第7話 消滅と占領




「大統領、ローマが厳戒態勢に入りました」



アメリカ合衆国大統領ジェームズ・スミスは、モニタールームにて軍からの報告を聞いていた。



「そうか。バチカン市国の住民の避難はどうなっている?」


「そ、それが…」


「やはりまだ残っているのか」


「…はい」



バチカン市国は、ローマカトリック協会の総本山だ。

その地が聖地だと思っている人は世界に多くいる。

だからこそ、まだ避難をしていない人がいた。

聖地が汚されるはずがないのだと思い込んでその場に留まった人は全部で61人。



国を見捨てて逃げ出したバチカン政府の代わりに、現地の指揮はアメリカ合衆国が取った。

だが、アメリカ合衆国には避難を強制はできなかった。

実際に消滅する証明がまだできていないからだ。



「ジャイロ、時間のカウントダウンを頼む」



ジャイロと呼ばれていた人は、バチカン市国の住民だった。

国が消滅までの時間は、その国の国民にしか表示されない。



「あ、あと5分です…」



その声は震えていた。

自分の国が消えるのだと聞いたら、誰もが恐怖するだろう。



「ドローンカメラを飛ばせ」



大統領の命令と共に、待機していたドローン200台が一斉に飛び上がった。

消滅という事実を撮影するためだ。



【バチカン消滅まで———2分】




【バチカン消滅まで———1分】




【バチカン消滅まで———10秒】




【バチカン消滅まで——————1秒】




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォ



カウントダウンが0になった瞬間。

バチカン市国がダンジョンを中心に揺れ出した。




「………うそだろ………」




映像を観ていた誰もが恐怖した。

そこに映っていたのは、まさしく悪夢だ。

これは映画のワンシーンだろうか?

そう思ってしまうのも仕方がない。



その揺れと共にダンジョンの門から現れたのは、モンスターの姿。

それも1匹や2匹ではない。

数百、数千、そういう単位だ。

奴らが一斉にダンジョンから飛び出して、ものすごい勢いで走り出した。



目の前でバチカンに残った人々が無残な姿になっていくのがわかる。

映像を観ていた人の多くは言葉を失い、この現実から目を背けようとした。



「…………ぅりょう!……………」

「……大統領!!!!」


「あ、あぁ」


「モンスターがものすごい勢いで拡散しています!このままではローマ本土に入ります!」


「す、すぐに第1部隊と、あいつを出せ!」


「はいっ!」



判断が遅れたのも無理なかった。

こんな展開を誰が予想していたのだろう。

しかし、そこでも大統領のジェームズは冷静に判断した。



「上手くやってくれよ、ジョン…」



 ◆ ◆ ◆



「ワオォ!なんだあれ!……やばいなぁ」


「ミスタージョン?」


「大統領に伝えてくれ、俺には無理だ」


「はぃ!?」


「あいつらがローマ本土に来たら、俺が狩れるのはせいぜい100体だけだ。あの中央にいるアイツは無理だ!絶対に」



ジョンと呼ばれている男の目が捉えていたのは、モンスターの中央に堂々と立っているモンスターだった。

5メートルはあるだろう巨体に、右手には巨大な斧。

口には馬鹿でかい牙が2本。

まさしく化け物だ。



ジョン・ジャクソンはアメリカにいるランク1の探索者。

おそらく人類でもトップクラスの戦力を持つ彼の口から出た一言「絶対に無理だ」。

その一言を聞いたアメリカ兵士は、絶望的な表情をしていた。




 ◆ ◆ ◆




日本探索者本部———東京。



アメリカ軍が撮影している映像は、世界各国にライブで配信された。



「モンスターが出てきたぞ!?」


「おいおい、冗談だと言ってくれ」


「あのままだとローマ本土に入るぞ!?」


「いや、アメリカ軍とローマ軍が対処するだろう」


「あの数だぞ!? 正気か?」



探索者協会の第一会議室にて、協会の幹部が映像を観ていた。

映像に映っていたのは、モンスターが街を破壊していく姿。

高い建物も一瞬のうちに倒壊し、街は火の海と化した。

日本もいずれこうなる。時間の問題だ。

誰もがそのようなことを思い始めた。



「えっ………止まった?」


「「……」」



それは、モンスターがローマとの国境に差し迫った時だった。

先頭を突っ走っていたモンスターが急に走るスピードを落として、ローマに侵入するギリギリのラインで止まったのだ。

1匹たりともバチカン市国から出ることはなかった。



戦場の最も近くにいたランク1の探索者が一言放った。



「……バチカンを占領したのか?」




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