローディング中…】


【ローディング中…】


【接続完了】


【只今より召喚を実行します】





「……会いたかったよ………パパ」

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