第二部 序&第一章「新しい最上級職が凄すぎる件」
第二部の【復活&始動編】がスタートします。
新しく始まるので冒頭はこれまでのあらすじっぽい感じと、テンプレの人物や街の描写などがダラダラと入ってますけどお付き合いください。
俺の名前は鈴木秋斗、十七歳の健康な男子で黒髪の短髪、身長170センチ、顔も体型もごく普通な日本人だ。ついこの間まで訳ありで無職の引きこもりオタクをやっていた。
その訳ありとは、生まれつき超人的なパワーと頑丈な体を持っていることだ。大岩を軽々と持ち上げる怪力とそれを砕く攻撃力は、力加減を間違えば物や人間を破壊してしまう。なので自分から周りに迷惑をかけないように引きこもっていた。
何故そんな超人パワーがあるのかというと、母親が異世界の住人であるドワーフだからだ。偶然か必然か分からないが、人間とドワーフのハーフは超人が生まれてくる。まあ今のところサンプルは俺しかいないけど。
父親は温厚でいたって普通な人間だが、異世界に勇者召喚されたことがあり、その時に母親と出会っている。それで勇者の役目を放置して日本に母親を連れて帰り俺が生まれたわけだ。もうとっくに離婚していて母親は異世界に帰って音信不通。写真も動画も残ってないから母親の顔すら知らない。本人が嫌がったから、とか父さんは言っていたが本当のところは不明だ。なにか異世界人特有の事情があったのかもしれない。
そんなある日、父親の勧めもあり、いつまでも無職の引きこもりをやっていられないと思い、超人でも生きやすい剣と魔法の世界であるもう一つの故郷、エルディアナへと移住した。
異世界だけあり身分階級が存在し、人間は上位種で色々と優遇される。エルフやドワーフ、半獣人などは身分が低く人間の奴隷になっていたりする。そういったルールがある中でドワーフとのハーフだと知られれば大きな問題が起こる可能性があった。だから出生の秘密は誰にも話せない。
こっちに来てからは驚きの連続で、バトルと冒険の日々を過ごしながら南へと向かい、大都会で商人の街と称されるゴールディーウォールに住み着いた。訳あり賃貸だが大きな家を手に入れ、超可愛い犬系と猫系の二人の半獣人奴隷、更に謎の人型植物たちと一緒に住んでいる。
その街で冒険者登録の時に商人となり、冒険者御用達の店を開くためにバトルやダンジョン冒険をしながら資金や売るための商品を集めている最中だ。
戦闘用の冒険者職業じゃないんだから普通はバトルとかできないけど、運よく超人だったので戦いまくって商人レベルを驚異的なスピードでガンガン上げている。もう完全にルール無視の反則技で商人としては脱線、というか暴走していた。
しかし運が悪いことも幾つかある。二つ名の最低最悪なエルフに追いかけまわされたり、巨悪の陰謀に巻き込まれたりと散々な目にもあった。
いやホンと大変だった。っていうかまだ西のダンジョンに行ってボス戦やったの昨日の事だけどね。とにかく人間やめちゃったマッドサイエンティストの魔王殺しや上級魔人と激闘を繰り広げ、なんだかんだで大冒険だったし人知れず街を救った影のヒーローもしちゃったよ。
その冒険の中で、我が家の猫系半獣人奴隷のクリスチーナは、冒険者登録をして何か職業が欲しいと言っていた。
もう一人の奴隷、犬系半獣人のスカーレットが俺と一緒にバトルやレベル確認しているのを見て羨ましくなったようだ。
ゲームのようなステータスを持ち特殊な技や魔法が使える冒険者になるには、女神を祀っている神殿へ行って女神の祝福という儀式を受けなくてはならない。それ自体は簡単なのだが問題は、天然おバカ星人のクリスにどんな職業を与えるかだ。クリス個人の強さではなくパーティーレベルの事を考えて、冒険に必要なスキルや魔法が使える職業がいい。
バトル特化の冒険者職業は定番以外に上級職、最上級職とランクがあり、上のものほどレベルを上げるのは難しい。当然スキルや魔法も習得は困難だ。その代わり一つ一つが便利で強力なのは間違いない。
それで今は昼飯を食べた後にクリスとスカーレットを連れて、街の山手にある女神エルディアナを祀っている神殿へと向かっていた。
因みにこの街ゴールディ―ウォールは世界で一番大きなディアナ大陸の南にあり、一年中夏のように暖かい場所だ。
今日の俺の服装は、白のTシャツにジーパン、昨日買ったダークグレーの短めのハーフマントと魔道具のスニーカーで、腰にウエストポーチ型の魔法の道具袋とダガーナイフを付けている。
スカーレットは犬系半獣人なんだが、耳や尻尾の感じから勝手にゴールデンレトリバー系だと思っている。
身長は160センチぐらいで見た目は女子高生だが年齢は不詳。半獣人は人間より長寿であまり歳を気にしないから分からないのが普通だ。切れ長の大きな瞳は水色で精悍な顔立ちの美人タイプ。肌は色白、髪は淡いブラウンのロングヘア―、スタイルも良くて程よい巨乳。女子力は低いが冒険者職業は盗賊で戦闘経験もあり凄く役に立ってくれる。
黄色のタンクトップに白いミニタイトスカート、首に三角巻きした少し大きいネイビーのスカーフ、底が平らなブーツっぽい茶色の靴、手には指の部分がない革手袋、ウエストポーチ型の魔法の道具袋、という服装だ。
クリスチーナは猫系半獣人でその種類は分からない。とりあえず雑種ってことにしておこう。
見た目は二十歳ぐらいだけど年齢不詳。可愛い系の顔立ちで、鮮やかなオレンジ色の髪はショートヘア、大きな瞳は美しい琥珀色をしている。色白で身長185センチはあり凄くスタイルはいい。と言っても男子目線での話だ。とにかくムチムチしていて巨乳とデカ尻に迫力がある。
ド天然の超ドジっ子だが奴隷歴が長く、料理に洗濯裁縫と色々仕込まれているので女子力は高く意外と役に立つ。
何でもある不思議な店、ナナシ屋で買ってあげたブルマと体操服、白のソックス姿で、靴も上履きみたいなやつだ。今日のブルマは水色で横に白いラインが二本縦に入っている。それとボディバッグ型の魔法の道具袋を背負っている。
二人ともフード付きのマントを纏ってケモ耳と尻尾を隠していた。大きな街はほとんどが人間以外は体を隠すルールだ。
耳も尻尾も可愛いのに本当に納得いかないルールだよな。まあ奴隷や身分制度がある世界なので従うしかないけど。
さてと、ここはもう街の中心部だし色々と気を付けねば。
「二人とも大きな声は出さないように。あと注意は怠るなよ」
警戒するのは当然、二つ名の暴君ストーカーエルフ、アンジェリカの事だ。
ホンと何処にいるか分からないゴキブリ並みに湧いて出てくる奴だ。見た目だけは可愛いエルフの少女なんだが冗談抜きで怖いし、一緒に居たら目立つので関わり合いたくない。だから姿を確認したら、からまれる前に全力で逃げる。
「あのエルフが近くにいたら、すぐにご主人にお知らせします」
スカーレットは犬系半獣人だから鼻がいい。なので頼りにしている。
「逃げる準備はできているにゃ。お任せなのにゃ」
はい、出ましたお任せ星人。もうフラグにしか聞こえないよ。アンジェリカに見つかったら、またドジっ子スキルが発動して一番に捕まるんだろうな。
そんなド天然の猫系半獣人をどんな冒険者職業にするか、なかなか思いつかない。っていうか職業の種類が多すぎてちゃんと理解していないのが現状だ。ステータス設定を作っている女神と勇者が面白がってやり過ぎなんだよな。もう何でもありのゲームを超えてしまっている。
例えば盗賊とシーフはただ名称が違うだけじゃない。基本能力は同じだがシーフは使えるスキルが個人に特化している。盗賊はパーティー全体で使えるスキルが多く、定番職だがシーフよりもランクが上でレベルは上げにくい。など似たような職業でも分けられておりややこしい。
やり込み度は上がるし、命懸けの冒険者という職業を少しでも楽しめるように、って感じの配慮があるのかもしれない。
あれこれと考えているうちに、俺たちはアンジェリカに見つかることなく無事に神殿へと辿り着いた。
「ここの神殿は凄いのにゃ。今まで見た中で一番大きくて立派なのにゃ」
クリスはサグラダファミリア級の巨大な神殿を見上げて言った。造りはヨーロッパの教会や大聖堂風で迫力と威厳がある。
中へと入り奥に進み大理石の女神像が立っているところまで行った。女神像の横にはシスターのような格好で大きな魔石が付いたシルバーの杖を持っている巫女がいた。
巫女は二十歳ぐらいで165センチ程のスレンダーな体型、白人系で金髪に青い瞳の美女である。てか前に来た時と同じ人だ。
「冒険者系の職業について色々と聞きたいんですけど、今いいですか」
「はい、大丈夫ですよ。どんなことでも聞いてください」
「じゃあまずは、パーティーに一人は居てほしい冒険に役立つスキルとか魔法を覚えられる職業って、どれがおすすめですか」
「普通に考えれば回復や状態異常を治す、僧侶や白魔道士、プリーストでしょうね。覚えるスキルや魔法は少し異なります」
「やっぱそうなりますか」
「おすすめということであれば、最近設定された新しい職業がありますが」
「へぇ〜、まだ職業って増えてるんだ」
「ただレベルが最も上がりにくい最上級職になりますけど。でも就くのに資格や条件がないのがいいところです」
「最上級職……どんな職業なんですか」
「魔法少女です」
「えっ⁉ ま、魔法少女?」
「はい。魔法少女です」
まさかの魔法少女キターーーーーっ‼
スゲーな、そんな職業あんのかよ、やっぱ監修してる勇者は日本人のオタク確定だ。もう心の中で何も知らないあなたのことを先生と呼ばせてもらおう。
「巫女さんや、その最新職業、詳しく聞かせてもらいましょうか」
この時の俺は恐らく、鋭い眼光で口元に狡猾な笑みを浮かべていただろう。そして思わず前に出て巫女に迫っていた。
「あの、ちょっと近いんですけど」
「失礼しました。少し興奮してしまったようです。では説明よろしく」
巫女はガチで引き気味の顔をしている。何故そんなに食いついているのか不思議なんだろうな。これはこっちの世界の奴には説明不可能だ。
ただもう魔法少女がどんな職業だろうと既に俺の中でクリスの職業は決まった。冒険に便利なスキルとか魔法とか知ったこっちゃねぇよ。誰が何と言っても魔法少女の一択だ。
それでだ、あれやこれやと細かく聞いた魔法少女の情報は本当に凄かった。やはり最上級職は伊達じゃない。
今のところ当然だが女限定の職業で、なんとクラシックスタイルとフューチャースタイルがある。
クラシックはいわゆるフリフリのロリータ衣装で魔法のステッキを持ったカワイイ系のテンプレ。ただコスチュームは初期設定でゴスロリ系やサキュバスみたいな小悪魔系も選べるようだ。
フューチャーは未来的なロボパーツ系のアーマーで、魔力をレーザーみたいにして使える。俺の勝手なイメージとしては、ロボアニメの定番、ビームサーベルやライフル、宙を飛び回るビーム砲的なやつだ。
これはどっちにするか迷うところだが、フューチャースタイルはまだスキルや戦闘方法が設定中で、当分の間は選べないとのこと。
クラシックスタイルの一択なら、後はコスチュームをどうするかだが、後々またここで金貨一枚払えば設定変更で違うコスチュームにできる。
なのでまずは定番のフリフリロリータ衣装の魔法少女を選ぶ。
初期スキルとして『変身』がある。レベル1から使えるが、ただコスチュームに変身するだけ。
レベル1のコスチュームには耐性や防御力がないが、レベルアップと共にそれらは上がっていく。更にレベルが上がればスキルに『メタモルフォーゼ』が追加され、全ての属性耐性がある優れたコスチュームになる。
とにかく魔法少女はレベルが高くなった時のスキルが強烈で激熱だ。いや鬼熱だ。
スキル『風の加護』は空を自在に飛べる。
スキル『魔法空間』は魔法の道具袋が無くても上級の魔人族みたいに自分の空間を持っていて、自由に武器やアイテムを取り出せる。
そして最高にヤバいスキルが『ガチャ』シリーズだ。
ガチャ・レアガチャ・12連ガチャ・シークレットガチャ・メガガチャ、と何種類もある。
発動させると魔法陣からガチャガチャと回す音がしてカプセルが召喚され、ランダムに選ばれた魔法やスキルが使える。
出てくるカプセルは、白・青・緑・紫・赤・銀・金、の種類があり色によってレアな強スキルや上級魔法が出現する確率が変化する。
白は5%、青は15%、緑は25%、紫は50%、赤は70%、銀は80%、金は100%、という確率だ。まだ金色の上に紅白と虹のカプセルもあるとのこと。
なんだよこれ、もうこの時点でワクワクするじゃねぇかよ。
で、ガチャは基本的に攻撃特化だが、たまに補助や回復魔法、レアスキルも発動する。
例えば『マジックカウンター』は相手の攻撃を吸収し、魔力に変換して跳ね返す。
スキル『光の加護』は一定時間だけ無敵状態と言っていいほど防御力が上がる。
しかし魔法少女はガチャスキルに特化しているので、初心者レベルの攻撃魔法すら覚えられない。
一応ガチャ経由なら全ての属性や召喚魔法が使える。とにかくガチャで当たりを引けば、レベルに関係なく最強や究極魔法が使える可能性があり、賭けの要素が強い。
だが当然これらのスキルは変身している時にしか使えない。
はっきり言って高レベルにならない限り完璧な役立たずだ。まあチート超人の俺と一緒に居るんだから、そもそも何もしなくていいし、今のところクリスは基本何もしていない。だからレベルが上がるまでは、今まで通りバトルは見ているだけで、後は原料拾いをやってくれればいい。なんの問題もない。
あとガチャ発動時は防御結界で守られ、一通りの流れが終わるまで絶対無敵という鬼畜仕様。設定した勇者と女神様やり過ぎだけど、俺はそんな遊び心は歓迎する。
てか敵も味方も空気読んで見てるだけとか面白過ぎるだろ。早くガチャ発動が見たい。メガガチャとかは凄くデカいガチャカプセルが現れるらしい。想像しただけで燃える。
因みにクラシックスタイルのガチャはカプセル系で、フューチャースタイルはカード系だ。
どっちにしても、ただただ楽しみだ。俺が一番初めにクリスをパーフェクトな魔法少女に育ててメガガチャを発動してやるぜ。どんな魔法が発動するのかドキドキだけど、敵の方は訳が分からなくて驚くだろうな。タイミングが合えば、ド天然魔人族のイスカンダルに食らわせてやりたいぜ。面白いリアクション取ってくれそう。
でも気を付けないとマップ兵器みたいな広範囲を焼き払う魔法だと街ごと破壊しかねないし、メガは使う場所とタイミングが重要そうだ。とはいえヤバい魔法が出た時は使わずにキャンセルできるのがありがたい。
「じゃあこの子の職業は魔法少女でお願いします」
俺は女神像の下にある箱に女神の祝福を受けるための料金、金貨一枚を入れた。
「はい。それでは始めますので、その者を正面に立たせてください」
クリスはこの時、新しいおもちゃを手にした子供のように、うきうきした顔になっていた。
「これより女神の祝福をおこないます。立ったまま動かないように」
巫女はクリスの頭の上に赤く大きい魔石が付いた杖をかざす。
「この者に、女神エルディアナの祝福あれ」
魔石が光り輝き、クリスの体が光の粒子に包み込まれる。
光は十秒ほどで弾けるように消し飛び、俺の時と同じで簡単に終わった。
「よかったなクリス、これで冒険者だな」
「はいにゃ、凄いのにゃ。クリスチーナがついに冒険者の仲間入りなのにゃ」
「全てご主人のおかげだ、感謝しろ、バカ猫」
「そうなのにゃ、ご主人様のおかげにゃ。本当にありがとうございますにゃ」
「二人とも、これからどんどん強くなって役に立ってもらうからな」
「御意」
「はいにゃー」
「よし、それじゃあ外に出て、早速クリスの変身を見よう」
俺たちは目立たず邪魔にならないように神殿裏の森の中に入った。
「この辺りは少し開けてるし、ここで魔法少女の変身を試してみようぜ」
「はいにゃ」
想像通りのコスチュームだろうけど、まさかリアルガチで魔法少女の変身が見れるとはな、ドキドキするぜ。
俺とスカーレットは数歩下がって間合いを開けて準備は整った。
「ほら、カッコよく変身って言って、スキル発動させてみろよ。あと語尾ににゃはいらないからな」
魔法少女は変身しないと能力も上がらず普通のままで、ステイタスも分からない。まあレベル1だからステイタスは期待してないけど。そんな不便なところまで忠実に再現されているところを評価したい。
「はいにゃ。それではやってみますのにゃ」
クリスは柄にもなく緊張しているようで、ゆっくり大きく深呼吸した。
「変身‼」
クリスが元気よく発すると、体がふわっと宙に浮き、同時に全身が光の粒子に包み込まれ、幾筋もの閃光が走る。
「おおっ、なんかスゲーぞ⁉」
そして次の瞬間にはクリスを包み込んでいた光は華やかに
「ま、魔法少女キターーーーーーーっ‼」
光の中から現れたクリスは、見事に一瞬でコスチュームチェンジしている。
ノースリーブ型のロリータファッションで、二の腕の真ん中から手首まで袖があり色は白とピンクを基調としている。ボリュームのあるスカートは短めで、腰には大きなリボンが付いていた。服や靴下の裾や襟、袖口にはフリルが付いていてとにかくカワイイ。小さなリボンもいっぱいだ。
更にクリス自身にも変化がある。オレンジ色のショートヘアがピンク髪の超ロングヘアになって、琥珀色の瞳もピンクに変化してキラキラしている。
装備は、ハートと王冠と翼、赤い魔石が付いた白と金色を基調としたロングステッキだ。
かつてこれ程デカくて色んな意味で迫力のある魔法少女がいただろうか。いやホンとデカいよ。だってクリスは185センチはあるもん。靴と猫耳を入れたら195センチは超えていると思う。でもデカくても、カワイイものはカワイイと分かったよ。
魔法少女のコスチュームだけでも萌えるのに、初めから猫耳と尻尾付きとかレベル高すぎる。しかも魔法少女らしからぬ巨乳が、邪道だが個人的には最高である。
尻尾はスカートの下から垂れているんでも穴が開いているわけでもなく、魔法の力で服を通り抜けてちゃんとしたポジションにあるのがいい。
ただそんな感じの違和感があるせいか、クリスの魔法少女姿はバカっぽい。っていうか、もう可愛いからなんでもいいや。俺のテンションMAXだぜ。
「はいそこでカッコいいポーズをとって、さっき教えた決め台詞」
「魔法少女クリスチーナ、降臨‼ 勇者に代わって、お仕置きしちゃうぞ」
「はははっ、スゲーーっ、魔法少女だ。もう笑うしかねぇよ」
「あのぉ、ご主人、魔法少女とはどんな職業なのですか?」
スカーレットはキョトンとした顔をして聞いた。
「だよな、知らなくて当然だ」
「クリスチーナも気になるのにゃ」
「魔法少女は……簡単に言うと魔法使いとか魔道士と同じだ。ただ魔法の使い方が特殊なんだよ。あぁ後、何かしら使命を持っている感じかな。まあこの場合の冒険者には関係ないけど」
詳しく説明できないけど、世界を救うためとか、そんな大きな使命を遂行するために選ばれた女の子、とか二人に言ってもよく分からないだろうし、今の説明でいいや。ぶっちゃけ色々とパターンがありすぎてカオスだし。
「それよりステイタスだよ。HPとMPは?」
「二つとも50なのにゃ」
「ひくっ⁉ 思ってたより厳しいな。まあレベル1だし普通か……」
で結局、その他の身体能力も今の段階では普通の数値だった。
しかし最上級職だし、一つ上がっただけでも一気に強くなるはずだ。やはり俺が頑張るしかない。
「クリス、ちょっと色々可愛いポーズとってみて」
「はいにゃ、お任せなのにゃ」
クリスはノリノリで次から次にポーズをとって見せてくれた。
マジで可愛いっす。このままコミケに降臨させたいぐらいだ。例のあの広場で伝説の撮影会ドーナツ作れるだろ。
「よし、もういいぞ、堪能できた」
「はいにゃ。ご主人様に喜んでいただけて、クリスチーナは嬉しいのにゃ」
変身を解く時は、解除と念じるだけで戻る。
元に戻る時は本当にあっけなくて、全身がピカッと光り、粒子が飛び散るように弾けてコスチュームは消える。
味気ないけどアニメ見てても戻る時は簡単なんだよな。でも今のクリスはブルマと体操服姿だし、変身しているようなものだ。
「あの……ご主人は魔法少女というのが好きなのですか?」
大人しくしていたスカーレットが徐に言う。
「まあ、好きと言えば好きだけど」
「ならば私も、その魔法少女に転職した方がいいでしょうか」
「なに急に、どした?」
「いや、その……ご主人が喜ぶのなら、わ、私もそうしたいと……」
スカーレットは赤面してモジモジしている。なんともその姿は可愛い。
「それもいいんだけど、いま転職したらこれまでのレベルも捨てなきゃいけないし、スキルが使えなくなるのも痛い」
「はい、ご主人の言う通りです。わがままを言って申し訳ありません」
「今は盗賊のスカーレットを頼りにしてるから、このまま極めて、その後に他の上級職になってもらいたいかな」
戦闘系の定番職はレベル99まで上げないといけないから極めるのは難しい。だが巫女さんから聞いた情報では、盗賊はMAXレベルが60の設定なので、俺と一緒なら早い段階で到達できるはずだ。
「御意」
「スカーレットちゃんガンバなのにゃ」
「お前が頑張れバカ猫‼」
ムカついたスカーレットはクリスのお尻に蹴りを入れた。
これで商人と盗賊と魔法少女という、ネットがあれば草って書きこまれる奇妙な即死パーティー状態になった。
俺がチートの超人じゃなかったら、冒険とか完全に無理ゲーですよ。
「さてと、さっそくレベル上げと、開店資金を稼ぐ冒険に行きますか」
「御意」
「はいにゃー」
今日も恐らく面倒なことになる、だけど楽しい冒険の始まりだ。
でも今日は遠出する時間はない。なので馬車で三十分で行ける北の森の狩場へと向かう。
ここからは仮面を付けて、二つ名の暴君エルフ、アンジェリカに見つからないように裏通りを使い馬車屋まで行き、一台手配してそのまま冒険に出発した。
程なくして到着したが、有名な狩場なので既に馬車でいっぱいだった。
馬車は夜になる前に街に着くのが契約なので、レベル上げに使える時間は夕方までの数時間だ。
といっても、ここは初心者冒険者が来る場所なので強いモンスターはいない。だから俺としては経験値ではなく倒した後の原料が目的だ。できれば鉄や鋼といった武器を作れる物か、宝石などの鉱物がゲットできればいうことはない。勿論、低級のモンスターなので量や質は期待できない。しかし塵も積もれば山となるだ。
「この辺りはモンスターがいませんね。他の冒険者パーティーの姿もありますし、もう少し奥に行ってみますか、ご主人」
スカーレットが周囲を見渡し言った。
「そうだな。もうザコは狩られた後っぽいな」
俺たちはモンスターを求めて森の奥へと向かう。
「ご主人様ご主人様、クリスチーナは変身しなくていいのですにゃ?」
「出番はないしそのままでいいよ。原料拾いしなきゃいけないし」
「はいにゃ。集めるのは得意なのにゃ」
それからすぐに低級のスライムやゴブリンとエンカウントして簡単に倒したが、俺はやっちまった事に気付く。
マジでイージーミスだ。ここのモンスターは魔造ではなく野生がほとんどで、倒しても原料が手に入らない。獣系や甲殻の昆虫系なら牙や毛皮に肉と色々と持ち帰ってお金にできるんだけどね。
「ダメだな。今日はもう帰ろう」
「御意」
「はいにゃ」
「そだ、変身してみろよ。ザコだけど何匹も倒したし、レベル上がってるか見てみよう」
パーティー設定しているし戦ったのが俺とスカーレットでも、クリスはすぐ側の前衛に居たので経験値は入る。
「はいにゃ」
クリスは変身してちゃんとポーズをとり決め台詞を言った。因みに変身すると服だけでなく仮面やマント、胸にかけて背負っていたボディバッグも基本的に必要のない物は消えている。魔法の道具袋である鞄が使えないのは不便だな。
「にゃん、レベルは何も変わってないのにゃ」
「マジか。一つぐらいは上がるかと思ったけど、やっぱ最上級職は簡単じゃないな」
初心者用の攻撃魔法すら使えないからな、ガチャを覚えるまで本当に役立たずだ。確かレベル5にならないとガチャを使えないと巫女さんの説明にあった。上級モンスターを相手にしないと、まだまだガチャへの道は遠いぜ。
で、この後は早々に切り上げ街に帰ってきた。
街に入ってからは仮面をつけたままで裏通りを進み、中心部の辺りまで無事に辿り着いた。
「スカーレット、ちょっと例のギルドに行ってレオンからの連絡がないか掲示板見てきて。俺たちはその間に食材を買っておくよ」
「御意」
ここで待ち合わせをして別行動をとった。だがこれが今日二つ目のイージーミス。
「見つけたわよアキト‼ 仮面なんか付けてたって分かるんだからな」
突然後方から聞こえたその声に、思わずビクッと大袈裟に驚いた。
勿論その声の主は
百年生きてるロリババアのエルフで冒険者職業は上級職の魔法剣士だ。
身長は150センチないぐらいで、小柄なスレンダー体型であり胸はツルペタ。しかしお尻はなかなかの桃尻だ。肌は色白で瞳は大きくグリーン、輝くように美しい金色の長い髪はツーサイドアップの変則ツインテール。
見た目は小学六年生だが性格は凶暴で、すぐになんでも力で解決しようとする恐ろしい暴君だ。
元々は日本人の女の子で、十七歳の時に交通事故で死んで、どういう訳か奇跡的に記憶を持ったままエルフとして異世界転生をした。その転生の影響で特別に魔力が強く究極のチート状態になっている。だからゲーム感覚で冒険者をして色々な大陸を旅しながら魔王なんかもぶっ飛ばしていて、この世界では有名人だ。そして今の旅の目的は、奴隷商人に捕まり売られてしまったエルフの姉を探すことらしい。
服装は白い半袖ブラウスにチェックの赤いプリーツミニスカート、白いニーハイにロングブーツ。更に軽装備の鎧は白を基調としたもので、パーツのフチは金色でカッコいい作りだ。マントは内側が赤で外が白、腰には剣と魔法の道具袋であるダークブルーのウエストポーチを装備している。あと服で確認できないが、首にはクリスタルっぽい石が付いた金のペンダントを付けていた。
アンジェリカは身分の低いエルフだけど、人間から恐れられているので、街の中でもフードをかぶったりしてその姿を隠すことはしない。怖いから誰も注意しないんだよなぁ。
本当に美少女で可愛いのだが、はっきり言ってこの二つ名エルフは最強の中の最強だと思う。関わり合いにならないのが得策だ。なのにまた見つかっちまったよ。何やってんの俺は。
「見つけたってなんなのさ。探してたの? なにか用事あるの?」
クソッ、鼻の利くスカーレットがいれば回避できたかもしれないのに。
てかお前、別に用事ないだろ。ただ構ってほしいだけだよね。
「そ、それは……別に用事ということは……」
顔を赤くしてモジモジしてんじゃねぇよ。お前の場合は可愛いけど可愛くないんだよ。
「分かったのにゃ。アンジェリカちゃんはご主人様に会いたかったのにゃ。ご主人様が好きなのにゃ」
ちょっとクリスさん何言ってんの、面倒なことになるでしょ。空気読んでよ。
「あわわわわわっ、な、なな、なにを、この猫は何をバカなこと、い、いい、言ってるんだ」
はいもう変なことになってるぅぅぅぅっ。
アンジェリカさん赤面してパニック状態だし。どうすんだよこれ。
もう逃げるしかないけど、さてどうやって逃げようか……そだ⁉ 役立たずと思ってたけど、アレが使えるかも。
「クリス、変身だ」
「にゃん?」
「にゃんじゃねぇよ。変身しろ‼」
「はいにゃー。変身‼」
クリスは俺の命令通り魔法少女に変身する。
当然この時、強烈な光が派手に迸る。近くにいたら閃光弾を食らったように眩しいはずだ。
「うわっ⁉ なによこれ、眩しい……」
アンジェリカはいま目を閉じているはずだ。この隙に俺は一人で逃げ、建物で身を隠した。
クリスは自業自得だから置いていく。まあ少しはお利口さんになってたら、俺の考えを理解してこの隙に逃げるはずだ。
「なんのつもりよ、眩しいだ……ろ、ってなんて格好してんのよ、舐めてるのかお前は‼」
「にゃん、アンジェリカちゃん知らないのにゃ、魔法少女なのにゃ」
はいバカのままでした。我が家の猫は逃げてません。まあ予想通りですけどね。
「ふっざけんな、このクソ猫。なにが魔法少女だ、可愛いとでも思っているのか。いろんなところがデカいんだよ。わざとか、わざとなのか、デカいのを自慢しているのか。だったらその無駄にデカい脂肪の塊、引きちぎってやる。てかアキトはどこ行った‼」
アンジェリカは激オコでクリスの巨乳を鷲掴みにしながらまくしたてる。
うわぁ〜、超怖っ。見た目が可愛いロリエルフでも、中身は鬼ババアだよ。
「ふにゃあああっ⁉ アンジェリカちゃん痛いのにゃ。おっぱい強く握ったらダメになるにゃ。ぷんぷこぷんで怖いのにゃ」
もう笑うしかねぇぇぇぇっ。デカい魔法少女が金髪ロリエルフにボコられてるよ。
でも号泣してても相変わらず可哀想に見えない。こりゃこのまま放置して問題なさそうだ。ガチで一人で逃げよう。
「コラアキトっ、出てこーーーーい‼」
行くわけないだろバーカ。騒ぐから人が集まってきたじゃねぇか。てか名前を呼ぶなっての。
その場から離れようとした時、スカーレットがアンジェリカに見つからないように帰ってきた。
「エルフの匂いがしていたので、もしやと思ったのですが、またバカ猫が捕まってしまいましたか」
「変身の光を使って、俺だけは逃げられたけどな」
「なるほど、そんな使い方があったとは、流石ですご主人」
「で、掲示板はどうだった」
「レオン様からの連絡はありませんでした」
「そっか、ご苦労さん。それじゃあこのまま帰りますか」
「その意見に賛成なのですが、あのバカ猫の事ですから、エルフを連れて家に帰ってくるのではないでしょうか」
「うっ、そ、それはマズいな……」
確かにスカーレットの言うとおりだ。クリス一人で逃げれるわけないし、アンジェリカなら家まで追いかけてきそうだ。
「スカーレット、またアンジェリカに捕まらないように上手いことやって、クリスを回収してくれ」
「御意。お任せください」
「ははっ、お前のお任せは頼もしいな」
俺は心底そう思いながらスカーレットの頭をナデナデした。
スカーレットは嬉しそうな顔で頬を赤くして、尻尾をグルグルと回し振る。
しかしクリスを救出するには時間がかかるだろうし、俺が居ても仕方がないので後の事は完全にスカーレットに任せよう。まだまだやる事や会う人がいっぱい居て、俺は忙しいからな。
「スカーレット、俺は食材買ってその後、鍛冶屋によってから帰るよ」
俺は歩き出しながら言った。
「はい、お気を付けて」
スカーレットは尻尾を振りながら、少し寂しい感じの目をして俺を見送る。
それにしても困るのはアンジェリカの存在だ。どういう立ち位置で相手していいか分からない。このままストーキングされてたら、俺の異世界スローライフ&商人計画は台無しになってしまう。
こりゃもう俺が動くしかないよな。早いうちに行方不明になってるアンジェリカの姉ちゃん探して、この街から追い出す方法を考えよう。
この時、まだ遠くの方でクリスの泣き声が聞こえていた。せっかく最上級職の魔法少女になったのに、初陣がまさかの最強二つ名で、フルボッコにされるとは運が無い。
まあ我が家の魔法少女がマミらず無事に帰ってきたら、なんでもいいから褒めてあげよう。ただ変身が役に立つとは思わなかった。色んな意味で凄い職業になりそうだ。
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