第二部 三章「黄金のエリクサー」その③



 アイリスを先頭にその場から北に歩くこと十五分、あまり建物の跡がない場所に辿り着く。

 そこには一本だけ不自然に、何に使われていたのか分からない太く大きな柱がある。上部は折れている状態だが高さは五メートル程、直径は一メートルはあった。

「アイリス、この柱が怪しいってこと?」

「はい、あるじ様」

「この場に結界魔法で隠されたアジトがあるとしたら、柱を使って何かをする手順で突破できるわけだな。じゃあ色々やってみようか」

「はいにゃー。謎解きはクリスチーナにお任せなのにゃ」

「黙れバカ猫。お前ができるのはトラップを発動させることだけだろ」

「にゃん⁉」

 出たよツッコまれた時のトボケ顔。てか顔芸やめろ、吹き出しそうになっただろ。

 で、この後は柱を右回り左回りとグルグル回ったり、スイッチがないか探した。

「思いつくことやってみたけど反応ないな。複雑な手順なのかなぁ」

 無理ゲー臭してきたんですけど。

 色々やって分からないし、クリスのド天然スキルに頼ってみるか。マリウスの斜め上を行くパワーがあるからな、我が家の猫のドジっ子ミラクルは。

 実際に重要なとこすっ飛ばして最強の剣のイベント発見しちゃったし。

「クリスさん、ちょっとこの柱、というかその周りで遊んでみなさい」

「はいにゃー、お任せなのにゃ」

「スカーレット、アイリス、よく観察していろよ、何が起こるか分からないからな」

「御意」

「はい」

「にゃは、クリスチーナは柱よりこの石が気になるのにゃ」

 クリスは柱の周りに落ちている石を拾い集め、何やら楽しそうに重ねて遊び始めた。これはロックバランシングってやつかな。

「石……」

 よく見たら鏡餅のように重ねられそうなつるつるした石が幾つも落ちている。これに意味があったりして。

「ご主人様、見てほしいのにゃ、こんなにいっぱい積めたのにゃ」

 クリスはあっという間に様々な形と大きさの石を十段まで積み重ねた。

「ははっ、普通に凄いぞそれ。クリスは意外と集中力あるんだな」

 まさかの天才アーティスト級。まあ金にならないけどね。

「にゃは、ご主人様に褒められたのにゃ。嬉しいにゃ」

「そんなものたまたま上手くいっただけだ。調子に乗るなバカ猫」

 スカーレットはそう言いながら地団駄を踏む。するとその衝撃で高く積まれた石が崩れる。

「にゃっ⁉ スカーレットちゃん酷いのにゃ」

 だが崩れ落ちた時に、気になったつるつるした石が二つ、本当に鏡餅のように奇跡的に重なった。

「……おい、そっちにもう一つ同じ形だけどサイズが小さいのあるだろ、ちょっと乗せてみ」

「はいにゃ。乗せましたのにゃ」

 う〜ん、これはもう日本人の俺には三段重ねの鏡餅にしか見えない。

 サイズ違いの同じ形の石が三つあるってだけで怪しい。これが手順なんじゃないの。

「何か柱に変化ないか?」

「はいにゃ。調べてみるのにゃ」

 クリスが柱を触ったと思った時、その手の部分だけが柱の中に消えた。

「にゃっ、にゃにゃっ⁉」

「やったね。指定の石を三つ重ねることが手順、鍵代わりだったんだ」

「ということは、柱の中に結界で隠されたアジトがあるんですね。よしバカ猫、安全かどうか先行して見てこい」

 スカーレットは素早くクリスの背後に移動し、両手で強く背中を押し容赦なく柱の中へと押し込んだ。

 ははっ、それにしてもやってくれるぜ我が家の犬猫コンビは。ミラクル起こしちゃったよ。

 しっかし簡単だな。でも単純だからこそ、今まで誰も気づかなかったんだろう。

「ご主人様、中は大丈夫なのにゃ。小さな家があるにゃ」

 クリスが柱の中から顔だけ出して言った。原木シイタケのように柱から顔が生えている感じで面白い光景だ。

 そして柱の中を通り抜け、特殊な結界魔法の空間の中に入った。眼前に広がる光景は先程までと同じだが、クリスの言うようにそこには山小屋風の木造平屋建ての家があった。

 当然だが人の気配はしないし誰も居ない。扉に鍵はかかっておらず番人的なモンスターやゴーレムもなく普通に入れた。

 それから四人で家の中を捜索したが、黄金のエリクサーどころか武器やアイテムすらない。何かを研究していたような感じもなく、今のところただの家だ。

 伝説の賢者のアジトだし本命以外も期待してたしあるはずなんだけど、リビングっぽい場所のテーブルや棚に、様々な動物や昆虫、魚の置物と天秤ばかりがあるだけだ。

 銀色の天秤は高さ五十センチ程で、かなり大きく思える。無数にある置物は手の平に乗るサイズの木彫りでクオリティは高い。ちゃんと色までついている。

「あるじ様、この天秤なのですが、仕掛けがあるような気がします」

「やっぱそうか。着替えや生活雑貨すらない中で、こんなのだけ意味なく置いてあるのはどう見ても怪しいよな」

 でもさっき調べてみたけど、普通の天秤と置物なんだよなぁ。

 ただ一つ気になるのは、天秤の片方の皿にだけ置物の熊が乗せられていることだ。

「賢者様と勇者様が以前、天秤ばかりを使った仕掛の話をしていたのを覚えています」

「そっか。なら間違いなく仕掛けがありそう」

 そのお調子者コンビのアイデアか。面倒臭いものでないことを願うぜ。

「既に熊が乗っているので、何かを載せて均等にしろ、ということでしょうか」

 スカーレットが天秤ばかりの皿に乗っている熊に顔を近付けて言った。そしてまさに犬のようにクンクンと熊の匂いを嗅いでいた。

「そうだな、まずは均等にしてみよう。でも動物・昆虫・魚、色々あるし何を使うかが重要なのかも」

 とりあえず難しく考えない方がいいかも。基本的に謎解きって法則さえわかれば単純なものだし。

 それから様々なパターンを試してみるが、なかなか均等にならない。更に一個で均等にするんじゃなく、小さいものを複数乗せるパターンも試してみるが駄目だった。

 意外と難しい。やっぱ法則を見つけ出さないと無理そうだ。てか父さんがアイデアを出している事にヒントがあるかも。

 若い頃で大学生だったんだよな。今より3倍増しでお調子者だったろうし、難しいことを考えるわけがない。酒でも飲みながら適当に思いついたことを言ってただけのはずだ。そう、物凄くシンプルにバカバカしく考えてみればいいんだよ。

 そういえば、この木彫りの熊って北海道土産の有名なやつに似てる。我が家の応接間にも祖父の代からのがあった。

 でも天秤皿に乗ってる熊は鈴木家のとは違い、鮭を銜えてないバージョンだ。

「鮭……鮭ねぇ……」

 ガチャで出てくる生物フィギュアのような置物を、なんとなく見渡す。

「ってこれじゃね⁉」

「にゃっ、ご主人様が何か閃いたのにゃ」

 棚やテーブルに無造作に置かれている置物の中に鮭がいる。更に他のは一種一個なのに鮭だけが何個もある。たぶんこの鮭を使って均等にするんだ。鮭は全部で十個あり、それぞれ大きさが違い何パターンも試すことができる。

 で、お調子者の酔っ払い二人が作ったであろうこのレトロゲームを楽しむこと五分ほどで、運よく本当に熊と鮭五匹が均等になった。

「やったのにゃ、ご主人様は天才なのにゃ」

「流石でございますご主人」

 二人がテンション高く言った時、天秤ばかりがピカッと光り、後方の壁からガコンと仕掛けが動く音がする。

「ははっ、キタよこの音」

 音がした壁の一部がスライドし、隠し金庫のような縦三十センチ程の扉が現れた。

「どうやらこの中に黄金のエリクサーがあるみたいだな」

 ざまぁみろマリウス、やってやったぜ。

 扉には鍵がかかっておらず、ドキドキしながら開けた。

「んっ⁉ お宝が……ない……」

 なんだよっ‼ 黄金のエリクサーないじゃん。どうなってんだよマリウスさんよぉ‼

「なんにもないのにゃ」

「ご主人、何か紙のようなものが入っていますが」

「あぁ、入ってるな。手紙か何か」

 マジで紙があるだけなんですけど。

 それはA4用紙を二つ折りにしたものなんだが、まさかの地図とかで、謎解きの本番はここからだ、みたいなノリはやめてくれよ。

 恐る恐る紙を手に取りゆっくり開けた。そこには大きく『ハズレ』と書いてある。

「ってコラクソ賢者、面白くねぇんだよ‼」

 その紙を丸めて床に叩きつけた。

 なにがハズレだコノヤロー‼ ベタなボケのために仕掛け作ってんじゃねぇよ。どんだけ暇だったんだ。まんまとハメられたよ‼

「申し訳ありません、あるじ様」

「いやいや、アイリスが謝ることなんてなにもないからね」

「にゃにゃっ⁉ ご主人様、外に魔法陣が現れてますにゃ」

「マジで⁉ あっ、ホンとだ」

 ですよねぇー。伝説の賢者のアジトですから、流石にハズレで終わりはないよね。あぁ〜良かった。

 てかハズレで一度気持ちが切れてるから、なんだかもう面倒だな。ここのとこずっとマリウスに弄ばれてる気がする。

 まさか向こうも自分が仕掛けたイベントに挑戦しているのが、一緒に戦ってた勇者の子供とは思わないだろうな。

 とりあえず放置はできないので家から出て現れた魔法陣を確認する。

「あるじ様、これは召喚の魔法陣です」

「かなり大きめだよな。巨大なものが召喚されるのかな、っていうかさっそくきた⁉」

 魔法陣は強く輝き光の柱を上げる。

「デ、デカっ⁉」

 召喚されたのは大型バスぐらいある熊型のゴーレムだ。天秤ばかりの皿に乗ってた熊の置物に似てやがる。

 ゴツゴツしていて硬そうなボディは漆黒で、瞳は暴走状態のように赤く光っている。額には魔力アップの赤くてドデカい魔石が付いていた。

「こりゃ強そうだ」

「あるじ様、戦闘はお任せください」

「そだね。そうするよ」

 クリスと違いなんとも頼りになる、お任せ、ですなぁ。勿論お任せしますとも。

「あるじ様、建物には防御結界が張られているので、戦闘に巻き込まれることはありません」

「えっ、あぁそうなの。じゃあ下がって見てるよ」

「アイリスちゃん頑張るのにゃ。クリスチーナは全力で応援するにゃ」

「大丈夫とは思うが、怪我はしないように」

 スカーレットはそっぽを向いていたが、一応はエールを送った。

「はい。最善を尽くします」

 アイリスの邪魔にならないように犬猫を連れて家の側まで移動し、戦いを見守る。

 熊ゴーレムはただデカくて迫力あるだけじゃない。魔人族並の凄い魔力をしている。

 もしかして召喚勇者とかがちゃんとパーティーで戦う相手かも。まあアイリスにとってはザコかもしれないけど。

 マリウスもここで仕掛けたゴーレムと石になってるはずの最強の剣が戦うなんて、夢にも思わないだろう。

 アイリスは透かさず封印石のペンダントの中から剣を出し装備した。だが今回もまたフル装備ではない。

 戦闘経験値が高いからぱっと見で相手の強さが分かるんだろうけど、黒炎竜とかいうドラゴンより数段強いはずなのに、まだ本気を出すまでもないとはな。流石ですアイリスさん。

 この時ゴーレムは仕掛けていた。自分を中心に足元の地面に大きな魔法陣を作り出す。

「あれって召喚の魔法陣だよな」

 マジかよ、ゴーレムのくせに召喚魔法使えるとか超ハイスペックすぎだろ。いったい何が出てくるんだよ、ワクワクすっぞ。

 魔法陣は光の柱を上げ瞬時にクリーチャーを十体召喚した。それらは空中に浮いている。

「っていうか鮭かよっ⁉ 鮭なのかよっ⁉」

 思わず二回も言っちまった。何故に召喚獣的なものが鮭だよ。

 恐らくゴーレムだろう色付きの鮭クリーチャーはアイリスより大きく160センチはある。

 てかミサイルなのか、それとも自由自在に飛びまくって口からビーム攻撃するの? どっちにしても超怖いんですけど。

 マリウスさんよぉ、もう一度言うけど何故に熊と鮭なんだよ。デザイン遊びすぎだろ。もしかして我が家のバカ勇者のアイデアなんじゃねぇの。

 とか色々ツッコんでたらもうバトルが始まっていた。

 熊ゴーレムが瞬時に魔力を高め凄まじい雄叫びを発する。周りの空間がビリビリと震えるほどの威嚇だが、アイリスは微動だにしない。しかし鮭たちは雄叫びに反応し、憤怒したようにその体を真っ赤に染め更に全身から激しい炎を放出させる。

 ってなんだコレぇぇぇっ⁉ 焼き鮭になったんですけどぉっ⁉

「うおっ、いきなり二発も発射された」

 アイリスをロックオンした炎を纏う焼き鮭は、まさにミサイルの如く突撃した。

 ちょっと見た目がヤバすぎるって。ファンキー通り越してクレイジーですよ。普通にファイアーボールでよかったろ。

 猛然と迫る焼き鮭ミサイルに対し、アイリスは瞬間的に魔力を高め剣を二度振り抜く。剣からは魔力の塊であり三日月形に光る斬撃が飛び出す。

 あの斬撃はレオンの魔剣で俺がやったのと同じ技だと思う。攻撃魔法みたいな感じだからマジで便利なんだよな。

 繰り出された斬撃は炎を纏う鮭と激突すると大爆発する。ファイアーボールなどとはレベル違いの威力で、凄まじい爆風と炎が辺りに広がる。

 俺たちは防御結界が張ってある建物の側にいるからノーダメージだが、近くにいたらヤバかった。

 アイリスは既にその場にはおらず、爆風を回避するために閃光の如く動き熊ゴーレムの後方へと回り込んでいた。

 流石に速い。いつの間にって感じだよ。はっきりいってアイリスの動きが見えなかった。

 だが熊ゴーレムは見えていたようで、大型バス並みの巨体のわりに素早く動き、向きを変えると同時に体と後ろ足を伸ばし立ち上がる。

「いやいやいや、デカすぎ。ガンダム立像かっての」

 でも立ち上がると透かさず前に倒れこみ、大きく鋭い爪の生えた右手をゴキブリでも叩き潰すようにアイリス目掛けて繰り出す。

 その熊手が地面に叩きつけられた瞬間、漫画の効果音の文字が見えそうなほど凄まじい打撃音が轟き、地震のように地面がグラグラと揺れた。

 俺たちの位置からは熊の巨体が邪魔してアイリスが回避したかは分からないが、直撃してたら大ダメージは間違いない。

 普通ならその一撃で地面が陥没したりするが、この場は特殊な魔法結界内の空間なので、破壊されたりはしないようだ。

 アイリスの姿はまだ確認できないが、熊ゴーレムが空を見上げたので俺たちも釣られて上を見る。

 すると上空三十メートル程の位置にアイリスが浮いていた。

 ここでまた熊ゴーレムが雄叫びを上げる。そして一気に勝負を決めるためか残る八匹の焼き鮭ミサイルを全て発射する。しかも今回は一味違う。真っすぐに向かっていく鮭もいれば、野球の変化球みたいにカーブやシュートの軌道で向かっていく鮭がいた。まさに縦横無尽に動き回る追尾式ミサイルだ。これは厄介すぎる。

 だがアイリスは余裕の、というか相変わらずの無表情で、蝶の如く舞い踊るように回避し、光る斬撃を連続で簡単に作り出し、鮭を次々に爆発させていく。

 攻める紅の焼き鮭、それをクールに撃ち落とす小さなロリっ子戦士。

 う〜ん、シュールですなぁ。

 アイリスが何パーセントの力で戦っているのか不明だが、あっという間に斬撃を直撃させて鮭を全部倒した。しかし熊ゴーレムは怯んでいない。次の攻撃に転じていた。魔力を高め口を大きく開くと、上空のアイリス目掛け大きな炎の玉をマシンガンの如く連続して吐き出す。

 連射なので正確に分からないが、十数発の炎の玉が容赦なくアイリスに襲い掛かる。

 アイリスは回避せずにその場で剣を数回振り、巨大な光の斬撃を連続で繰り出す。

 炎の玉は次々に斬撃と激突し、とんでもない大爆発を起こす。

 アイリスは透かさず移動し爆風を回避する。だがその動きに合わせるように熊ゴーレムはまた炎の玉を連射した。

 当然アイリスも斬撃で応戦し、まったく同じ光景が作り出される。更にその流れをもう一度繰り返した時、熊ゴーレムと俺たちはアイリスの姿を見失った。

「なんて戦いだよ。あの威力の炎の玉をあれだけ連射できるとか、熊ゴーレムは凄い魔力量だな」

 いったい何十発撃ったんだろ。しかもまだ全然魔力が弱まっていない。ただそんな物凄い攻撃を、アイリスは軽く出した斬撃であしらっている。

「ご主人、上です、上を見てください」

 スカーレットに言われ上空に目をやると、そこには巨大な光の剣が浮いていた。

 二十メートル級の光の剣は、熊ゴーレムの真上五十メートルに位置し、刃を下に向けている。

「いつの間に……」

 アイリスは光の剣の側にいた。間違いなくあれはアイリスの剣技だ。

聖剣降臨エクスカリバー・フォール

 ドデカい光の剣が高速で落下し、熊ゴーレムを背中から串刺しにした。

 熊ゴーレムは断末魔の叫びを上げ、ライフがゼロになったからなのか、少し不自然に漆黒のボディーはバラバラに弾け飛ぶ。

 なんて豪快かつ恐ろしい技だよ、一撃でご臨終だし。もう反則の神レベルですよアイリスさん。って、これ街中だったら大惨事だな。

「やったのにゃ、アイリスちゃん強いのにゃ」

「ご主人、あいつ恐ろしい奴ですね」

「そだな。あれでまだ本気じゃないだろうし」

 熊の奴なかなか派手な最後だったな。でも本当に強かった。俺ならどんな風に戦ってたかな……死にはしないけど、勝てなかったかも。

「んっ⁉」

 なんだかおかしいぞ。砕けた熊ゴーレムが消えずに残っている。

 前に戦ったマリウスのオーク型ゴーレムは泥のようになった……何かあるのか?

 アイリスはまだ剣を持ったまま降りてこず、戦闘態勢を解いていない。

 その時、バラバラに散らばったゴーレムの大中小の無数の破片がウネウネと動き出し、それぞれが光に包まれた。

 破片はその大きさのまま元の漆黒ボディーの熊ゴーレムへと変身した。

 ってマジかよ。復活するのも凄いけど、いったい何体いるんだ。小さいやつもいれたら、ぱっと見で二百体以上いるだろ。

 あれで終わらず「俺たちの戦いはこれからだ」と言わんばかりに次の手があるとか超強いゴーレムじゃん。マリウスお宝渡す気ねぇだろ、ガチの番人だ。

「にゃにゃっ⁉ 強そうな熊さんがいっぱいなのにゃ」

「ご主人、手伝いますか?」

「いや待て、アイリスは何かするつもりだ」

 アイリスは上空から剣を地上に向けて構えている。

 剣が凄まじい魔力と共に閃光を発すると、先程と同じように巨大な光の剣が現れた。

「聖剣の断罪エクスカリバー・ショット

 巨大な光の剣は激しく輝くと、ノーマルサイズの剣へ無数に分裂し、まるで集中豪雨の如く降り注ぎ、大中小の熊ゴーレムの群れに襲い掛かる。

「うおおっ、スゲーーっ‼ 熊の串刺し祭りだ」

 光の剣は二百体以上の熊ゴーレム全部に次から次に命中した。

 剣の直撃を食らった熊ゴーレムは、今度こそライフがゼロになったようで、その形を保てずに溶けて黒い泥となった。

 てか切ねぇ、最後は圧倒的な力の差で見せ場なかったよ。分裂した熊がどんな戦い方するか楽しみだったけどな。まあ仕方がない。

 とにかくアイリスの完全勝利だ。っていうかやっぱ鬼強っす。

 アイリスは剣をペンダントに収納し、ゆっくりと俺の側に降りてきた。

「あるじ様、終わりました」

「お疲れ様。さっきの剣技、二つとも凄かったね。ホンとアイリスは頼りになるよ」

 そう言ってアイリスの頭を撫でると、少し頬を赤くしてはにかんだ。その様子をクリスとスカーレットは羨ましそうに見ている。

「にゃにゃっ、ご主人様、また魔法陣が現れているのにゃ」

「ほんとだ。今度のは小さいやつだな」

 その召喚魔法陣は直径一メートル程で、すぐに光の柱を上げ発動した。

 流石にここは黄金のエリクサーだろ。もうそれで頼むよマリウスさん。

 見守っていると現れたのは、十五センチ程のガラスの瓶が三つで、中には発光している黄色っぽい液体が入っている。

「よし、間違いない。これが黄金のエリクサーだ。しかも三つもゲット」

 ラッキーラッキー、売れば金持ちだぜ。店の開店資金にもなる。でも黄金のエリクサーを鑑定眼で見たら、何もかもが謎だった。

 これは売るにしても値段設定が難しいな。まあそこは商人としての腕の見せ所だ。

「おめでとうございます、ご主人」

「キラキラしていて凄く綺麗な液体なのにゃ」

 宙に浮いている黄金のエリクサー瓶を掴み取り、自分のウエストポーチに入れた。

「んっ? これも戦利品ってことかな」

 一緒に召喚されたようで、地面には銀色の熊の置物があった。

 大きさは二十センチ程で鮭を銜えており、まさに北海道土産の熊のデザインだ。

 どう見ても木彫りでなく金属っぽいので鑑定眼で見ると、魔法合金とだけ分かった。売買価格やレアリティ、その他の情報は謎だ。

 銀色の熊を手に取ると魔法陣はすぐに消えた。因みに魔法合金の熊は凄く軽い。

 何か特別な意味があるのか気になるところだ。賢者がわざわざ残したわけだしな。

「かわいい熊の置物なのにゃ。でもこの魚を銜えた熊さんをクリスチーナは見たことあるのにゃ」

「ご主人、私も見たことあるような気がします」

「へぇ〜そうなんだ。アイリスは?」

「私は見たことないと思います」

「思い出したにゃ。有名な賢者様が作ったもので、子供が大きく成長するとか将来大物になる、という意味があるのにゃ。どこかの国の王様に子供ができた時に賢者様が送ったものにゃ。その話しを聞いた人たちがマネて木彫りで作り、今では普通にお守りとして売られているのにゃ」

 クリスさん分かりやすい説明乙。

「なるほどねぇ。そんな話があるのか」

 木彫りの熊と意味まで同じだけど、賢者発案じゃないだろ。

 いやもう絶対に違うと断言できる。これ向こうの世界の北海道土産ですからね。おい勇者タケヒコ、お前は何を伝えてんだよ。

「確か北の大国の王家や貴族の間では、今も我が子が生まれる時に、賢者様の銀色の熊を送るのが風習と聞いたことあるのにゃ」

 クリスは情報を話した後、凄く褒めてほしそうに少しかがんで頭を俺の方に向けた。どうやら撫でてほしいらしいが、透かさずスカーレットがカットインする。

「その程度で褒めてもらえると思うな、バカ猫」

 スカーレットはクリスのお尻に蹴りを入れた。

「ふにゃあっ⁉ 痛いのにゃ、スカーレットちゃん酷いのにゃ」

 いつも通りの犬猫のコントを放置して、銀色の熊の置物をウエストポーチに入れた。

「とりあえず貰っておくか」

 賢者の魔法合金だし武器やアイテム作りに役立ちそうだ。

 一つ残念なのは熊ゴーレムの額に付いていた魔石がゲットできなかったことだ。ボディが泥になったら消滅してしまった。

 そこは残っていいとこでしょマリウスさんよぉ。まあ二百個以上に分裂して訳わかんない状態になってたけど。

「あの、あるじ様、この紙なのですが」

 そう言ってアイリスは封印石のペンダントの中から自分の手に、丸められたクシャクシャの紙を取り出した。

 その見覚えのある丸められた紙は、さっきアジトで投げ捨てた、ハズレと書かれたものだ。

「アイリスそれ、拾って持ってたのかよ」

「はい。少しですが魔力を感じましたので、何か仕掛けがあるかもと思い拾っておきました」

「魔力か……」

 ベタなとこだと、火であぶる、水につける、とかで文字とか地図が浮かび上がるんだよな。

「アイリス、これまで地図とか紙に魔法の仕掛けがあるのとか見たことはないの?」

「あります。賢者様が地図を炎に入れると焼けて灰にならず、別の地図に変化したことがありました」

「それじゃね⁉」

 それっぽいよ正解は。だってマリウスは単純な奴だしさ。

 さっそく家事担当のクリスさんがボディバッグの魔法空間から薪を出して焚火の準備をした。

「私が火を用意します」

 アイリスは封印石のペンダントの中から剣を出すと刃に炎を纏わせる。その炎で簡単に薪を燃やした。二人とも手際がよくて助かるよ。

 で、ハズレの紙を燃やしてみる。まあダメでも全然OK。燃えて悔いなし。

「にゃにゃっ、紙が浮いているのにゃ⁉」

 焼かれず宙に浮いた紙は炎を全て巻き込むように吸収し、光の粒子に包み込まれる。

 その光は閃光を発すると消え去り、紙は地図に変化していた。

「ははっ、大正解だな」

「はい、あるじ様」

「流石ですご主人」

「きっと宝がいっぱいある場所の地図なのにゃ」

 しかしまた地図ですか。物凄く嫌な予感がするのは何故だろうか。

 俺って苦労性なのかなぁ……。

 てか地図の場所に行くのはマリウスに踊らされてる感が半端ない。もう絶対に面倒臭い事になるよ。でも色々と金に武器にアイテムが手に入るんだよな。そんな風に考えてる時点で、やっぱ踊らされてるか。

 でもまあ今回の冒険も無事に終わり、いい結果だった。

 のだが、そもそもの原因のアンジェリカとイスカンダルをなんとか遠ざけないと。そのうち俺を探しているバカ二人のせいで死人が出る。いやマジで誰か死ぬって。もしかしたら村や町ごともある。だってあいつら本物のバカなんだもん。考えただけで超絶怖いよ。

「さてと、我が家に帰りますか」

「はいにゃー」

「御意」

「はい」

 因みに帰る時にはアジトの結界空間に入る鍵である重ねた石は、誰も入れないようにウエストポーチの中に回収しておいた。

 だってこの空間、というかアジトは自分のとして使えそうだから。

 べ、別にここで女の子と密会しようなんて考えてないからね。

 ホンとエッチな事とか考えてませんから。



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