第12話 光と騎士



「お待たせいたしました……あるじ



朦朧とする意識の中。

目の前に現れたのは、一筋の光。

さっきまで全身が凍えるように寒かったのが…暖かい……。



カチカチカチ



そんな金属が擦れる音と共に、何かが近づいてきた。



「よくぞここまで……『完全治癒パーフェクトヒール』」



突然俺の体を暖かい光が包む。

俺の意識は徐々に戻り、左手が元に戻っているのに気づいた。

ゆっくりと目を開く。



「っ………………」



はっきりとしない意識の中で俺は確かに見た。

白銀の鎧に身を包み、目の前で跪く男。



鎧には自由の象徴である鳥の翼が刻まれており、その凛々しい眼差しは、全てを見通せるほどに澄んでいた。



知っている———。

この顔を、この鎧を、この瞳を、俺は誰よりも知っている。

混乱する意識の中、俺は奴の名前を呼んだ。



「ザック…なのか…」


「…はい。ザック・エルメローイです、主」



奴は自分のことをザックと認めた。

これはもう認めるしかない。

いや、もちろん混乱はしている。

なぜ俺の作ったゲームのキャラクターがここにいるかは謎だ。

だが、俺はすぐにそれが現実だと理解した。

横目でステータスを見る。



——————


【名前】九条 カイト 

【レベル】 10/100


【H P】 260/260

【M P】 340/340

【攻撃力】 100

【防御力】 140


【スキル】 『オーヴァーロード』(Lv.1)


【召喚可能】■ザック・エルメローイ(剣聖)


———————




これが、俺のスキルなのか。

もうなんでもありなんだな。スキルって。



「おいおい、なんだそいつは…」



あ、やべ。

ザックに気を取られて完全に奴を忘れていた。

奴から物凄い殺気が放たれる。

だが、何故だろう。

ザックがそばにいると恐怖を感じない。



「あの…ザック、さん」


「主。先に言っておきますが、私に敬語は不要ですよ」


「いや、でも」


「主は私にとっていわば神なのです。どうかご命令ください」



命令…。

あぁ、そうか。

ザックなら倒せるかもな。

元ドラグニル王国、最強の戦騎士長。

ザック・エルメローイなら倒せる。



「ザック」


「はっ」


「あのクソ野郎をぶっ飛ばせ」


「承知いたしました。10秒だけお時間をください」



そう言って、ザックは奴の方を向いた。

いつのまにかザックの右手には、聖剣「ヴァニエラ」を握りしめていた。



「お、お前…どこから現れやがった」



なんだ?

悪魔が怯えているのか?

そういえば、ザックが現れてから奴は玉座を立ち上がって震えていた。

…ザックの強さって一体… 。



「私は元ドラグニル王国、戦騎士長ザック・エルメローイである」


「名乗りか…。なら俺も礼儀を通そう。95階層守護者ザザンガだ」



お互いに名乗りを上げ、互いに構える。

だが、勝負は1秒としなかった。

ザックが剣を一振り。

その一振りで全てが終わった。

剣から放たれた斬撃は、空気を切り裂き奴の首を刎ねる。

奴の体は砂と化し、そこには小さな魔核が落ちた。



「なんて……強さだ……」



ザック・エルメローイの強さ。

俺が想像していたよりはるかに上だった。



「ザ……ザック様!?!?」



……様?

突然後ろから叫び声がした。

相変わらず叫んだのはナオだ。

てか、ナオのやつザックを知っているのか?



「お、おっさん!なんでザック様がここに!?」


「え、ザックってあのロード&マスターの?」


「そーだよ!剣聖ザック・エルメローイ様だ!」


「でも、なんでゲームのキャラクターが?」



櫻がそう聞いて俺を見る。

こっちを見ないでくれ…。

狼にやられた時に服やズボンが破けてるんだ。

30手前のおっさんがこんな格好……恥ずかしい!



「まあ、なんだ…ザックは俺が作ったキャラなんだ……」



「「「えぇぇぇええええええ!!!」」」



あ、熊起きてたのか。

無事そうで何よりだ。



「え、じゃあおっさんってゲームクリエイター?」


「あぁ、元な。ゲームも作ってたし、キャラクターデザインとかもやってたよ」


「「「おぉ」」」



この子らに初めて感心されたのかも。

過去の栄光にすがるとかそういうのではないが、案外気分がいい。

そもそもこの子らが「ロード&マスター」を遊んでいたとは、嬉しいものだ。



あるじ…」



ザックが低い声で俺にだけ聞こえるように話しかけてきた。



「どうした?」


「主のこの能力、あまり人に広めない方が良いかと」


「え、なんで?」


「召喚系のスキルは世界初で、重宝されます。国にうまく利用されたり、他国に狙われたりする可能性が大きいかと…」



なぜザックがこの世界のこと、スキルのことを知っているのかはわからない。

だが、システムがうまく調和したのだろうと考えた。

先ほど見たザックの技【次元斬り】は、ゲームの中では元々あのようなモーションではない。



こっちの世界に来る上で、この世界、地球の知識に適用できるように世界が干渉した。

俺はそう考える。

あくまで見解だが、そうとしか思えなかった。



「なるほど、わかったよ。なるべく人に見せないようにする」


「ありがとうございます。それで………


………あの子供たちは…?」



「……え」



心の臓が一瞬止まったかと思った。

———そうだ。

俺が自分で作った設定なのに忘れていた。

彼は、ザックは、確かに正義感があって優しい。

子供が好きだし、無闇に人を傷つける人ではない。



だが、彼は主人に忠実なのだ。

忠実すぎるくらいだ。

だからこそ主人のことを第一に考える。



それもただの主人ではない……。

俺が担当して作っていたキャラクターは、残虐で、冷血で、恐怖の象徴である軍のキャクター達だ。



「い、いや、大丈夫。俺が口止めしとく」


「かしこまりました」


「ちなみにザックはずっとこの状態なのか?」


「いえ、主が出てきて欲しい時に出てこれます。名前を呼んでいただければ馳せ参じます」


「おぉ!すごいな。じゃあまたな」


「はい。主、いえ、創造主。私を、私たちに生を与えてくれてありがとうございます」


「……」


「では、失礼します」



そう言ってザックは光の粒となって消えた。

生を与えてくれた。

ザックはそう言った。

だが、それは果たして「ロード&マスター」の世界での話か、こっちの世界での話か。

俺にはわからなかった。



その後、俺はナオたちに説明した。

この能力が表に出たら、俺が狙われる可能性があるということを。

そしたら3人とも素直に受け入れてくれた。

いい子たちだ。



「ぐすっ……ぐすっ……」


「櫻?」


「おい、なんで泣くんだよ」


「…ゔぁ、わたしだちぃ……いぎぃてる……」



脅威が去ったからか心が緩んだ瞬間、櫻は泣き出した。

それに釣られてナオも泣き、その横で熊はそっと2人の肩に手を添えた。



運悪く巻き込まれたランダム転移。

その先で体感した絶望。

それでも3人は強く生きようとした。

運が悪かったのかもしれない。だが、この経験はきっと彼らを強くする。

俺はなぜかそう確信していた。



3人とも、よく頑張ったな。

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