第20話 目標と寄り道
なんだよ、ギルドって…。
久々に神楽坂第一ホテルに泊まって、テレビをつけたら「ギルド」ってワードが色々な番組で使われていた。
俺はすぐさまスマホを出して調べた。
「探索者協会に属さない、個人で運営する探索者組織のこと……?」
なんだそりゃ。
ここ1ヶ月くらいほとんど情報というものに触れてこなかったせいか、さっぱりわからない。
なにせ俺は約1ヶ月間ダンジョンに潜り続けていたからだ。
レベルが10を超えたあたりから、著しくレベルが伸びなくなってしまった。
まあ、ゲームなどでは当然レベルアップに応じて消費する経験値も多くなる。
だが、俺の場合はそれがあまりにも遅い。
だからなのか、元ゲームクリエイターで、元ゲーマーの俺に火がついてしまった…。
一体どれだけのモンスターを倒せばレベルが上がるのか。
試したくなってしまったのだ…。
結局、約1ヶ月間ずっとダンジョンに潜った…。
シャワーはダンジョン前の公衆施設を使った。
それで週に一度だけナオたちに食料をダンジョンまで持ってきてもらい、一緒にダンジョンに潜り、その後はまた1人で1週間潜る。
それを繰り返し、1ヶ月経った今日久々にダンジョンから出てきた。
「ステータス」
——————
【名前】九条 カイト
【レベル】 19/100
【H P】 480/480
【M P】 650/650
【攻撃力】 170
【防御力】 200(+50)
【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.1)』『剣心』
【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)
——————
こんだけやって、やっとレベル19だ。
あくまで俺の予想だが、レベルが20になったらキャラクターをもう一体召喚できるのではないかと思う。
スキルの横にレベル表示がついてるし。
「ザック」
「はっ」
眩い光と共にザックは現れた。
「いよいよ今日から50階層のボスに挑もうと思う。どう?今の俺は勝てそうかな?」
「五分五分でございます。後は、
「……正直に言ってくれるね…まあ、いざという時は助けて欲しい」
「かしこまりました」
「あ、そうだ!その前に行きたい場所がある」
「行きたい場所、ですか?」
「あぁ、俺のスキルを奴らに伝えることになるけど、信用できる奴らだから安心してくれ」
「主がそう言うのでしたら…」
俺らが辿り着いたのは、オフィスが立ち並んでいる東京都心、丸の内の一角だ。
そこには立派とは言えないが、こじんまりとした小さなビル。
看板には「TIA」(ティア)と書かれていた。
「うわぁ…あいつら安直な名前つけたな……」
「ここが、来たかった場所なのですか?」
「そうそう。あいつらにも色々迷惑かけたしちょっと挨拶しておこうかなって。とりあえずザックは控えてていいよ」
「かしこまりました」
ザックが光と共に消える。
ビルの自動ドアを入ると、目の前の受付カウンターに1人の女性がいた。
アポ無しで来ちゃったけど大丈夫かな…。
「おはようございます。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「あ、えっと、
「田所代表のことでしょうか?」
「あぁ、そう。代表!」
「アポはお取りですか?」
「いえ、取ってないんですけど…」
「では、後日アポをお取りになって改めてお越しください」
アポを取るのが常識だと言わんばかりに追い返された……。
「ちょっとだけでもいいんで、会えないですかね…」
「いま田所代表は
「……あいつら…昔はあんなひよっこだったのになぁ……」
ぼそっと呟いた一言。
それが受付嬢に聞こえてしまった。
「誰か存じ上げませんが失礼ですよっ!代表の田所さん、石井さんと荒幡さんは3人ともあの「ロード&マスター」の製作に携わっていたんですよ!それをひよっこ呼ばわりって……失礼じゃないですかっ!」
あ、そういえば名乗ってなかった…。
「———知ってますか?あの超人気VRMMO———」
「俺、九条です」
「———私は特にキャラクターが好きなぁ……今……なんとおっしゃいましたか?」
「九条です。九条カイト」
「……………………へ?」
◆ ◆ ◆
———3階 会議室にて
「たーいへん失礼いたしましたっ!!!!!」
「いや、別に気にしてないから…もう土下座はよしてくれ…」
「すみませんね、先輩。こいつ大のロード&マスターファンなのに雑誌の九条さんしか見たことないんですよ」
「あぁ、あの写真ね。確かにあの写真はキメすぎちゃったな…まるで別人だろ、あれ」
俺は雑誌に一度しか自分の写真を載せていない。
月間Log In (ログ・イン)というゲーム雑誌でバリバリにワックスで髪をセットし、普段着ないコートなんて着て撮った一枚。
それは俺自身が見ても別人のように思えるものだった。
「ま、ま、まさか。あの九条様がいらっしゃるとは…」
「そんな大袈裟な…」
「まあ先輩なら当然ですよ。俺らが全盛期だった頃の先輩は、正体不明の天才だって騒がれてましたもん。神だと崇める人だっているくらいなんですよ」
「何それ…聞いたことないんだけど…。それにしても久しいなお前ら」
元「STAR GAMES」の社員で、俺と一緒に「ロード&マスター」を作り上げた3人だ。
「聞いてなかったけど、なんでお前たち前の会社やめたんだ?」
「決まってるじゃないですか!九条先輩がクビになったからですよ」
「そうっす!俺たち九条先輩と仕事がしたかったからあそこに入ったんですよ!」
「なのに何ですか!何で探索者になったんですか!あんな危険な職業…」
悲しむ田所。
俺が会社をクビになってから、こいつら3人とも辞表を出したという。
前に一緒に会社をやらないかと誘われもしたが、俺は探索者という職業を最終的に選んだ。
「まあ…命には関わってくるけど…...俺は今、楽しいんだよ」
こいつらも俺に思うところはあるのだと思う。
無責任に俺は上司に頭突きをして、結局クビになってこいつらに迷惑をかけた。
それでもう一度俺にゲームの世界へ入らないかと誘ってくれた。
なのに俺はそれを突き放して、探索者となった。
複雑な気持ちになる…。
「ぷっ…あははははは——————」
突然田所が笑い出す。
それに続いて石井も荒幡も笑う。
「何悲しい顔してるんですか!」
「…え?」
「そうですよ!俺たちは先輩が今楽しいって聞けただけで嬉しいんですよ」
「別に先輩にゲームの世界にまた入ってもらおうとしたわけじゃないんです」
「俺たちはただ、あの頃のように作りたいものを作る。それを目標にしてるんです。そのついでに先輩を誘ったんですよ」
「……おい、ついでって何だよっ!!それにお前たちの会社名「TIA」って田所・石井・荒幡の頭文字を使っただけだろ!安直すぎる!」
「あははははは。先輩のその顔久々に見たぁ」
「何だよお前ら俺をいじって面白いか!」
「面白いですよ!...この感じ、先輩と一緒に過ごしたあのキラキラした時間が俺は好きなんすよ」
「............そうか」
久々に心が暖かくなった。
こいつらと過ごしたこの時間が俺にとっての宝だった。
…だからこそ、話そうと思った。
信頼できるこいつらなら、話せる。
「お前たちに、俺のスキルについて話そうと思う」
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