第二部 三章「黄金のエリクサー」その②



「で、山賊どもは倒してくれたんだろうな」

「一応は倒したけど、最後は上手く逃げられた」

 という事にしておく。見逃したとなると、後々面倒臭い事になるかもしれないから。

「なにやってんだっ‼ こっちは運送用の魔法の鞄も盗られてるんだぞ。高値のポーションとかも仕入れてたのに、どうすんだよ‼」

 助けてもらったくせに態度デカいな。ここに放置してやろうかな。

「俺はクエスト受けたんじゃなく、たまたまの通りすがりだから、ここにお前を捨てて行ってもいいんだぞ。口の利き方に気を付けろよ」

「うっ、そ、それは困る」

「命があるんだからそれだけで丸儲けだろ。生きていれば幾らでも商売できるんだし」

「なるほど、そんな楽天的な考え方があるのか。そう考えると気持ちが楽になるかも。ってなるわけあるかっ‼ 悔しいものは悔しいんだよ。だいたい商人が損して笑っていられるかよ」

 まさかのノリツッコミが出たよ。しかし最後の言葉はその通りかもな。

 俺も商人だし、その商売人根性は見習わないといけない。超人パワーのせいで、まあ何とかなるだろう、という余裕があって、こっちの世界に来てからずっと適当ですからね。そろそろ、明日から本気だす、的な態度を改め、本腰を入れないといけない。家族も増えてきたことだし。

「まあ落ち着けって。どれだけ怒っても、盗られた物は返ってこないんだから」

「ふんっ、人ごとだと思って軽く言ってくれる」

「てか商人さんは運がいいと思うよ。だってあの金色の破壊神の戦いに巻き込まれて生きているんだから」

「確かにな。あれはヤバかった」

「でしょ。だから運がいいんだって。これからその運の良さでいっぱい稼げるって。それに今も無事に助けられているし」

「運か……お前の言うとおり、命があるだけましと思うか」

「そうそう、それがいいですよ」

「そういえば、まだ礼を言ってなかったな。ありがとう、助かったよ。私は商人のアルバートだ」

「俺は……その、アッキーと呼ばれています」

 またこのゲームネームを使う事になるとはな。

 仮面かぶってる時はもうこの名前でいくかな。そのうち商人の秋斗より冒険者のアッキーの方が有名になって定着しそうだ。

「アッキー、街に帰ったら謝礼として、面白い物を進呈しよう」

「おっ、そういうの待ってました。楽しみにしてますよ」

「ははっ、正直な奴だな」

 で、この後は問題なく森を抜けて、待たせていた馬車で街までアルバートを送り届けた。

 街の中に入る時、三人の奴隷は言わずともマントとフードで身を隠した。

 アルバートの謝礼とやらは会社に置いてあるらしく、俺たちは会社の建物までついていった。この時、アルバートに三人とも連れて行くから裏道を通ってくれと頼んだ。

 大通りは当然、人間以外は通れないし、どこにアンジェリカが居るかも分からないから、バラけるよりも一緒に居る方が得策だ。勝手に歩かすとクリスはすぐに見つかりそうだもん。それで仲間を助けに入ったアイリスVSアンジェリカ、みたいな大晦日のビッグマッチになっても困るからな。

 アルバートの会社は海の近くで、エマさんのフォスター商会のすぐ裏だった。建物も五階建てで大きくて立派だ。やはり悪徳と言われるだけあり儲けてやがる。

 奴隷は会社の中に入れないので、俺は三人と外で待つことにした。

 程なくしてアルバートは、紙を丸めたような物を持ってきて無造作に渡した。広げるとそれは地図だった。っていうか出たよテンプレの宝の地図が。

「この地図の場所に何があるんですか?」

「伝説の賢者の秘密のアジトだ。そこには黄金のエリクサーがあるといわれている」

「黄金のエリクサー……」

 なにそれ凄そう。アイテム名だけでワクワクするぜ。金の匂いもプンプンするし。

 アルバートの説明では、黄金のエリクサーはダメージや魔力回復、状態異常の正常化、死者蘇生、更に病気も治せるらしい。

 戦闘時に飲めば全てのステータス値が一時的にパワーアップするとも言われている。こりゃ凄い特典満載のレアアイテムだ。

 んっ⁉ 待てよ、伝説の賢者……。

 もの凄ぉぉぉぉく嫌な予感がするんですけど、気のせいだよね。最近色々ありすぎるから、苦労性になってるな。

「まあ地図の場所に本当にアジトや宝があるか分からないけどな。その地図は百年ほど前から出回ってるし」

 百年前……最近よく聞く数字だな。

「その賢者って、名前は分かるの?」

「え〜っと、マリウス、とかじゃなかったかな」

 確かアイリスが仕えていた賢者がそんな名前だったような。

 アイリスと目を合わすと、何も言わず小さく頷いた。

 おいコラ賢者、また絡んでくるのかよ。

 試練のダンジョンにエリクサー探しとか、マリウスさんはどんだけイベント好きなんだよ。てか魔王倒した後、暇だったのかお前は。

 因みに冒険者用の薬草は魔法の力も含まれる塗り薬系で、掠り傷程度なら瞬時に治り傷跡すら消える。

 ポーションは液体の飲み薬系で、基本的には傷を治したり体力や魔力回復に使われる。飲めない場合などは体にかけたりする。

 その上のハイポーションやフルポーションは毒消しや麻痺を治すこともできる万能薬で、更に上がエリクサーになる。

 エリクサーは別格で、体力や魔力を完全回復し、死んですぐなら蘇生させることができる。金貨百枚はするので簡単には買えない。

 製造方法が難しいので、そもそも数が出回っておらず、金があるからといって買えるものでもない。

 日本の円で考えれば300万円の超高級品。国産の車が買えてしまう値段だ。まあ簡単に習得できない死者蘇生魔法と同じだし、生き返れるなら安いものか。

 あと見た目は、ポーションは水色、ハイポーションは青色、フルポーションは緑色、エリクサーは赤色だ。

 エリクサーは前から持っておいた方がいいと思ってたけど、高いのと超人の自分には関係ないから結局は買わなかった。けど、スカーレットやクリスのことを考えたら持っておかないとな。回復魔法を使える仲間はいないわけだし。だから賢者のアジトにあるという黄金のエリクサーを探しに行こう。

 しかし普通のエリクサーで金貨百枚なら、伝説の賢者の黄金のエリクサーは、その何倍もの値段で売れるかも。

 うほっ、一気に大金持ちになるかもしれない。

「地図の場所には古代の遺跡がある。時代は分からないが国があったみたいだ」

「へぇ〜、古代遺跡、いかにも秘密のアジトがありそう。面白そうだし、行ってみるかな」

「これまで多くの勇者や冒険者がエリクサーを探しに行ったけど、誰も発見できていないし、何もないかもしれないぞ」

「こういう宝の地図って基本的にガセだから、期待はしてないですよ。なくて当然ぐらいに思っておきます。それにまだ行ったことのない場所だし色々と他の発見ができるかもしれない」

「お前すっごく前向きだな。俺も見習いたいぜ」

 てかマリウスの名前が出ちゃったら、この地図はガセじゃない可能性の方が高い。

 どうせテンプレな仕掛けばかりだろうし、ちょちょいと攻略して黄金のエリクサーをゲットしてやる。

「眉唾物だが、まあ気に入ってくれたのなら良かった。じゃあ俺はこの後色々と処理があるからもう行くぞ」

「ども、これありがとうございます」

「そんな物で良かったら、また用意しておくよ。本当に世話になったなアッキー。そのうち改めて礼はさせてもらう」

 悪徳商人と聞いていたが、今のところはそれほど悪い奴には思えない。

 人の噂なんてそんなものだよな。尾鰭が付いてどんどん大きくなったのかも。漆黒の魔剣使いのレオンがいい例だな。

 ここでアルバートと別れた後は、スカーレットの鼻を頼りに、アンジェリカと会わないように裏通りをコソコソと我が家に向かって移動する。

「アイリス、この地図に印されてるアジトって、知ってたりするのかな」

 歩きながら地図を広げてアイリスに見せた。

 場所は西の初心者ダンジョンの更に西にある渓谷の中だ。そこをずっと進んでいくと、ロイ・グリンウェルと戦った峡谷の辺りとなる。

「申し訳ありません、私の知らない場所です」

「そうか。ならアイリスを石像にした後の話だな」

「ご主人、これから出発しますか」

 アンジェリカの匂いを探りながら先頭を歩いているスカーレットが振り返り言った。

 てかスカーレットさん尻尾振って行きたそうな顔してるな。お散歩感覚なのかな、犬だし。

「いや、行くのは明日にしよう。百年前から誰も発見してないし、急ぐ必要はないよ」

「御意」

 スカーレットはガッカリして尻尾をシュンと垂らした。

 どうしようかな、そんな切ない顔されたら散歩に連れて行ってやりたくなる。今までの流れからして大冒険になるかもしれないけど。

「やっぱり今から行こうか。まだ馬車の時間は大丈夫だし、冒険の準備もできてるしな」

「御意‼」

 スカーレットは尻尾をブンブン振って嬉しそうな顔して言った。

「はいにゃー」

「はい」

 予定変更で道を戻り、西の初心者ダンジョンまでの片道契約で馬車を手配して出発した。

 一時間ほどで到着し、そこからは徒歩で森の中へ入り西へと日が暮れるまで進んだ。

 周りに他の冒険者も居ないので、俺は早い段階で仮面は取っていた。

 この間はダンジョンの中から移動魔法陣で古代遺跡のある渓谷を飛び越して、更に険しい峡谷まで簡単に行けたけど、ザコとはいえモンスターを倒しながら歩きだと、森を抜けるのに二日はかかりそうだ。

 少し開けたところを見つけて、そこでテントを張って火を起こし、一晩過ごすことにした。

 とにかく野宿の時はクリスが役に立つ。おバカのドジっ子だけど、奴隷歴が長く家事は仕込まれておりテキパキと熟すからだ。そのおかげでこの日の晩御飯もちゃんとしたものを食べられた。

 そして二日後の午前中に森を抜けて渓谷地帯へ辿り着く。

 ここからは謎の古代遺跡を探すことになるが、地図では森を抜けてすぐの場所だ。

 しかしまあ景色は素晴らしいけど、巨大な岩山に川とかあるし、進むのは苦労しそうだ。それにここまでザコモンスターがちょろっと出ただけで、まともなバトルはしてないし、そろそろ強いモンスターとかも現れそう。といってもアイリスが竹の棒一本でフルボッコにするだろうけど。

「地図だともう少し北の方だな。とりあえず目の前の岩山を登って上から見てみよう」

 その岩山はエアーズロック型で、高さ五百メートルぐらいで横に長く、二キロ以上はありそうだ。

 上に続く登山道のようなものがあり岩山の頂上を目指した。普通の人間ならかなり疲れるだろうが、今の俺は山登りぐらい楽勝だ。何故なら最近、超人パワーや防御力だけでなく、体力もパワーアップしているからだ。激しいバトルを短期間で繰り返したせいか、自分でも信じられないぐらい色々と強くなっている。

 もしも職業が商人じゃなくバトルに特化した冒険者系にしていたら、どのぐらい強くなってどんな事ができたのか気になるところだ。

 そんな俺に三人も楽々ついてくる。半獣人の二人はそもそもが人間より身体能力が上だし、ドワーフのアイリスはレジェンド冒険者なので当然だな。

 モンスターとエンカウントすることなく頂上に辿り着いたが、岩山の全貌が分かって驚いた。

 物凄く巨大な一枚岩で、奥行きはぱっと見では分からない。たぶん五キロ以上はありそう。

「岩山の頂上には見えないな。まるで荒野だ」

「この上に街を造れそうなのにゃ」

「そうだな。もしかしたら、奥の方に遺跡があるかもしれない」

 周りを見たら遠くの方に、更に大きな岩山が幾つかあるし、頂上に遺跡があるか確認しないと。

 てか登るのは体力的に問題ないけど時間がかかりそうだ。

 そういえばアイリスは戦士のスキルとかではなく風の精霊魔法で空を飛べるらしい。でも流石にあの岩山の高さまでは無理だよな。

 精霊と繋がりの深いエルフのアンジェリカは空を自在に飛べるけど、アイリスは戦闘時に少し飛べるだけと言っていたからな。

「んっ⁉ なんだ?」

 頭上は空で何もないはずなのに突然、日陰に入ったように薄暗くなり反射的に見上げた。

「うわっ、ドラゴンだ‼」

 賢者マリウスの造った試練のダンジョンで戦ったドラゴンより、更に大きい奴が頭上を通り過ぎた。

「デケーー、あの黒いドラゴン、十メートル以上あるぞ」

「あるじ様、あれは黒い炎を吐く黒炎竜こくえんりゅうです」

「それって強い奴なの?」

「野生なら五メートル程の大きさで、群れでいるので面倒ですが、あれは魔造なので一体なら脅威ではありません」

「ターンしてこっちに向かってきてるけど、任せていいのかな?」

「はい。問題ありません」

 流石アイリスさん。激強クリーチャーにしか見えないドラゴンが相手でも眉一つ動かさず無表情の余裕っぷり。どこまでも頼りになるぜ。

 アイリスがロックオンするように黒炎竜を見上げた時、右手の辺りがピカッと光る。すると手には鞘から抜き放たれた剣が握られていた。

 まるでアニメに出てくる派手な聖剣のようで、素人冒険者でも魔力の強さが理解できる。とにかく存在感が半端ねぇよ。間違いなく恐ろしい武器だ。

 でも鎧や盾は封印石のペンダントから出さず装備していない。フル装備で戦う相手ではないということだな。

 アイリスの体がふわっと浮くと、そこから一気に突風の如く15メートル程まで急上昇する。

 詠唱したりスキルや魔法が発動した、なんて感じはなく、鳥が空を飛ぶのが当たり前のように、ごく自然にアイリスは飛んだ。

 あれのどこが戦闘時にちょっと飛べるだけなんだろ。あの速さで飛んで戦えるって凄いんですけど。

 俺があんな風に飛べるようになるにはまだまだ時間がかかる。まずは商人のレベルをMAXにして、それからバトルに特化した職業に転職してまたレベル上げだからな。カッコよく空中戦できるまでの道は険しいぜ。

「おっ、先制はドラゴンか」

 猛然と迫るドラゴンは急停止すると大きく口を開き、黒い炎を火炎放射のようにアイリス目掛け吐き出す。

 炎は凄まじい勢いだがアイリスに焦る様子はなく既に構えていた剣を炎にカウンターを合わせるように振り抜く。

 空を切り裂く音と同時に衝撃波のような巨大な斬撃が繰り出され、凄まじい黒炎をいとも簡単に消滅させた。更に斬撃はあの大きいドラゴンをのけ反らせ少し後退させる。

「スゲーな、剣を振っただけであれだもん」

「ご主人様も同じような感じなのにゃ」

「ご主人はもっと凄いと思います」

「そ、そうかなぁ……」

 あらためて自分のチートさを感じた。

 この時アイリスは臆することなくドラゴンの胸元まで間合いを詰めており、透かさず剣を繰り出す。

「フラッシュ・フリージング」

 アイリスが小さな声で技の名前らしきものを発した瞬間、直撃した剣撃がカメラのフラッシュのように光り、眼前の斬られたドラゴンは一瞬でカチコチに凍結し氷に覆われた。そして落下をする前に氷とその中のドラゴンは粉々にクラッシュされて消滅する。

 黒炎竜とかいうドラゴン、本来は物凄く強いんだと思う。でも実力差がありすぎてザコにしか見えない。色々スキルとか魔法を使って戦うんだろうけど、見せ場なく死亡だよ。なんだか可哀想。てかアイリスさん怖っ。

「あるじ様、終わりました」

 アイリスは剣をペンダントに収納し、ゆっくりと降りてきて穏やかに小さく言った。

「ら、楽勝だったね。てか聞こえなかったけど、なんていう技?」

「ただの凍結斬りですが、勇者様がフラッシュ・フリージングと名前を付けてくださいました」

「へぇー、そうなんだ」

 名付けたのは父さんかよ。まさに瞬間冷凍だな。

「それって魔法やスキルと合わせた剣技なの?」

「私自身のスキルや魔法は使っていません。賢者様と有名な鍛冶職人が作ったこの剣自体が特殊で、様々な属性の力を発動できます」

「そうなんだ……」

 やっぱトンでもないチートソードだったか。これはもっと武器の事を詳しく勉強しないと。自分の店で売る商品を造る参考になるぜ。

 しかし剣だけの力であれなら、戦士のスキルとか上級剣技を合わせたらどれほど凄い威力になるんだろ。一度は全力を見てみたいかも。まあアイリスが本気を出して戦う相手なんてそうはいないだろうけど。

 アイリスは伝説の賢者に無茶苦茶なドーピングされてるからな。ほぼ魔改造だよ。更に究極チート装備。だから一人でも無敵だ。因みにアイリスのHPは恐ろしい数値になっている。

 戦士はレベル99でHPは1000ぐらいなのだが、様々な特殊魔法やスキル、レアアイテムを使いまくり、限界突破で3200になっていた。

 防御力は少しだけ平均値超えの1000ってとこだが、普通に凄いレベルだ。俺の超人の体と同じで簡単にはダメージを負わない。

 本来はあまり上がらないMPは魔道士のレベル99の数値を遥かに超える1800だ。戦士だから魔法はほとんど使えないけどMPを大きく消費する特殊スキルや剣技は使いたい放題。

 もうラスボスの魔王になれますよ。マリウスはいったいどんな裏技を使ったのやら。恐ろしい奴だ。

 俺のHPなんて50すらないからね。所詮商人なんて村人Aだし。

「ご主人様、原料が落ちてたので拾ってきたにゃ」

「ご苦労。で、なんだった?」

「銀色のピカピカの塊が落ちてたにゃ」

「おっ、それ銀の塊じゃん」

 鑑定眼で見ると間違いなく銀で、約一キロある。このまま売っても十万円ほどになる。

 だが銀食器や武具の装飾に使って商品にして売った方が儲かる。今は色々と武器作りの事を考えているし、これはいい物が手に入った。

「この辺りからは強いモンスターが出てくるようだし、みんな気を付けるように」

「はいにゃー‼」

「御意」

「はい」

 っていうかアイリスさんがいるので何の心配もないけどね。ただアンジェリカ様が出てこなければだけど。

 ここからはまるで荒野に見えるほど超巨大な一枚岩の上を西の方角へと進む。

 二キロほど歩いたあたりで、何やら建物の残骸、というか基礎とか柱を発見した。

「ここに町があったって感じだな」

 どうやら地図の遺跡まで辿り着いたようだ。周囲を見渡すとかなり広い範囲に建物の跡がある。

 少し離れた場所には、ほとんど崩れているが神殿らしき物もあった。これだけ広いと探すの大変そうだ。

「本当に賢者のアジトがあるか分からないけど、手分けして探そう。何か怪しいものがあったり気付いたら教えてくれ」

「はいにゃー、お任せなのにゃ」

「御意」

「はい」

 地図があって黄金のエリクサーの噂もあるのに、これまで発見されてないなら簡単には発見できないかもな。

 で、あっという間に一時間経過して、アジト発見どころか手がかりすらなし。

 とりあえず王道の井戸でも探すかな。まあ何もないだろうけど、あのマリウスの事だ、もしかしたらがあるかもしれない。

 すでに何個か井戸らしきものは見つけてある。岩山の上なので掘ったところで水なんて出ないけど、底に召喚や移動系の魔法陣をセットしておけば水を運んでこれる。恐らくはそういう仕掛けの井戸だと思う。

 一つ目の井戸は円の直径が二メートルありかなりの大きさだ。深さは十メートル程で底が見えている。俺なら簡単にダメージなく飛び降りられるし、よじ登ることもできる。

 なので三人に声をかけずに井戸の底へ飛び降りてみた。

「ベタな横穴とかはないみたいだな」

 井戸の底も側面も、大中小の様々な大きさの平たい石とセメントのようなもので隙間なく舗装されている。

 テンプレだと一つだけ違う形の石があったりするんだけど……って本当にあるじゃん⁉

「すぐ見つかったけど、これが仕掛けかはまだ分からないよな」

 とか言ってドキドキしながら、明らかに自然ではない円い石をボタンを押すように押し込んでみる。

「あれ? ……動かない……」

「ってなんにもないのかよ⁉」

 普通に騙されたぁー‼ 誰も見てないけど超恥ずかしいよ。

 そりゃそうだよな。こんなに簡単なら誰かが見つけてるって話だ。いったい何人がここで心を弄ばれたのやら。絶対マリウスの仕業だ。「引っかかったなバーカ」って言われているようで腹が立つ。だがこんなのがあるのなら、本当にここにアジトがあるかもしれない。

「ご主人、一通り見て回りましたが怪しいものはありませんでした」

 井戸から出たタイミングでスカーレットが側にきて言った。

「ごめんなさいなのにゃ。クリスチーナもダメだったのにゃ」

 クリスは申し訳なさそうな顔で猫耳を手前に下げていた。てかダメなのは想定内ですよクリスさん。

 アイリスはまだ戻ってきていないけど、マリウスの事は一番知っているわけだし期待しよう。

 それから残りの井戸も念入りに調べた。すると同じような感じで、一つだけ違う星型の石があったり、違う色の石があったりした。だが全てフェイクだった。

 おいコラマリウス、ふざけんじゃねぇよ。ワザとらしいんだよ、このお調子者が。

 でも確信したぜ、この場所にお前のアジトがあるということが。絶対に見つけてお宝ゲットしてやるからな。

「あるじ様、賢者様のアジトは発見できませんでした」

 アイリスが戻ってきたが残念な結果だった。今回のイベントは難易度高いのかも。

「なあアイリス、一緒に居た時に使ってたアジトはどんな感じだったの、仕掛けとかあるんだろ」

「賢者様はアジトとなる建物の周りを特殊な結界魔法で覆っていました。外からは見えず存在も感知できないもので、普通には結界内には入れません。更に空間が遮断されて繋がっていないため、外ではその場所に何も存在せず、素通りすることもできます」

 スゲーなその結界魔法、普通にチートじゃん。

「となると、この遺跡にアジトがあっても発見できないよな」

「はい。難しいと思います」

「ちょっと待てよ。マリウスはもう死んでると思うけど、それでも魔法は消えないものなの?」

「普通なら魔力が尽きて魔法は解除されると思います。でも賢者様は魔石や魔力の強いモンスターを封じた封印石を使って魔法を発動させていたので、ご本人が居なくなっても魔法が消えない可能性があります」

「なるほどなぁ。魔石や封印石はそんな使い方もできるんだな」

 乾電池とかバッテリーみたいなものかな。魔法やアイテムも奥が深い。っていうかマリウスさん、自分の魔力使わないとか鬼畜だな。

「前はどうやってアジトに入ってたの?」

「賢者様と一緒の時は何もしなくても入れます。一人の時は通行手形となるアイテムを持っているか、決められた手順を踏んで入ります」

「賢者も居ないしアイテムもないから、その手順とやらが鍵だな。で、どんな手順」

「森の中にあった賢者様のお屋敷の場合は、決められた道を通らないと辿り着けません。かなり複雑で前もって知っていなければお屋敷に入るのは不可能でした。ただ小さなアジトなどは簡単な道筋だったり、物を動かしたりするだけで入れました」

「そっか。じゃあここのは簡単な手順であることを願おう。でもまずはその手順を試す場所を探さないとな」

「あるじ様、少しだけ気になる場所があります」

「おっ、いいねぇ。よし、そこに行ってみよう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る