対決
「ここで、俺と勝負しないか?」
星空の発した言葉に翔は動揺した。
「え?金メダリストと勝負とか冗談だろ?」
苦笑する翔。
「そうだな……。流石にジャンプ対決とかは無理があるだろうから、単純な滑りのスピード対決とかならどうだ?」
翔、ゴクリと唾を飲む。
翔は氷上を滑る速さには自信があった。
似たような対決を子供の頃、星空や他のスケーターと何度もやったことがあるが、記憶上では負けた試しがない。
「どうする?」
「……わかった」
翔の返事を聞いてニヤリと口角を上げる星空。
「決まりだな」
*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*
赤いコーンがリンクの形に沿って等間隔に並べられている。
「このコーンの周りを一周して早く戻ってきた方が勝ちな」
氷を削って引かれたスタートラインに立つ翔と星空。
自分を落ち着かせるようにフーっと息を吐く翔。
(なぁーに、相手は金メダリストだ。負けても仕方ない)
リンクサイドから2人を交互にみる瑠璃。
「じゃあいくよ。位置について……」
翔、前傾姿勢で構える。
(むしろ負けて普通なんだ)
「よーい……」
(でも、もしかしたら……)
「ドンッ!」
瑠璃の掛け声で、一斉に飛び出す2人。
スタート直後はほぼ互角。
しかし、最初のコーナーに入った時、翔が一歩前に出た。
(よし……!インコース取った!)
全力で足で漕ぐ翔。
今のところ星空に追い越される気配はない。
(この直線を逃げ切りって次のコーナーを先に入れば……)
翔、リードをしたまま最後のコーナーに入る。
(よし!)
そして、コーナーを滑りきり、そのまま最後の直線に入った。
(勝てる!)
翔、直線でさらに加速し、そのままゴールする。
それを追う様に星空がゴールする。
「よっしゃぁー!!!!」
翔、思いっきりガッツポーズをする。
その姿を横目で眺める星空。
「はは!金メダリストに勝っちった!」
「どうした?勝負に興味がなくなったんじゃないのか」
翔、星空の言葉を聞き、露骨に喜ぶのをやめ、冷静なフリを装う。
「いや、あの〜、今のは何ていうか……」
目が泳ぎまくる翔。
「お前、ただ単に負けるのが嫌なだけなんじゃないの?」
翔の心臓がドクンと鳴る。
「はぁ?負けてもなんとも思わねぇよ!そもそも興味ねぇーから!お前、負けて悔しいからって人に当たるなよ!」
星空、軽くため息を吐き、呆れた顔で翔をみる。
「そうだな、本気でやって負けたら悔しかったかもな……」
「それってどういう…」
「なぁ翔、もう1回やらないか?」
「は?勝負はもうついただろ!?」
「もう1回やって負けるのが怖いのか?」
「そういうわけじゃ……」
「……」
「いいぜ…やってやるよ……」
少し口角を上げる星空。
翔、星空を見て拳を握りしめる。
(こいつはさっき負けたことが悔しくて嫌味を言ってきているだけで、どうせ何回やっても同じだ……)
再びスタート位置につく2人。
「い、位置について……」
(大丈夫だ。さっきと同じように滑れば……)
「よーい…」
(負けない……!)
「ドンッ!」
翔、勢い良く飛び出した。
はずだが……
最初の一歩で、星空がぐんと前にでた。
(……!)
星空が1回漕ぐごとにぐんぐん翔との差が開いていく。
翔、必死に追うが、星空の背中はどんどん離れていく。
星空、そのままぐんぐん翔を突き放しスタート地点に戻ってきた。
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