8話 支え合って歩んでいく

「ここどう解けば良いの?」

「これはねー」


 向かいに座っている私の彼氏の金戸かねと武蔵むさし君。

 図書館の個室に2人きりでいる。

 彼との出会いは高校1年生の時、生徒会の初顔合わせの時だった。

 その時から彼は堂々としていて、大学生と思ってしまうくらいに大人びていた。

 勉強は出来て、人をまとめるのが上手く、先頭に立つのに相応しい人だと思って見ていた。

 遠くで見ていて、事務的な会話、挨拶程度から、距離を縮めるきっかけが訪れた。

 文化祭の見回り当番で2人で校内を歩いていた時のこと。

 一通り見て回り終えた時だった。

 私たちは最終地点である屋上にいる。


森枝もりえださん」

「金戸君どうしたの?」


 一応、屋上に誰かいないか確認の為に見にきただけ。

 まさか、ここで今立ち止まるとは。

 ちょっと緊張してきた。


「突然だけど、その…」


 様子がおかしい。

 いつもの堂々とした彼はいない。

 なんだか頼りない、もじもじしている、弱々しい。

 1分、5分…。イライラしてきた。

 ハッキリと言ってよ。と言いそうになる。

 でも、何故か我慢していた私。

 自分でも分からない。

 待つこと7分が経過しそうになる時だった。


「好きな人か…彼氏は、いる…?」

「はぁ?」


 拍子抜けして、間抜けな声が出た。

 好きな人?彼氏?どういうこと?


「なんでそんなこと聞くの?」


 私は語気を強くして問う。


「そ、それはー…」


 またもじもじし出す。

 うぅ…む、無理…早く早く。

 と思っていると「ご、ごめん!」と金戸君は慌てて謝ってきた。


「なんで謝るの?!」

「怖い顔していたから」

「あっ…」


 あー、顔に出ちゃってたかー。

 私は恥ずかしくなって俯いて。


「ごめん…なさい…」


 素直に謝った。


「いや、僕こそ」

「ううん、追い詰めたのは私だから」

「いやいや、僕が悪いんだ。ハッキリと言わないから」


 分かってるじゃない!と思って、口には出さない。

 金戸君は大きく息を吸ってはき出した。


「…森枝さんのことを、知りたいんだ」

「えっ」


 真剣な顔で金戸君は私の目を見て言った。

 私はポカンとしている。

 そんな素振り、見せていなかったじゃん。

 いつから、きっかけは一体ー…。

 戸惑い、ちょっと混乱する。


「ダメ、かな?」


 言葉に詰まりそうな所を、深呼吸で落ち着かせた。


「そんなことは、ない、よ…?」


 こうして私と金戸君は連絡先を交換して、友達から始まった。

 ただの生徒会仲間から、一歩進んだ。

 そこから、互いに知るようになって、彼からの告白は2年生に上がって同じクラスになって直ぐの頃。

 こうして恋人になった。

 同じクラスになってから初めて知ったのは、彼は運動音痴ということ。

 唯一の弱点を知ったことだった。

 でも、嫌いにはならない。

 ますます私は彼の出来ないことは全てやると決めて、支えることを選んだ。

 選挙で彼は会長、私は副会長に立候補して、無事に当選して喜び合った。

 懐かしいなぁー、なんて思ってニヤけていると。


「どうした、嬉しそうな顔して?」

「ふふっ、ちょっとね」

「気になる」

「言わなーい」

「意地悪だなぁ」

「えへへ」


 優しい彼で良かったな、私は幸せ者だ。

 これからも彼が堂々と胸を張って歩けるように、私は献身的に支えるんだ。



 森枝 杏子きょうこについていくのは大変。

 でも、僕は強くてカッコいい背中の彼女が大好きだ。

 だから、僕は優しく接する。

 甘えてきたらとことん甘やかす。

 見えない所で努力している姿を見てきたから、僕は杏子に惚れたのだ。

 互いに支え合って、歩んでいければ良いなと願って、今日も彼女と一緒に過ごす。


「あっ、のぞむぅからだ!」

「ついに来たか」


 三瓶君からの電話で、現場に駆け付けることになった。

 まさか僕はしんどくなる状況になることは全く予想出来ていない。

 杏子の身体能力についていけない僕は情けない。


「私、先に行くからゆっくりで良いからね?」

「いや、頑張るよ」

「無理しないの!絶対に歩いて来てね!」

「えっ、き、杏子!?」


 図書館から出た瞬間からダッシュで駆け出した杏子。

 僕も慌てて走ったが、全く追い付かず、スピードは一気に落ち、ぜえぜえと息を切らしながら歩いていた。

 体力つけようー…。

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