第13話 予想外の来客からの真実
騎士になって初めての仕事を終え、俺は王都に帰還した。
「ん〜……よく寝たなぁ」
次の日。
とっくに物が減り綺麗になった部屋で目を覚ました俺は、騎士団服を羽織り、食堂で朝食を取ってから本部に向かうことにした。
「今日はあの紅玉について調べないとな」
昨日、報告作業はリーナが行ってくれたので、団長に紅玉についての話を聞けるタイミングがなかった。
結晶が体内に入ったことによって俺は様々な影響を受けている。
そうわかるため、当然気にせずにはいられない。
「あれ、ヴィンス。珍しいな」
「あぁ? なんだお前か。団長なら客と話してるぜ」
騎士団本部内にある、第六騎士団室。
事務所のようなそこに入ると、ソファでだらけているヴィンスの姿があった。
「客?」
「おう、なんか爺さんが来てな。俺も用事があったんだけどよ、全然部屋から出てきやしねえ」
「そうか……」
『団長室』と書かれた札が掛かっている扉の向こうから、時折笑い声が聞こえてくる。
「こりゃ、どれくらいかかるか分かんねえな」
「みたいだな。俺もここで待つか」
俺はヴィンスの向かいに周り、ソファに腰を下ろした。
来客が気になり、ふと気配を探ってみると──
「え」
「? どうしたんだよ」
「いや、なんでもない。そんな……まさかな」
思わず出てしまった声に、欠伸をしていたヴィンスが尋ねてくる。
首を振ってはみたが、時間が経つにつれて予想が確信に変わる。
来客の気配が──俺のよく知る人物と同じだったのだ。
「──っ!」
居ても立ってもいられず席を立つ。
「お、おい。待つんじゃなかったのかよ。そんなに急ぎの用なのかっ?」
ヴィンスが扉に向かう俺を追ってくる。
だが、返事をする余裕もない。
なぜならこの揺らぎ、落ち着いた独特の──
間違いない。俺はこの気配を世界で一人しか知らない。
もしも人違いだったらどれだけ謝っても足りないほど失礼な行動だが、勢いよく開けた扉の先にはやはり、俺が想像していた通りの人物がいた。
「……じいちゃん」
家を追い出された日のことを思い出す。
続く言葉を出せないでいると、団長が俺を見て微笑んだ。
「やあ、ちょうどいいところに来たね」
「テオル、お前も立派にやっておるようじゃの。話はジンから聞いとるぞ」
そして祖父も何事もなかったかのように普通に話しかけてくる。
「えーっと、これはどういう……」
「いやぁーびっくりしたよ。まさか君が家を追い出されてここに来てたなんて。こいつ、全くそんなこと言ってなかったからさ」
「はっはっ、まあ流れというやつじゃ。テオルがここに来ると知らせた後にゴルドーの馬鹿が『追い出す』と言い出しての。慌てて便乗したんじゃよ」
昔から掴み所がなかった祖父が、団長と揃うとこんなことになるのか。
混ぜるな危険だ。理解が追いつかないセリフが次々と出てくる。
「これであやつがテオルの才に気づいたとて、自分で勘当した手前、なかなか手出しはできんじゃろ」
「まあ何があっても、僕は優秀な団員を手放さないけどね」
「うむ、ジンになら安心して孫を任せられるわ」
「──ちょ、ちょっと待て待て! 一旦ストップ!」
ワッハッハ、と楽しそうに笑っている二人を止める。
「どうしたんだい?」
「気になることでもあったかの?」
「大ありだ! むしろ聞きたいことしかない!」
どれから訊けばいいのか整理がつかないくらいだ。
その前に、ヴィンスが部屋を覗き込んでいるので扉を閉じる。
「おま──」
「で! まず、二人の関係は?」
俺は席に座り問い詰めた。
「古い友人じゃよ」
「うん。かれこれもう……出会ってから四、五十年になるかな?」
「じゃな」
「いやいや流石にそれは。だって団長は…………えっ、ほ、本当ですか?」
冗談だと思い問いただそうとしたが、団長は真顔だった。
一切嘘をついている様子がないその瞳に動揺する。
「うん」
「えっ!? そんな……き、聞いてないですよ!?」
「それはそうだよ、聞かれてないんだもん」
明らかに俺よりも年下に見える外見なのに、この人は一体何歳なんだ……。
それに、じいちゃんと友人?
いや、それよりもまず初めにだ。
「俺は家を追い出されてから、自分の意思で騎士になろうと思ったんだ。それなのにどうして試験に来るって?」
最も納得いかないところを訊く。
俺は自分で思い立ち、騎士になるため試験を受けにやって来た。
そこで団長に見出されたのが偶然ではなく、先にじいちゃんから話が入っていたとしても──
「あ」
その時。
家を出た後のことを思い出し、ハッとした。
「くくくっ、思い当たる節があったかの?」
「俺、そういえば……試験の話、じいちゃんから聞いて」
「そうじゃよ。儂があらかじめ意識の底に刷り込んでおいたんじゃ。まあ元はといえば、お前さんが騎士に興味を持っておったからの」
「……え?」
「自分から決心する形で好きなことをさせてやりたいと思っていたんじゃよ。しかし先ほど言ったようにゴルドーのやつがの。そのせいで結局こうなってしまったわ」
「…………」
俺がこの国の騎士に興味を持っていたこと、知ってくれていたのか?
「いらんことをしていたとしたら申し訳ない、テオル。十分に話す時間もなく」
「いや。騎士が気になっていたのは本当だから問題ないけど、それにしても良かったのか? 家の仕事もあるのに」
暗殺一家ガーファルド家を創り上げたのは祖父だ。
そこから抜けてしまって良かったのだろうか。
ルドとルナにはまだ比較的簡単な任務しかこなせないだろうし、と現役の働き手の少なさを心配してしまう。
「なんじゃ、そんなこと構わんよ。我が一族に生まれたからといって嫌々やる仕事でもない。それに当主が愚かであれば、いずれ看板を下ろす時が来るというもの」
しかし祖父は、あっけらかんとそう言った。
そういえばこの人は仕事に関してはどこまでも実力主義で、そして冷たいのだったな。何せ超一流の暗殺者。その力量で家をここまで大きくしてきたのだ。
それからしばらく言葉を交わし、色々と話を聞いていると、
「──おっと、もうこんな時間じゃ。あまり長居しては次の用事に遅れる。とにかくじゃ、家を出てもお前さんが儂の孫であることに変わりはない。だから自由に、無理に辛い思いをせずに生きなさい」
祖父が席を立つ。
ニコニコと様子を見守っていた団長は俺の肩を叩き、じいちゃんに声をかけた。
「孫のことが恋しくなったらいつでも来なよ。歓迎するよ」
「おお、それは良いことを聞いた。最高の職場じゃな」
二人はにやりと口角を上げる。
「じいちゃん、ありがとう」
「いや、とにかく嫌われんくて良かった。テオルが家を出た後、ゴルドーに脅されたとか適当な理由をつけて弁解しようと思ったんじゃがな、お前さんの足が速くて追いつけんかったわ」
最後に苦笑する祖父は俺の耳元に顔を寄せ、
「
そう言い残し、第六騎士団室を後にした。
何か吹っ切れた気がした、いつもと変わらない午前のことだった。
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