第10話 その頃ガーファルド家は②
テオル達がアンデッドゴブリンの元へ辿り着く前。
竜山付近には、任務にやって来たルドとルナの姿があった。
「畜生ッ、どうなってるんだ……!」
「ちょっとお兄ちゃん、これヤバくない? 聞いてたより全然厳しんだけど」
ドラゴンを討伐し、秘宝を持ち帰る。
簡単な任務だと思っていたが、予想外の困難に見舞われていた。
ようやく何もできないくせに祖父に気に入られていた
そう証明するつもりだった。
しかし、何故だ。
『──グラゥッ!』
岩陰に隠れていたルドとルナに、三体のグールが襲いかかってくる。
「ちょ、ちょっと! ねえどうすんの!?」
なんとかそれを躱すが、二人は今回の標的であるドラゴンの前に出てしまった。素早く位置を把握され、迫り来る凶牙。
必死の思いで回避するものの、ルナが傷を負ってしまった。
「……っ。もう撤退しよ!?」
「うるさいッ。このまま帰れるわけがないだろ!? 僕の言う通りに、お前はとにかくグールを倒せ!! 分かったか!?」
「ああ、もうっ!」
ルドたちはドラゴンと対峙し、百を超えるグールに囲まれている。
命令通りにルナは自身の魔弓を構えて矢を放った。
一体を倒すことはできたが、なにしろ数が多い。
前だけを意識していれば良かった今までとは違い、全方位から接近してくる敵に注意を向けていると、次第に手元が狂い出す。
「全然当たんないし!」
「どうしたらいいんだ。ターゲット以外に敵が多すぎる……!」
標的に接近する際の道選び。
避けては通れぬ敵の排除。
そして逃走ルートの確保。
もはや暗殺任務に相応しいものは何もない。
本人たちはいつも通りの気概で臨んだが、呆気なく巡回警備をしていたグールに見つかり、眠りについていたドラゴンが目を覚ました──そうして今に至る。
「くそッ。ルナ、とりあえず移動するぞ!」
「わかった! って、お兄ちゃ──」
「──? ……っ、しまっ」
現在いる場所を離れ、一度に相手をする敵の数を絞ろう。
ルドがそう考えた時だった。
妹の驚くような表情を見て、かなり距離を取ったはずのドラゴンが迫っていることに気がついたのは。
「ぐは……っ」
幸運にも咬み殺されることはなかったが、激しい体当たりをくらう。
全身の至る所で骨が砕ける音がした。
「げほっ……げほっ……」
咳き込むたびに口から溢れる血液。
消え入る意識の中、ルドはいつの間にか自分が妹に背負われていることに気がついた──
次に目を覚ました時、ルドは森の中にある洞窟にいた。
隣にはボロボロな状態の妹がいる。
「ここ、は……?」
「さっきの山から少し離れた場所。でも、いつ見つかるか分からないから静かにね」
「うっ……早くどこかで治療して、あのドラゴンを倒しに戻るぞ。次は絶対に失敗しない! もう、油断はしない! だから!」
「ちょっ、静かにしてって言ったよね!?」
ルナが体を起こそうとしているルドの口を慌てて押さえる。
「それに、状態が良くなったらドラゴンじゃなくて、まずは魔物を倒さないと」
「どうしてだ……?」
「ほら。あのドラゴンが魔物を大量に生み出してさ、魔結界を発生させて」
ルナが指さした洞窟の外を見る。
空が異様に暗かった。
「お兄ちゃんを背負って命からがら逃げてきたけど、マジで危なかったからね? 魔結界の範囲ギリギリまで行こうとしたら、あの崖のところにアンデッドゴブリンが大量にいるし」
「大量に? 何体くらいだ?」
「多分……四、五千? そう簡単には逃さないって感じだった」
「そう、か……」
ドラゴンを暗殺するにも、結界を消して逃げるにも。とにかく傷が癒え万全な状態になるのを待つしかない。
その間、自分たちを探すドラゴンの手先から隠れ続けなければならない。
「くそっ……! どうしてこんなことに……」
顔を手で覆い、ルドがぽつりと呟く。
いつもの調子なら失敗しなかったはずだ。
相手に察知されず、必殺の技を決められていたら成功していた。
だが、潜入中に見つかってしまった。
単に運が悪かったのか?
いや、テオルに教わったことを無視し、さらにこれからまだ多くの
しかしそうとは気づかず……。
人生で初めての任務の失敗。
未だ危機の中、これからどうなるのかと不安が胸を支配する。
「もう終わりだ。こんな愚かな失態、許されるはずがない……」
突如爆発音が轟き、大地が揺れ、魔結界が消えたのは十日後のことだった。
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