第13話 剣聖とステータス



———神楽坂第1ホテル



ここは探索者協会が創ったホテル。

探索者なら誰でも泊まることができる。

ちなみに料金は、朝、昼、夜の3食付きで1500円だ。



安すぎて最初は腰を抜かしかけた。

最高級のレストランに、最高のサービス。

俺はすぐに住んでいたマンションを引き払って、このホテルにとりあえず3ヶ月泊まることにした。



その目的はやはり、ダンジョンに集中するためだ。

こんな力を得たからには、ダンジョン攻略に貢献したい。

そう思ったのが半分。

もう半分はやはり………好奇心だ。



俺はこのスキルを獲得してから興奮が止まらなかった。

ザックが言うには、レベルが上がれば他の人も召喚できるらしい。

俺が創ったキャラクターたちが実際に目の前で動く。

そう考えただけで、心臓が高鳴った。



「ザック」


「はっ」



俺が呼んだらザックはすぐに現れた。



「今日からダンジョンを登る予定だ」


「はい」


「だが、2階層以上は必ずパーティーで登る必要がある」


「はい」


「パーティーの最低人数は2人だ」


「はい」


「今日は平日で、ナオたちは大学だ」


「はい」


「今後は効率的にダンジョンに行きたいと思う」


「はい」


「冒険者登録をしないか?」


「かしこまりました」


「……」



まただ。

こいつはなんでも「はい」と頷き、俺の提案は全ての呑む。

俺に忠実すぎて、自分の意見を言えてないのではないかと心配になる。

ザックを召喚できるようになってから1週間。

気づいたことは3つ。



一つ目。

このスキルは、特に何も対価なしでザックを召喚できる。

ザックは強いし、こいつがいれば俺のレベルも上がりやすいと考えた。

しかし、ザックが倒したモンスターの経験値はどうやら俺に入らないようだ。



二つ目。

ザックのステータスは異常だ。

試しにザックのステータスを見れないか試したら、なんと見ることができた。

その内容がこれだ。




——————


【名前】ザック・エルメローイ

【称号】剣聖

【レベル】 100/100


【H P】 38000/38000

【M P】 16000/16000

【攻撃力】 25000

【防御力】 21000


【スキル】 


『剣心』『次元斬り』『見切り』『完全治癒パーフェクトヒール』『女神の加護』


——————




デタラメなステータスだ。

なんだこのスキルの量は。

日本の1級探索者、才波さいばえんだって持っているスキルは4つだ。

まあ、4つも多いけど…。

とにかくザックの強さは計り知れない。



最後に、三つ目。

ザック曰く、俺にはザックのスキルを一つコピーできるのだという。

試しにザックの『剣心』をコピーしたいと心の中で思ってみた。

すると俺のステータスは、



——————


【名前】九条 カイト 

【レベル】 10/100


【H P】 260/260

【M P】 340/340

【攻撃力】 100

【防御力】 140


【スキル】 『オーヴァーロード(Lv.1)』『剣心』


【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)


——————



———こうなった。

なんとスキルの欄に『剣心』が追加された。

『剣心』とは、剣を達人級に扱えるスキルだという。

正直、戦闘センスのない俺には必要なものだ。

大切に使わせていただきます。



「ザック、忠実なのはいいがたまには自分の意見も言えよ?」


「……かしこまりました。頑張ります」



渋々了承したザック。

一体誰がこんな子に育ててしまったのやら……

って俺か………。



「とりあえず、探索者協会に行ってお前のライセンスを取得しに行くぞ」


「はっ」



ザックはそう返事して、ドアの方へ向かった。



カチ カチ カチ



「っておい!待てぇい!」


「はい」


「お前、これから街中に出るよな?」


「えぇ」


「街中でそんなゴツい鎧を着ている奴がいると思うか?」


「あ!すみません。着替えます」



これがザックだ…。

どこか芯があるように見えて、どこか抜けてる。

まあ、そう設定したの俺だけど…。




 ◆ ◆ ◆




———探索者協会本部



「ここが探索者協会ですか…」


「そうだ。日本中の探索者がここに集まる」


「マースより文明がかなり発展していますね」



マースとは、俺が創った「ロード&マスター」の中での世界だ。



「まあな。あの世界は中世ヨーロッパに近い世界設定だからな」



俺とザックは協会に入った。

建物の中はかなり賑やかだ。

探索者が受付に並び、長い列を成している。

建物に入って右側には、カフェ&バー。

左側には、ダンジョンの攻略状況と各階の詳細が掲載されている掲示板。

俺らは「新規登録」と書かれたカウンターに並んだ。



キャーーーー

カッコいいぃーー

どこかの俳優さん!?



黄色い声が辺りから聞こえる。

ザックのせいだ…。

なびくように綺麗な金髪、180センチもある高身長、顔立ちは黄金比を意識して作った。

俺がな!!



「お待たせいたしました。探索者ギルドへようこそ」


「どうも、新規登録をしたいんですが」


「かしこまりました……」



プルルルルルルル



「すみません。少々お待ちください」



電話に出た受付嬢。



「………ひゃいっ!!」



いきなり席を立ち上がり、裏返った声で返事をする。

どうしたんだろうか。



「はい……はい……か、かしこまりました」



受付嬢は恐る恐る電話を切り、こちらを見つめてきた。

何か恐ろしいものでも見ているようだ。



「あの……九条様、お連れ様と至急50階まで行くようにと…」


「なんでですか?」


「た、探索者協会、日本支部の会長がお呼びです」



「え……」



俺……なんかしたかな……。

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