3話 一方について考える

「ところで、拓郎たくろう君とさとのことなんだけどね」

「ああ、あの2人な」


 俺の友達である磯部いそべ拓郎と雅の親友の宮司みやじ里のことを、彼女は話そうとしていた。

 高校時代、宮司は拓郎のことを想っているのは分かりやすかったのに、拓郎は馬鹿だから全く気付いていなかった。


「進展はあったのか?」

「それがね!」


 若干興奮している雅を見て、進展したのかなと勘づく。


「これは里から許可はもらっているから安心してね!」



 拓郎と宮司はちょくちょく会っていたそうだ。

 それでもアイツは気付くことはなく、それを雅とつばめさんに愚痴るという状況であった。

 そんなある日、2人でラーメンを食べに行った時の帰り道でのこと。


「拓郎さ」

「なんだよ?」

「あんた、好きな人できた?」

「いや、全く」

「彼女も?」

「そうだけど?どうしたんだよ急に」


 宮司は緊張する自分を落ち着かせる為に深呼吸をした。


「なんだよ、どうしたんだよ?」


 不思議そうにする拓郎は宮司のことを急かすように問う。

 もう1度深呼吸してから宮司はこう言った。


「私と付き合おう」

「あー、なるほどなー…」


 拓郎は言葉を区切って「はぁ!?」と大きな声を出した。


「なんで、なんでだよ!?」

「しーっ!バカ!」


 通りすがりの人たちの視線が痛く感じた宮司。


「いつからだよ、いつから?」

「本当に全然気付かなかったんだ」

「えー?」


 気まずそうにする拓郎に、宮司は溜め息1つ。


「高1の時からずっとだよ」

「そんな前から!?」

「だから静かに言って!」


 驚く拓郎の様子を宮司は呆れ果てる。


「本当に、誰もいないなら、私と付き合おうよ」


 改めて宮司は真剣な顔で拓郎に告げた。

 拓郎は頭をかいて、目を合わせないようにしている為、恥ずかしがっていることが伝わってきた。

 数十秒の間の後に、ようやく拓郎は言った。


「まあ、俺で良ければ…里のこと、可愛いと思っていたし」

「えっ…」

「こんなアホに付き合えんの、もしかしたらお前だけだろうし」


 照れながら拓郎は言った。

 そんな彼に、宮司は「ちゃんと言えし」と言って、でこぴんをした。

 すると、ちゃんとしようと思ったのか、拓郎は宮司の目を見て一言。


「付き合おう、よろしくな!」



「こうして2人は付き合うことになったんだって!」

「良かったな」


 やはり、あのバカにはちゃんと言わないと伝わらないことが分かった。

 でも、宮司の恋が実って良かった良かった。


「幸せが周りにあって、私も幸せだなぁ」

「そうだな」


 楽しそうに言う雅を見て、俺は君が笑顔でいてくれることに幸せを想う。


「さて、そろそろ出ようか」

「はーい」

「まだ時間あるならもう少しどうだ?」

「良いよ、まだまだ一緒にいよう!」


 会計を済ませて、喫茶店を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る