第15話 スキルと理由
「皆さーん、順番にお並びください」
東京ダンジョン前、アゴラと名付けられた場所。
そこでは多くの探索者が列を成していた。
ザックは俺の横で帽子とサングラスをかけて立っている。
ザック・エルメローイだとバレたくないからな。
それでもこいつから溢れ出すこのキラキラしたオーラはなんだっ!
すれ違う女性がみんな振り返ってくるのだが……。
「今日はとりあえず3階層に行こうと思う」
「かしこまりました」
会長に会ってから、会長の指示ですぐにザックのライセンスを発行してもらえた。
その上、本来初心者なら行うはずの講習を俺が教えれば問題ないと免除してくれた。
ここまでしてくれるのはおそらく協会に協力して欲しいからだろう。
「ライセンスのご提示をお願いします」
「はい」
「確認できました。九条様とザック様、転移ゲートへ移動してください」
ダンジョンの入り口にある転移ゲート。
それは自分が前回到達した場所に飛べる代物だ。
だから一々ダンジョンを登る手間が省ける。
俺はザックと魔法陣に乗ってじっと待つ。
すると、青白い光が魔法陣から湧き出して俺らを包み込む。
ゆっくりと目を開ける。
———95階 ボス部屋
「…….あ」
完全に忘れていた…….。
そういえば俺たちが最後にたどり着いたの、あのザザンガって悪魔の部屋だった。
「どうやらここは3階層ではなく前回来た場所のようですね」
「あぁ。ミスった」
目の前には96階層行きの転移ゲートと地上へ戻るための転移ゲートがある。
なんだかんだここで色々なことがあったが、このダンジョンが95階層以上で構成されている情報はまだ協会に報告していなかった。
そのうち報告するか…。
「ザック、とりあえず帰還ゲートに乗って下に戻ろう」
「……96階層には行かなくて良いのですか?」
(おぉ。珍しくザックが意見を言ってきた)
「まあ、行きたい気持ちもわかるが、俺がザックについていけないと思う」
「…失礼いたしました…」
ザックがちょっと落ち込んでいる。
確かこいつの設定は戦闘狂とまでは行かないが、それなりに戦闘を好む設定にしていたな。
ザック1人でもダンジョンを攻略できるかもしれない。
だが、もしもザックが倒されたら俺は再び彼を召喚できるかわからない。
無対価で召喚できるからこそ怖い…。
「じゃあ一旦帰還しよう」
「はいっ」
◆ ◆ ◆
「それは本当の話なのですか?」
部屋には日本探索者協会会長、
その向かい側には1人の男。
———
彼は生まれながらのエリート。
その男は、日本の大企業「SAIBA」の跡取り息子。
その身には、オーダーメイドで作らせたイタリア製の高級スーツ。
現在、日本で唯一の1級探索者でもある。
「あぁ。今回の攻略チームにそれなりに実力のある奴を誘っている」
「なぜ素性を言わないのですか?」
「…まだ公表できない事情がある。素性もスキルもだ…。だが、確実にダンジョン攻略の鍵を握る者とだけ言っておこう」
「まさか俺のメイン部隊に入れるのですか? もうパーティー1人1人の役割も決まっているんですよ?」
「…すまないな。それほど奴は戦力になるということだ…」
「鏡花、お前はそいつと会ったのか?」
「…はい」
「そいつと俺、どっちが強い?」
「……もちろん、炎さんです!」
才波炎は険しい顔をした。
鏡花の反応が遅かった。
いつもならすぐに言い切るのに、結論を出すまで若干の間があった。
生まれながらに富、名声、権力を手にしている炎。
だからこそ己のプライドが許さなかった。
自分より優れている可能性のある探索者。
そんな者がいてはならない。
「……気に食わん」
◆ ◆ ◆
「ザック、俺がピンチになるまで手を出さないでくれ」
「かしこまりました」
ザックは一例して、一歩後ろに下がる。
目の前にはナオたちと一度倒したことのある2階層ボス、ゴブリンメイジ。
今日確かめたいことは1つ。
ステータスを見る。
—————
【名前】九条 カイト
【レベル】 10/100
【H P】 260/260
【M P】 340/340
【攻撃力】 100
【防御力】 140
【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.1)』『剣心』
【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)
——————
ザックからコピーしたこの『剣心』というスキル。
これが実戦でどれほど使えるのか。
それを確かめるために、俺は1人でゴブリンメイジに挑戦している。
ダンジョンで倒したモンスターは復活する。
目の前のゴブリンメイジがその証拠だ。
それはゲームでもそうだが、効率的にプレイヤーをレベルアップさせるためのシステムだ。
毎回思うことがある。
世界各国に存在するダンジョンを作ったのは誰なのか、なぜ現れたのか。
自然の原理とは考えにくい。
ダンジョンのシステムや帰還ゲート、モンスターの復活。
これらはまるでRPGそのものだ。
架空の状況下で与えられる試練、探索、戦闘をして目的の達成を目指す。
ここでいう目的がおそらくダンジョン攻略なのだろう。
一体誰がどのような目的でこれを作ったのか……。
「
後ろから聞こえたザックの声。
危ない危ない。
戦闘中に色々考えるもんじゃないな。
集中しなければ…。
「ザック!スキルは使おうと思えば、自然と使えるんだよな?」
「そうです。使おうとする意志があれば使えます」
「わかった」
剣を握って集中する。
俺が今握っている剣は、ザックが協会の武器ショップで選んでくれたものだ。
片手剣よりも少し大きく、ずっしりとした重さ。
騎士の剣とも言われている、ロングソードだ。
集中しろ。
スキルを使って目の前の相手を倒す。
それだけに集中しろ……。
ゴブリンメイジが氷魔法の詠唱をする。
奴の周りには3つの氷でできた巨大な針。
アイスニードルだ。
次の瞬間、アイスニードルは真っ直ぐ俺めがけて放たれた。
すっ
(…なんだ…世界が遅く感じる…)
「———これがスキルか」
ドンッ
ドンッ
カキィーン
2つのアイスニードルを華麗に避け、最後の一本をソードで叩き切る。
そしてすかさず、奴との間合いを詰めた。
奴の驚いた顔が鮮明に見える。
剣を一振り。
奴の首が綺麗に飛んだ。
その間、わずか———2秒。
初めて体験したスキル。
それは想像を絶するものだった。
目の前に落ちたゴブリンメイジの魔核を見る。
「これが、力か……」
「さすが主です。華麗な剣さばきでした」
「…なあ、ちなみにザックは今の相手なら何秒で切れる?」
「…そうですね……0.2秒ほどかと」
「……マジか……それで、俺とお前の差はなんだ?」
「正直に申し上げますと、経験と鍛錬です。いくらスキルを持っていたとしても、鍛錬し、実践で経験をしなければスキルを持っていたとしても宝の持ち腐れです」
「そうか……んじゃあ俺を強くしてくれ!」
「仰せのままに」
ザックはまるで俺がそう言うのを予測していたように返事する。
俺が戦う理由は何か。
正直まだよくわからない。
俺の原点はただの好奇心だ。
誰かを守る、そのような立派な志はない。
それは今も変わらない。
突然この世界を狂わせたダンジョン。
それが俺をワクワクさせ、強くなる理由をくれた。
ただそれだけだ。
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