第14話 変な出会い方

「うーん、申し訳ない。昨日もリーナから話を聞いて考えてみたんだけど、やっぱり僕は知らないなぁ」


 祖父が去った後。

 団長に紅玉の話を訊くと、そんな答えが返ってきた。


「あっ、そういえば今日だったね」

「今日……?」

「うん。姫様の護衛で王都を離れていたもう一人の団員が帰ってくるんだ。彼女は博識だから、何か知ってるかもしれないな」


 そういえば、まだ会っていない団員があと一人いるのだった。

 どんな人なんだろう。


「なるほど、ちょうどいいタイミングですね。それならその方が来てから──」

「でも、手紙で団員を増やすって知らせたらかなり怒ってたからなぁ。話を聞くのは厳しいかも」

「……結局全員、俺の入団を嫌がってたんじゃないですか」

「ま、まぁそれはそれで。アマンダへの挨拶をしっかり済ませてから話を聞くことにしよう。それまではほら、大図書館にでも行って調べてみたらどうだい?」


 冷ややかな目を向けると、団長は曖昧な笑みを浮かべる。


 それにしてもそうか。

 リーナに案内してもらったあの図書館なら、何か情報を得られるかもしれない。

 騎士はいつでも利用できると言っていたしな。


「わかりました。じゃあ団員の方との間は団長が取り持ってくれるということで」

「りょ、了解……」

「とりあえず今は文献がないか当たってみます」

「あっ、そうだ。なら今のうちに、生活のために給金の一部を前払いで渡しておくよ。いやぁ〜、気が利かなくてすまないね」


 ひとまず予定を決め部屋を出ようとすると、団長が硬貨の入った袋をくれた。


「ありがとうございます。助かります」


 ほとんど必要がないとはいえ、お金がなくて困っていたのだ。

 退室し、ヴィンスに絡まれる前に外に出る。

 袋の中を覗いてみると、思っていたよりも金額が入っていた。


「これが一部って、十分大金だな……」


 肉串なら何本でも食べられそうだ。


 俺はさまざまな書物が揃っているという、街の中央区にある神殿──のような大図書館に向かうことにした。




 ◆◆◆




「はぁ〜。結局なんにも見つからなかったな」


 時間をかけて探してみたが駄目だった。

 まだ目星をつけている本は他にもあるので、あとは午後からにしよう。


 少し早めに昼食を取ろうと外に出た俺は、ふらふらと歩いていると、一軒の店の前を通りかかった。


「お、そうだ」


 最近人気だとリーナが話していたカフェだ。

 気になるし、昼はここにしてみよう。


「いらっしゃいませ。おひとり様ですね、こちらへどうぞ」


 店の中に入ると、チリンと鈴が鳴る。

 まだ少し早い時間帯だというのに、ほとんどの席が埋まっていた。

 椅子の背もたれに騎士団服をかけ、注文し届いた肉を挟んだパンと紅茶の想像以上の美味さに感動していると、店員が近くにやってきた。


「っ! 美味い……」

「申し訳ありません、お客様。相席をお願いしてもよろしいでしょうか」


 気がつくと、いつの間にか店内は満席になっている。


「ああ……構いませんよ」

「ありがとうございます! では、こちらへ。お相席ありがとうございます」


 ゆっくり寛ぐわけではなく、食事をしに来ただけなので構わない。

 店員に案内されて来たのは、まっすぐと背筋が伸びた女性だった。

 凛とした紫の瞳と美しい黒髪にハッとさせられ、俺が会釈するよりも先に彼女は口を開いた。


「感謝する。噂には聞いていたのだが、まさかこんなに客が多いとは思わなくてな」

「ですね。俺も初めてなんですけど、びっくりしました」

「ああ。では私も……ふぁ〜。す、すまないっ」

「いえ。お疲れですか?」

「実は今しがた王都に戻ってきたばかりなのだ。長らく遠くに行っていてな」

「なるほど。それはお疲れさまで──」


 眠たげに欠伸をした女性に声をかけ、会話を終わらせようとした時。

 近くに座っていた俺と同年代の少女が寄って来て、向かいに座る女性に話しかけた。


「あの、もしかして……アマンダ様、ですか?」

「ああ。そうだが……」

「きゃあっ、やっぱり! あたし大ファンで。あの、握手してもらってもいいですか!?」


 少女が飛び跳ね、手を差し出す。

 それに反応し、他の席からも幅広い年齢層の女性が握手を求めやってきた。


 有名な人、なんだろうか……?

 確かに俺も本当につい最近、アマなんとかという名前を聞いたことがあるような。

 どこでだったかな。


「はぁ。王都は王都で落ち着けないな」


 握手をし終えると、女性はため息をついて言った。

 疲れ気味の顔でそっと微笑んでくる。


「大変、ですね」

「すまないな、迷惑をかけてしまって。ここは私に持たせてくれ」

「いえ、そんな……」

「いいんだ。物腰が柔らかで、芯を感じる。貴殿のような立派な人物に出会えた礼だと思ってくれ」

「では……お言葉に甘えて。ありがとうございます」

「構わないさ。これでも一応それなりの余裕はあるからな。国に仕える第六騎士団の一員として忙しくしているのだから、これくらいはいいだろう」


 ……ん?

 表情が固まり、ゆっくりと聞き取った言葉を繰り返す。


「第六、騎士団……?」

「ああ、貴殿もこの国にいるのなら聞いたことくらいはあるだろう?」

「……いや、まあそれは」

「本当は、名ばかり馳せてはいるが、面倒な連中なのだがな。私の不在中に新たに団員を入れたと聞いて、帰ってくるのも億劫だったのだよ。まったく」


 女性──俺の同僚のアマンダさんはやれやれと呆れ気味に言った。

 そうだな。これは……どうしたものか。

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