第19話 VSゴーレム

「なんだ、ここ……?」


 俺の声が反響する。

 井戸の下には水面ギリギリに横穴があり、薄暗いそこを進むと、開けた地下空間へと繋がっていた。


「少し肌寒いわね」

「あ、これ着るか? 俺の団員服で良ければ」

「え……いいのかしら?」

「ああ、ほら。俺は全然平気だから。それと、アマンダさんは大丈夫ですか?」

「私は問題ない、気にしないでくれ」


 アイライ島は暑いからと上着を持ってこなかったリーナに、俺は羽織っていた騎士団服のブルゾンを渡した。

 気に入って持参したのは正解だったな。

 リーナが騎士団服を着るのを待ち、不思議と明るい空間内を見渡す。


 正面奥には扉があり、その前に大きな石像があった。

 この空間とともにかなり昔に作られたものらしく、時が止まっているような印象がする。


「テオル、魔力はあの石像からか?」

「いえ。あれからも感じますけど、本流は多分扉の奥から流れ出ています」


 アマンダさんからの質問に答えていると、リーナが顔を前に出し何かを見ている。


「その扉からも魔力を感じるけど、何か特殊な施錠がされているのかしら?」

「ん?」

「ほら、あの刻印」


 指された方を見てみる。

 すると石像が背を向ける扉に、掘り込まれた刻印がうっすらと見えた。


「ほんとだな……」


 奥からの魔力に意識がいって気がつかなかった。

 ということはつまり、あの扉を開けるのにも時間がかかるだろう。

 こっそりと近づき通り抜ける、というわけにはいかないな。


「石像──この部屋の守護者を倒さないといけないようだ。準備は良いか?」

「はい」

「バッチリよ」


 足を進めると、ゴゴゴと大きな音を立てて石像が動き始めた。

 生えていた苔が裂かれ、粉塵が舞う。

 同時に来た道の横穴が一瞬で消えてしまった。

 見たことがない高度な魔法を感じたが、俺たちは皆それを一瞥しただけですぐに視線を戻した。


 石像はその見た目に似つかわしくなく、手に持った斧を高速で振り下ろしてくる。


 後ろに跳躍し、回避。

 道があるということは、誰かが利用する場合があるということだ。

 設計上、石像と戦わなくても良い方法があるのだろうが、今はわからないので戦闘態勢に入る。

 リーナが腰に携えた鞘から剣を抜き、アマンダさんが拳を構える。


「あまり大きな技を使ってここが崩壊しては困る。気をつけるのだぞ」

「ええ。じゃあまずは私が──」


 二人なら、怪我一つせずに倒してくれそうだが……。


「いや、俺がやるよ」


 手で制して、俺は一人で前に出た。


 石像を観察して気がついたのだ。

 これが魔法をかけられたただの石の像ではなく、人工的に作られた生命体──ゴーレムだと。

 ここまでのゴーレムを作るのには、かなりの技術と時間、材料が必要だ。

 今回は攻め込みにきたのではなく、話を聞きに来たんだからな。


「壊したら製作者が機嫌を損ねるかもしれない」


 腰を低くし、駆け出す。

 そして、


「闇魔法──〈存在隠蔽〉」


 俺は気配を消した。

 ゴーレムの視線は未だリーナ達の方へ向いている。

 久しぶりの自身の存在が希薄になる感覚。

 心地が良い。


「なっ……あいつ、どこに消えたのだ!?」

「やっぱり、初めて見たらびっくりするわよね……」


 アマンダさんが顔を左右に振って俺を探している。

 リーナはというと、腕を組んで苦笑いを浮かべていた。


 俺は何の問題もなくゴーレムの背後に回り込む。

 ジャンプし浮かび上がると、背中に小さな隙間があるのが見えた。

 これは動力源であり核となる魔力を込めた特殊な石──魔石を入れる際にできたものだろう。

 正面から設置すると簡単に破壊されてしまうため、ゴーレムの魔石はこうやって後方から入れられることが多い。


「──ここだな」


 そのことを知っていた俺は、手のひらで魔力を目に見えないほど細い糸にする。

 これならこの隙間にも入るはずだ。

 集中が乱れたら魔力は形を保てず、すぐに霧散してしまう。

 だから気をつけて……


 シュギュュインッ!


 魔力の糸が、寸分違わず隙間に入っていく。

 すぐにゴーレムは起動停止し、その大きな体躯を倒した。


 ドォオンッ!!


 空間全体が揺れるが、大きな損傷は見当たらない。

 ゴーレム本体の方も……多分、大丈夫だよな?

 思ったよりも勢いよく倒れたので、少し不安だけど。


〈存在隠蔽〉を解除し、リーナ達の元へ戻る。


「こっちの方が早く、安全に終わっただろ?」

「いや……早すぎるにも程があるでしょ」

「それに、安全に終わったと言うより、ゴーレムが安全に終われたというべきだな」

「アマンダさんまで……」


 呆れ顔のリーナに、ちょっと引き気味のアマンダさん。

 そんなに特別なことはやってないと思うんだが……。


 俺たちは倒れたゴーレムの横を通り、刻印が施された扉に向かった。

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