第11話 VSドラゴン

「闇魔法・〈深淵剣〉」


 勢いのままに突撃してくる白竜を、俺は漆黒の剣で迎え撃つ。

 接触の瞬間、重低音が鳴り響き、衝撃は全て剣に吸収された。


血鬼神降剣けっきしんこうけん──邪凶吉王じゃきょうきつおう!」

「雷装──覇双剣術!」


 同時に俺の前へ出る影がふたつ。

 初めて見る鬼を降らせたリーナと、雷を纏ったヴィンスだ。


 二人はそれぞれドラゴンの背を叩くように剣を振り下ろす。

 激しい風と音。ドラゴンは地上に飛ばされたが、リーナ達の剣は当然のようにその硬い鱗に弾かれていた。


「ちっ、嘘だろ……こいつバカみてえに硬えぞ!?」


 ヴィンスが舌打ちをする。

 俺たちはドラゴンを追い、急いで土煙が漂う地上へ降りた。


「例のドラゴンよね……?」

「みたいだな。でも、まさかあっちから来るとは」

「いいじゃねえか。これであれこれ考えずに戦えるんだからよ」


 落下地点だった里の広場では、逃げ回るエルフ達の姿があった。

 俺たちが武器を構え警戒していると、ドスンドスンとドラゴンが姿を見せる。


『貴様ら、二匹ではなかったのか? ……まあ良い。全て滅ぼしてやるわい』


 すると、ドラゴンが人語で話しかけてきた。

 長い時間を生きる上位竜なら特別不思議なことではない。

 しかし──


「あなた、言葉を話せるのね!? じゃ、じゃあ聞きたいのだけど、どうして私たちを狙ってくるのかしら?」


 エルフの避難が終わっていないのを確認し、リーナが会話しようと試みる。


「あぁ? お前、そんなのどうでも──」

「そ、そうだな! 俺も戦う前に聞いておきたい。手を出さなければあなたは何もしてこないと聞いた。しかしどうしてだ。俺たちが魔物を倒したからか?」

「お前もかよ! だからそんなこた──」

「ヴィンス……っ。お前はとりあえず黙っとけっ」


 時間稼ぎしてるんだよ!

 察しの悪い鈍感に目でそう訴える。


「あァ? お前な……あっ。おーなるほどな」


 思いが伝わったのか伝わっていないのか。

 よく分からないがとにかくヴィンスが黙ったところで、ドラゴンは苛立たしげに口を開いた。


『何を言うかと思えば! 愚かにも程があるぞ、人間ども!! 貴様らが我の眠りを妨げ襲撃してきたのではないか! ひ弱な森の民ども諸共、ここで死ぬが良い』


 やばい、話題のチョイスが逆鱗に触れてしまったらしい。

 ドラゴンが聞き覚えのない言語で何かを呟く。

 その瞬間、地中から巨大なゴーレムが二体現れた。


「ま、待って! 私たちは魔結界を消すために──」

「もう無理だリーナ! 村人達が遠くに行くまで、最小範囲で抑え込むぞ!」

「なんか知らねえけどミスってんじゃねえかよ!?」


 過去に廃棄された物なのか、ゴーレム達は禍々しいオーラを発している。

 さらに森の奥からおびただしい数の死した魔物達が現れた。


「もっと出てきやがったぞ! テオル、あの光線出せねえのか!?」

「無理だ! もう魔力も少ないし、残りで作戦は立ててある。ドラゴンは俺が、二人はゴーレムの相手をしてくれ。他の魔物が厳しいかもしれないけど……」

「こうなったらもうやるしかないわよ! さあ早く、行くわよ!」


 全員が激しく一日戦ったあとだ。

 決して状態が良いとは言えないが、それでもやるしかない。

 俺たちが一斉に駆け出そうとしたその時。


「──騎士様! 我々も戦いますッ!!」


 背後に逃げたはずのエルフたちがいた。

 先頭に立つ村長以外も、ドラゴンに恐れを抱いている者がほとんどのようで、みな膝が震えている。


 しかし、その目には確かに宿る闘志。


「男手三百。里や家族を守るため、ご協力させていただきます!!」


 村長の言葉に覚悟を決めた表情で頷く男たち。

 ほとんどが弓だが、中には農具を持っている者の姿もあった。


「よっしゃ気に入った! お前たちは小さい魔物を相手してくれ! ドラゴンとゴーレムは俺たちに任せとけ」

「はい!」


 ヴィンスが不敵に笑う。


 そして、入り乱れるような戦闘が始まった。

 エルフが矢でグールを射抜き、リーナとヴィンスが巨大なゴーレムを引き付けてくれている。


「よし、俺もやるか」

『ふんっ、かなり自信があるようだな。確かに貴様からはそれなりの力を感じる。だがな、あまりに未熟よ!』

「それは──やってみないと分からないだろ?」


 刹那、俺の胴体に


「は?」

『ガッハッハ、だから言ったろう。我と対等に戦おうなんざ夢のまた夢。己の力を見誤ったこと、死して悔いるが良い』


 口から煙を出すドラゴンがそう言う。

 ブレスでやられたのか……?

 俺は力が抜け、膝から崩れ落ちる。


「嘘、だろ」


 そして。

 バタリと前に倒れ、気を失った。


 離れた場所にいたリーナとヴィンスが異変に気づき、戦いながらこちらを向く。


「ちょ、ちょっとテオル……? あんた、それ……っ」

「おい! どうしたんだよ……お前!」


 よほど気が高まったのか、ドラゴンは上を向き咆哮する。


『やってもやらんでも勝敗は決していたということ。我の言葉通りであったな!』


 その時──ドラゴンの前に大きな物体が落ちた。

 広場の中央で謎の物体は何やら音を立てている。


『なんだ、これは……。っ!? ま、まさか!?』


 ドラゴンの声がヒューと鳴る。

 何かに気づき、ドラゴンが自身の背に目を向けると──


 ──そこには、穴が空いていた。


 ドクンドクン、と物体は脈を打っている。


「──だから言っただろ? やってみないと分からないって」

『な、なぜだ……。貴様はそこで……っ!』


 影から現れた俺が耳元でそう囁いた瞬間。

 ドラゴンは倒れていた俺が消えていくのを確認し、ゆっくりと崩れ落ち、そして絶命した。


 同時に生み出されていた死した魔物たちが消滅し、戦いが終わる。


「ふう……手が血でベトベトだな」

「おいテオル! お、お前、いまのなんだよ!?」

「あっヴィンス……それにリーナも」


 強化した腕をドラゴンの体内に差し込み、心臓を抜き取ったので、血だらけになってしまった手をブンブンと振っていると、ヴィンス達が近くにやって来た。


「えらく動揺してたけど、リーナは知ってるだろ? さっきの技」

「……へ?」

「ほら、手合わせの時に使った。〈幻想演劇〉っていう闇魔法だ」

「……あぁっあの! てか、あんなことするなら最初っから言っときなさいよ! あの一瞬で私たちがやられてたらどうしたのよ!」

「そんなわけないだろ、二人なら。それに、あの自然な反応のおかげでドラゴンの不意を打てたんだ」

「そうは言っても……。まさかこんなに早く勝つだなんて思うわけないでしょ!?」


 ヴィンスがもっと技の説明を聞きたそうにしているが、今は後回しだ。


「まあ今はそんなことより村の人たちを……ん? なんだあれ?」


 怪我人の手助けをしようと思い辺りを見回していると、ドラゴンの心臓が小さくなっているのに気がついた。


 そしてそれはやがて、手のひらサイズの小さな紅玉になったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る