第14話 会長と勧誘
「いかがなさいましたか?」
探索者協会の日本支部会長、
日本国自衛隊にて
そんな男の顔が一瞬、強張った。
「このMP反応……炎、ではないな。
「はい」
鏡花と呼ばれた女は、すぐに目の前にあるモニターに1階の様子を映す。
そこにはいつものように多くの人が押しかけていた。
だが、亜門宗次郎の目は2人の男だけを捉えていた。
30代手前の冴えない男と、金髪長身のイケメンだ。
「……鏡花、カウンターに並んでいる九条さんとそのお連れ様をここに呼んでくれたまえ」
「かしこまりました」
女は言われた通りに1階受付カウンターに電話を入れる。
コンコン
「九条様とお連れ様がいらっしゃいました」
「どうぞ」
◆ ◆ ◆
俺、本当に何したんだろう……。
日本支部の会長って確か、元自衛隊の偉い人で実践を積んできた人って噂に聞いたことがある。
そんな恐ろしい人が一体俺になんの用だよっ!
「大丈夫ですよ、主。私が付いてます」
これほど頼もしいボディーガードは他にはいないな…。
「九条様とお連れ様がいらっしゃいました」
「どうぞ」
俺たちは言われた通り部屋の中へ入っていく。
そこにはガラス張りの部屋が広がっており、東京の街が美しく見えた。
目の前には、椅子に腰をかけている男とその横でじっとこちらを見つめる女性。
俺は恐る恐る椅子に座っている男の顔を見た…….。
「……あっ」
「お久しぶりです。九条さん」
おいおい、マジかよ…。
あの時のおじさんじゃねぇか。
「あはは、どうやら驚いているようですね。あの時は名乗りませんでしたね。改めて、私は探索者協会日本支部会長、亜門宗次郎です」
「……あはは。そ、そうでしたか……」
誰だよ!
あの時「協会の関係者とは思えなかった」って思ったやつ!(※6話参照)
………俺だよ………。
関係者どころか、組織のトップじゃねぇか……。
「立ち話もなんですし、ささ、席に座ってください。九条さん……ザックさん」
「あ、はい。ありがとうござぃ………え?」
その瞬間、ザックの体から光が放たれ、いつの間にか白銀の鎧を身につけていた。
それと同時に、ザックの右手には聖剣ヴァニエラが召喚され、俺を守ように剣を構える。
「まあまあ、落ち着いてください。ザック・エルメローイは、あなたの作ったゲームをプレイしていた私なら認識している存在ですよ」
「……」
言われてみればそうだ…….。
ザックはそれなりに人気が高い。
知っている人が多くいたっておかしくない。
「ザック、もういいよ。ありがとう」
「はっ」
ザックはすぐに白銀の鎧と聖剣を消した。
「失礼しました」
「いえいえ、とりあえず座りましょう。そのスキルについても少し聞きたいことがありますので」
「……はい」
亜門さんの横にいた女性が茶を3人分運んできた。
綺麗な人だなぁ。
どこかでこの女性を見たことがあるような気がする。
どこで見たんだっけ……。
「失礼ながら今さっき九条さんを鑑定させていただきました」
「…鑑定、ですか?」
「えぇ。私のスキルの一つです。相手の目を見ることによって、相手のステータスを覗くことができる能力です」
「…そんな能力があるんですね」
なるほど。
疑問が解けた。
ザックは俺に召喚される上で、地球に適用するため容姿が若干変わっている。
パッと見でザックだと認識するのは難しい。
だが、会長はザックを見ただけですぐに認識した。
それはステータスの名前が見えているからだろう。
「九条さんのその能力…召か———」
「———ちょっと待ってもらっていいですか」
「……はい」
「俺は今、この能力のことを伏せているつもりです」
そう言って俺は会長の隣にいる女性に目をやる。
会長も何が言いたいのかわかったようだ。
「大丈夫です、彼女は信用できます。もちろんスキルの能力は他言しないつもりです」
「……ザック、大丈夫そうか?」
「はい。大丈夫です」
ザックに助言を乞うた。
ザックは元々ゲームの中で、人の嘘を見抜く才能を持っている設定にしてある。
彼が言い切ったのなら大丈夫だろう。
「ほぉ。確かザックは嘘が見抜けるんでしたよね!」
「……よ、よく知ってますね」
「そりゃしっかりとプレイしていましたからね!」
「……では、話の続きをお願いします」
「そうでしたね。九条さんの能力は召喚系の能力ですよね?」
「はい。私もそう思っています」
俺がそう言った瞬間、会長とその隣の女性が少し力んだ気がする。
「九条さん、率直に言います」
「…はい」
「どうか、そのお力をお貸しいただけないでしょうか」
「…なんで俺なんですか」
「…こう言っては失礼かも知れませんが、九条さん本人というよりかは、隣にいるザックさんのお力を貸していただきたい…」
そう言った瞬間、会長の顔は真っ青となった。
どうしたんだろうかと思って横を見る。
ザックは目の前会長を殺すのではないかという勢いで殺気を飛ばしていた。
横の女性もそれに警戒したからか、拳銃を取り出してこちらに向ける。
会長は冷や汗を流し、心臓の鼓動も徐々と速くなり、呼吸は荒くなった。
「ザック」
名前を呼んだ瞬間、ザックが何事もなかったかのように目の前に置かれた茶をすする。
全くこいつは、主人思いなのはいいが度がすぎるのはよろしくないな。
そこらへんのデータだけ編集できないだろうか……。
「失礼しました、会長。どうぞ話を続けてください」
「……あ、はい。鏡花、それを下ろせ」
「……はい……」
まあ、ザックのあのステータスなら引き入れたい気持ちもわかる。
それに比べて、俺のステータスはむしろ一般探索者より数値が劣っているから、即戦力にはならないだろうな。
「…もちろん九条さんにも協力していただきたい」
「具体的には何を?」
「実は協会の方でダンジョンを攻略するための精鋭チームを作るプロジェクトを進めています。そこにぜひ、お二方に参加していただきたい」
「精鋭チームですか?」
「はい。1級探索者の
「西園寺…あぁ!探索者協会のモデルの!」
「えぇ、そうです。彼女も実力者ですので今回のプロジェクトに参加します」
「なるほど……」
西園寺鏡花。
どっかで見たことあると思ったら、街中のポスター、SNSで毎日のように見かけるアイドルだ。
アイドル兼探索者という肩書きだが、その実力は本物だって噂に聞く。
「どうですか、九条さん。少し考えてみてはくれないでしょうか」
「わかりました。少しザックと相談してから決めようと思います。まだパーティーを組んでいる仲間もいますし」
「すぐに返事を出さなくても良いですよ。じっくり考えてみてください」
「わかりました。では、俺たちはここらへんで失礼します」
俺は目の前に置かれた茶を飲み干して、ザックと協会を後にした。
◆ ◆ ◆
「会長……あの化け物はなんですか……」
「私にもわからんよ…」
「九条という男はまるで使えそうにありませんでしたが、隣にいたあの化け物、あれは確実に才波炎と同等かそれ以上ですよ…」
「それも九条さんの力だ」
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