僕らのリンク

 星空が大学のスケートリンクを訪れた後、 

翔と星空と瑠璃の3人は電車で東伏見駅に向かっていた。


電車に揺られながら、翔は横を向き、又隣に座る星空を見た。

星空は黒い帽子を深く被っている。

帽子で隠れているせいか、その表情から星空が何を考えているのか

翔には全く読み取れない。


翔は再び前を向き、反対座席の窓の変わりゆく景色を見つめる。


*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*


 ー 30分前 ー


 神田川大学屋内運動総合施設・ロビー。


「久しぶり」


少し微笑みながら、翔を見下ろす星空。

床に敷いたストレッチマットに座ったまま星空を見上げる翔。


「おぉ久しぶり……」


翔、表情は若干固いが、口角を上げ、手を振りながら星空に答える。


「ははは……」


翔は、この先何をどう話したらいいのかわからず、

ただただわざとらしい笑いと笑顔を続けた。


「えぇー!かねっちと知り合いなんですかぁー!!!!」


亀田が駆け寄ってくる。

この時、翔は初めて亀田のKYっぷりをありがたく思った。


「うん!お兄ちゃんと翔ちゃんは同じリンク出身なんだよ!」


瑠璃が亀田に自慢げに話す。


「なんで言ってくれなかったんだよぉ!かねっちぃ!俺たち親友だろ!?」


翔の肩を揺する亀田。

先ほどの感謝の気持ちをすっかり忘れ、鬱陶しそうに亀田をみる翔。


「お前なぁ……」


翔が亀田に何か言いかけたとき、


「 翔 」


なんの前触れもなく星空に名前を呼ばれ、心臓の音が鳴る。

恐る恐る顔を上げ、星空を見る。


「久しぶりに滑らないか?一緒に」


*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*


 東伏見駅から徒歩3分程の所にある、

ダイドーリンコアイスアリーナに到着した翔と瑠璃と星空の3人。


アイスアリーナの外観を見て星空が呟く。


「懐かしいなぁ…」

「……」

「今でもここで練習したりするのか?」

「まぁ、時々……」


ズンズン入口の方に進んでいく星空。

翔と瑠璃がその後を追うように歩く。


*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*


 誰もいないスケートリンク。

今日は大会関係で休業日となっていたのだが、橘星空の頼みとあらば喜んでと、

知り合いのスタッフが特別にリンクを開けてくれた。


「うわー!こんな小さかったっけ?」


スケート靴を履いた星空がリンクに入る。

翔も続いてリンクに入る。


楽しそうにその場でくるくるスピンをする星空。

翔、それを見て小学生だった星空を思い出す。


瑠璃がリンク壁に肘をつき、リンクサイドから顔を出す。

星空、瑠璃を指差して笑う。


「お前、その姿勢、鶴川先生みたい!」


翔、その言葉を聞いて吹き出す。


「確かに!」


爆笑する3人。


笑いすぎて涙目になった翔に星空が言う。


「ほんと懐かしいな。お前とここで滑るなんて」

「あぁ、そうだな」


翔も笑顔で答える。


「ところで……」

「ん?」


「お前、最近試合出てないんだって?」


星空の質問に、再び表情が固まる翔。


「……」


リンクサイドの瑠璃を見る。

瑠璃、下を出して、手で”ごめんね”のポーズをする。


「なんで?」


翔、ゴクリと唾を飲む。


「勝負に興味がなくなってな。瑠璃にも同じこと言ったよ」


わざとらしい笑顔を作る翔。


星空、翔の顔を一瞬、鋭い眼光で見る。

そして、目を瞑って、翔に背を向ける。


「ふーん……。いいんじゃない?それならそれで」

「……」


「でも、せっかく来たんだ。なぁ翔」


星空、振り向いて真剣な顔で翔を見る。


「ここで、俺と勝負しないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る