第18話 隠された居場所の手掛かり

 アイライ島に上陸した俺たちは、早速調査を開始することにした。

 まずは上位竜がいる場所を見つけなければならない。


「こんなところに本当にドラゴンがいるのだろうな?」


 移動中、アマンダさんが疑問を口にした。


「そうですよね。魔力も一切感じないし、それにここ……」

「リゾート地だものね。島の奥に行けば手付かずの森林地帯があるとはいえ、そんな風には思えないわ」


 麦わら帽子を被ったリーナが俺の言葉を引き継ぐ。

 レストランや土産屋が並ぶ賑やかな街を抜け、森林の中に足を踏み入れる。

 人がいないのを確認し、アマンダさんはイシュイブリスを外に出した。


『ん〜っ、着いたようね。ここに目的の人物がいるのは間違いないわよ。ただ、噂によるとかなり強固な仕掛けで見つからないようにしてるみたいだけど』


 ということはつまり、この広大な島のどこかにいる。

 それだけしか手掛かりはないということだ。

 自分の目や勘、探知魔法を頼りに探していく必要がある。


 魔物がいたとしてもそこまで強くはないと思うので、俺たちは地図を広げ、イシュイブリスを含め四手に分かれて島内を回ることにした。


「担当の範囲が終わり次第、ここに戻ってくるのだぞ」

「はい」

「では、調査開始だ」


 アマンダさんの声かけで四散する。

 俺は最大範囲の3KMで探知魔法を展開し、全速力で木々の間を駆け抜けた。

 もちろん見落としがないように気になる箇所には全てを目を通していく。

 探知魔法を維持したまま移動し続けたので、情報処理に脳が疲れたが……結果的に、俺が担当した島の北東には何もなかった。


「はぁ……ちょっと気合入れすぎたか」


 ダラダラとやって日が暮れては困る。

 そう思って頑張ったものの、少しやりすぎたかもしれない。

 集合場所に戻ると、まだ誰もいなかった。


 木に背中を預け座り込み、少し待っていると──


『流石です、テオル様。私も急ぎましたが、もうお戻りになられているなんて』


 イシュイブリスが戻ってきた。


「どうだ、何かあったか?」

『いえ、これといったものは何も』

「そうか……。あとはリーナとアマンダさんだな。今日中に発見があればいいんだけど、やっぱり厳しいか」


 悪魔と二人きりの状況は本能的に落ち着かない。

 だが、彼女は当たり前のように俺の隣に腰を下ろした。


『そうですね。それに本当に何もなかったのか、私たちが見つけられないほど高度な隠蔽がなされているのか。判断しかねます』


 妙に距離が近い。

 あれから何度か話す機会があったが、ここまでは初めてだ。

 俺を深淵王と同等視しているのか、それとも同胞とでも思っているのか。


 強力な悪魔に認めてもらえるのは嬉しいけど……。


『あら、噂をすればアマンダちゃんが帰ってきたようです』

「え? 俺はまだ探知魔法の範囲外だぞ。なんでわかるんだ?」

『私は彼女の体内に封印されているので、その繋がりで』

「ああ、なるほど。封印……か」


 聞いてしまって良かったのだろうか。

 俺が察知できない距離でアマンダさんの行動を把握しているので、気になってつい尋ねてしまったが。

 所有や契約ではなく──封印。

 複雑な過去がないと、そんなことにはなり得ない。


 しばらくすると探知魔法に人が引っかかった。

 数分後アマンダさんが帰還。

 そのさらに十分後に息を切らしたリーナが戻ってきた。


「ちょっと……みんな……早すぎないかしら?」


 膝に手をついて肩で息をしている。

 相当頑張ってくれたみたいだ。


 しかし結局、誰も喜ばしい成果をあげた者はいなかった。







 そろそろ夕暮れ時なので俺たちは街に戻ることにした。

 事前に取っておいた宿に泊まり、調査の続きはまた明日だ。


「無限に時間があるわけでもない。帰りの期日までにドラゴンを見つけるのはなかなか手を焼くかもしれないな」


 イシュイブリスを体内に戻したアマンダさんが言った。


 森林の中に上位竜の居場所への手掛かりがないとすると、残るは山だけだ。

 島にある緑に覆われた火山のあたりはまだ調べられていない。

 そこにも何もなかったら手詰まりになる。

 せっかく同行してくれた二人のためにも──特に「遊ぶ時間が……」と頭を抱えているリーナのために──必ず早く見つけ出したい。

 俺だけは眠らず、夜も調査を続けるか……?


「待て」

「?」


 そんなことを考えていると、突然アマンダさんが足を止めた。


「イシュイブリスが『何か変だ』と言っている」

「変……ですか」

「ああ。普通であれば魔法を使う人が少ない分、森の方が街よりも空気中の魔力が多いが、微にだがこの辺りは森よりも多いと」

「え、そうかしら? 私には全然わからないけど」

「リーナ。悪魔の方が人間よりも魔力に敏感なんだよ」

「へぇー、そうなのね」


 首を傾げるリーナに教える。


 確かに言われてみれば、さっきいた森の中よりも街のこのあたりは魔力が濃いような気がする。

 これは……何処かから漏れ出ているのか?

 気になり、目を閉じて全神経を魔力を探ることに割いてみた。


 すると、とある場所を中心に魔力が出ていることに気づく。


 人の出が多い日中だったらイシュイブリスもこの変化は分からなかっただろう。

 この島で最も人が集まる中心地、俺たちが一度通った土産屋などが並ぶ道のあたりだ。


 ……見つけたかもしれないな。


「怪しいところがあったので今から行ってみます。時間も時間だけど、二人はどうしますか?」

「構わん。私は行こう」

「もちろん私も行くわよ」


 俺たちは早速、目的の方向へ向かった。

 気を抜いたらすぐに分からなくなってしまうが、微弱な魔力が溢れ出ているのはその一本裏の場所だった。

 近隣の店の人たちが利用する小さな井戸からだ。


「ここか?」

「はい。この下です」


 中を覗いてみる。

 これは、認識阻害の結界が張られているのか。


 足元に転がっていた石を拾い、ごく僅かな魔力を纏わせ素早く投げ入れる。

 本来なら何も起こらず底の水に落ちるはずだが、パリンと何かが割れる音がし、漏れ出す魔力が濃くなる。


「ほう、確かに。今もまだほとんど魔力を感じ取れないが、あんなに遠くからよくここを見つけたな」

「イシュイブリスが言ってくれなかったら分かりませんでした」

「私なんかまだ何も感じ取れないわよ? あんたの才能は悪魔並みってことね」

「それは褒められてるのか……? まあとにかく、今はこの下に行ってみよう」

「そうだな。結界があったということは、この先に必ず何かがある」

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