第17話 調査をしに島へ行こう

 そのままの流れで、団長が紅玉のことをアマンダさんに話した。

 細かい部分を俺が付け加える。


「心臓から変化した紅い石を持ったら割れたらしいんだ」

「はい。粉々になって、俺の体の中に」

「それで魔力が増えたって聞いたんだけど、合ってるかい?」

「そうです。魔力の総量と全体的なパワーが上がった気がします。まだちょっと、他にも違和感があるんですけど」


 アマンダさんは顎に手を当てて話を聞いている。

 リーナとヴィンスもあの奇妙な一件が気になるらしい。

 どんな返答がくるのか興味ありげな様子で耳を傾け、真剣な表情で会話に参加している。


「一瞬だけど、物凄い風が吹いたわよね」

「だな。テオルのやつも苦しそうにしてたぜ」


 客観的な情報を聞いて思い出す。

 そういえばあの時……。


「確か、体が強張って。その後に爆発したみたいに風が吹いたんだ」


 伝え漏らしがないよう詳細に話をし、アマンダさんの反応を待つ。

 彼女は目を閉じ、難しい顔をしていた。

 ここですぐに答えがわかればいいんだが。

 そうすればあの時の現象に関して、何か対応しなければならないのならすぐに行動に移ることができる。


 数秒後。

 アマンダさんが目を開くと、再び彼女の体内にいる悪魔──イシュイブリスが姿を現した。


「すまないが私の知識に思い当たるものはない。だが、こいつと対話をしたところ、何か良い案があるらしくてな」

『少しだけ話を聞いてくれるかしら?』


 対話、か。

 俺と深淵王とは全く違い、親しい間柄のようだ。

 問いに俺たちは頷く。


『うん。つまり……端的に、他の上位竜に話を聞けばいいのよ』


 するとイシュイブリスは指を立てそう言った。

 詳しい内容は聞いていなかったのか、アマンダさんが眉をひそめる。


「お前、それは厳しいのではないか?」

『え、どうしてかしら?』

「確かにこいつらが倒したドラゴンと同等の存在ならば何かを知っている可能性は高い。だが、まずもって穏便に話ができる者、そしてそいつがいる場所を……」

『わかるわよ、私がいるんだから』

「あっ」


 ここまで友好的な悪魔は珍しいな。

 彼女が言っていることをアマンダさんも理解したみたいだ。


「……結局、どういうことなんだよ」

「情報を聞けるかもしれない上位竜の居場所を教えてくれるってことさ、彼女が」


 もっとシンプルに話をまとめろ、といった感じのヴィンスに団長が、イシュイブリスを見ながら説明する。

 続きが気になる俺は尋ねてみた。


「それで、思い当たるドラゴンはどこにいるんだ?」


 その瞬間、イシュイブリスが畏まった態度になる。


『アイライ島でございます』

「あそこか……」

『はい。数百年前からあの島に隠居し、知識を集め、研究に励んでいる者がいるのです』


 俺が深淵王と契約しているからか、えらく敬われている。


 それにしても……そうか。

 ドラゴンの中にはそんなやつもいるんだな。

 数百年も前から世俗を離れているのなら、同じく長い時を生きるイシュイブリスがいなければ、居場所を知ることはできなかっただろう。


「教えてくれてありがとうな」

『い、いえ! この程度、当然でございます』


 感謝を伝えると、彼女は目を逸らしすぐに消えていってしまった。


 居心地が悪そうにしていたけど、対応を間違っただろうか。

 話を聞き、この後はどうするのか判断を仰ぐため団長を見ると、それまで静かにしていたリーナに脇腹を小突かれた。


「痛っ……な、なんだよ」

「なんでもないわよ! ふんっ」

「えぇ?」


 よくわからない。

 何を拗ねているんだ。


「まあ、とりあえずそうだな……アイライ島に行ってみたらどうだい? みんな仕事を終わらせたばかりだし、休暇も兼ねて」


 理不尽なリーナに戸惑っていると、おかしそうに笑って団長が言った。


「全員が王都を離れるわけにはいかないから、僕が残るよ」

「えっ、本当にいいのかしら!? 感謝するわ、ジン!」

「そうだな。イシュイブリスも事の真相が気になるらしい。私も行くぞ」


 高速で機嫌を取り直したリーナにアマンダさんが続く。

 自分の身に起こったことに関する調査とはいえ、こんなに休暇をもらっていいのだろうか?

 気になりながらも俺はヴィンスに訊いた。


「お前も行くか?」

「いや、俺はいい。いくらなんでも遠すぎんだろ。面倒くせえから後で結果だけ教えてくれ」


 ヴィンスは、休暇は休暇でゆっくりと過ごしたいらしい。


 こうして俺は、リーナとアマンダさんと一緒に、アイライ島へ行くことが決まった。




 ◆◆◆




「テオル、見えたわよ!」

「お、やっとか」


 王都を出て数日、俺たちは海の上にいた。

 暖かな日差しと潮の香り。

 船は勢いよく進み、心地の良い風が吹き付ける。


 ちなみにようやく視界に現れた島にテンションが上がっているリーナとは違い、サングラスをかけたアマンダさんは屋根の下、優雅に過ごしている。


「有名な海水浴場でいっぱい遊ぶわよー!」

「いや、一応調査に来たんだからな?」

「……わ、わかってるわよ」

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