第21話 信頼と火種



「お前たちに、俺のスキルについて話そうと思う」



「先輩のスキルですか?」


「確か、前に電話した時はよくわからないスキルだって言っていましたよね」


「あぁ。あの後、スキルの本当の力がわかったんだ」


「本当の力ですか?」


「あぁ——————ザック」



俺と3人の間に一筋の光が出現する。

綺麗になびく金髪、ゆっくり開かれた目は綺麗な青。

白銀の鎧、胸当てには「自由」を意味する翼の装飾。



「———これが俺のスキルだ」



腰を抜かす田所。

安井も荒幡も驚いて数歩後ろに下がった。



「ザ、ザ、ザ、ザック・エルメローイっ!?!?!?!?!?!」



何も命令していないのに、自然と膝をつくザック。



「お初にお目にかかります、エィンジェルの皆さま。ザック・エルメローイでございます」



———エィンジェル。

「ロード&マスター」の中では、天使という存在に位置する。

神の助手のようなものだ。



「せ、先輩っ!!!どういうことですか!?」


「な、な、なんであのザックがっ!?!?」


「俺……夢でも見てるのか………」




 ◆ ◆ ◆




「———未だに理解できません…」


「そもそもスキルって、個人の創造物に干渉してそれを具現化なんてできたんですか…?」


「いや、そんなの聞いたことない…」


「でも実際に先輩がザックを召喚した…」


「これをお前らに話したかったんだ。一緒にロード&マスターを作った仲だ。お前たちにも関係することだ」


「先輩…このスキルはあまりにも異例です…。世界初の召喚系スキル、召喚できるキャラの強さ、そんなのどこのギルドも欲しがる。いや、まず第一に国が欲しがるかもしれないっす」


「ああ。だから俺は誰にも言ってこなかった。偶然バレてしまったのは2回くらいあったけど、俺の意思で伝えようと思ったのは、お前らが初めてだ」


「…そうですか…。それにしても、すごいですね」



そう言って田所は、ザックの周りを回りながらまじまじと観察し始めた。



「ロード&マスターにいたザック・エルメローイより忠実に具現化されていますね…。ザック君、ちなみに聖剣は出せる?」


「ヴァニエラのことでしょうか?」


「そうそう、ヴァニエラ」


「はい、可能です。出てこいヴァニエラ」



ザックがそう言うと、右手には聖剣が出現した。

ザックというキャラクター自体は俺が作ったが、この聖剣ヴァニエラは田所がデザインして何週間もかけて作ったものだ。



「こ、これはぁぁあああ!おぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおお!!ちょっと持ってみてもいいかい?」


「田所やめときな。その聖剣は俺も持てなかった。多分、ザックにしか持てないものだと思う」


「そ、そうですか……残念です」



田所の興奮が一気に冷めた瞬間だった。

だが、その後も彼は目の前にある聖剣ヴァニエラを凝視している…。



「でも、今の先輩の話だともう1レベ上がればもう一体召喚できるってことですか?」


「うーん、まだ確証はないけど俺はそう思ってる」


「ってことは、先輩の作ったキャラ10体が召喚できるようになると?」


「ゆくゆくはそうなるんじゃないかな」


「うわぁ……チートだ。チートすぎてもう笑うしかない…あははぁぁ」


「もし2体目召喚できたら、ぜひ俺たちにも見せてください!」


「あぁ、その時はまた報告しに来るよ」


「先輩、ちなみにこの後どうするんですか?もし空いてたら食事にでも行きません?」


「ん?あぁ、俺も行きたいところだが、早くレベルアップさせたいから今日はダンジョンに行くよ」


「そうですか……」


「悲しい顔するなって!俺がダンジョンから出てきたらまた誘ってくれ。その時は俺の奢りだ」


「マジっすか!!無事の帰還、お待ちしておりますっ!」


「「ごちになりますっ!」」


「……お前ら……奢りって聞いたら相変わず元気になるな……」




 ◆ ◆ ◆




———東京ダンジョン 50階層



迷宮や広大な森、洞窟などは一切無く、あるのは巨大な扉が1つ。

扉には鬼の形相をした者の彫刻が5つ。

どの彫刻にも黒いツノがついており、その姿はまさに「鬼」そのものだ。



「なぁ、ザック。この1番右端にいる彫刻ってあの95階のザザンガに似てない?」


「そうですね。言われてみれば似ているような気がします」


「だよね…」



なんで門の彫刻の一部になってるんだ。

疑問に思うところはあるが、とりあえず門の向こう側にいるやつに集中しよう。

レベル15の時に一度だけ挑戦したが、その時は手も足も出ないで負けた。

ザックに助けられたから一命を取り留めたけど、もし1人で挑戦していたら確実に死んでいただろう。



「よし…行くか」



扉に手をかけようとした瞬間、後ろから話し声が聞こえた。

50階層までたどり着いたってことは、最低でもランク3以上だ。

転移陣には3人の姿。

女1人に男2人のパーティーのようだ。



「50階層のボス私たちも初めて……ってあれ?先客かしら?」


「ん?おい、お前。なんで1人でこんなとこいるんだ?」


「ん?そんなのボスに挑戦……」


「あっ!あれか!パーティーに足手纏いだと思われて置いていかれたのかっ!」



目の前に現れたのは、今最も世間を騒がせているギルド。

永遠の炎イグニス」のパーティーのようだ。

3人とも鎧に永遠の炎イグニスのシンボルマークがあった。



「どこのギルドだ?」


「…なぜそんなことを聞く?」


「50階層に来れるってんならランク3かランク2だろうよ。まあ、お前を見ている感じじゃランク2はないか。ライバルギルドの名前くらい把握したいだろ」


「はは、やめとな、達也。俺ら永遠の炎イグニスにライバルなんていねーよ」


「あぁ、それもそうか!あはははは」


「ほら、行くよあなたたち。炎さんに後1週間以内に50階層を突破してこいって言われてるんだから」


「おうよっ!お前は早く地上に戻りな。自分のレベルに合ったギルドに入れよ、おっさん」



言いたいことだけ言い残して、3人は扉を開けて中に入って行く。

とっさのことだったからザックを控えさせてしまった…。

ダンジョンのルール的には、最初にボス部屋の前に立った者が最初に入る権利を持つ。

そのルールをあいつらは思いっきり破った。

まあ、監視する人もいなければ監視カメラもない。

ルールはあってないようなものだ。



「ザック」


「……はっ」


「……………」



…なんだ…。

ザックの様子が妙だ。

いつもなら主である俺が馬鹿にされたら「消しますか?」とか言うのに、今回は全く反応しなかった。

……気になる。



「あの…ザック、さん」


「さん付けなどおやめになってください」


「あ、はい…あの、なんで今回は怒らないの?」


「怒る…?ですか。私、今怒ってますよ」


「え…」



無表情で怒ってますよって言ってる方が怖いんですが!?

ほんと、どうしたんだザック……。



「怒ってますが…これから死んでいく人に怒っても意味がないと思ったまでです」


「……死んでいく人?」




「えぇ。奴ら、おそらく全滅します」


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