第85話

 2月に入り、今日はソワソワしていた。

 平日に当たると、余計になる。

 休日ならまだ落ち着いていられるのに。

「はい、どうぞ!」

宮司みやじ、良いのか?」

「うん、義理だし。さっき購買で買った」

「あー、だろうな」

「ザックチョコボだよ」

「あざーす」

 ザクザク食感の大きめの丸いチョコ、それがザックチョコボ。

 1袋120円。美味いから良し。

 てなわけで、バレンタインだ。

 挑夢のぞむはどんな感じかなとメッセージで聞いてみると、こう返ってきた。


『大きめの袋、1つ出来たよ~♪去年より多くなりそう!』


 身長は伸びて、体重は減って、見た目が可愛いからイケメンになったからなぁ…。

 でも、貰って良いのか?

 そこも聞いてみると。


『許可は貰ってるけど、条件として手作りは受け取るなって言われたから守ってるよ♪』


 なるほどな。

 それでも、器がデカイ。お見逸れ致しました。

拓郎たくろう、はいこれ」

「んおっ?チョコか!良いのか?」

「良いよ!」

「さんきゅー!」

 拓郎、良かったな。

 一緒に登校してる時に「チョコ貰えなかったら」とか心配していたからな。

「口に合うと良いけど」

 不安そうな宮司の心を拓郎はこう言った。

さとが作るやつ、美味いだろう!」

 歯を見せてニッと笑った拓郎。

 それに宮司は頬を赤らめて「ありがとう」と言ってそっぽを向いた。

 仲良いなぁー。

 隣を見る。

 黙々と勉強してる琴坂ことさか

 予兆が全くない。

 うーん…我慢して待ちましょう。



 放課後のこと。

 委員会が終わって教室に戻る。

 誰もいない。

 平穏ないつもの日常を過ごしたなぁ。

 机の中から教科書ノートを鞄に入れる。

 すっからかんの机の中を見ても、なんにもない。

 ロッカーも見たが、なんにもなかった。

 俺、バカだな。

 諦めたんで、鞄を持って教室を出た。

 下駄箱にも何にもない。

 溜め息を吐いた。


 校門に差し掛かると、人影が。

「「あっ」」

「琴坂…」

「待ってた」

 マジかよ。

「寒かったろ?」

「大丈夫、ホッカイロと手袋にマフラーなどでフル装備!」

 なんてこった。

「帰るか」

「うん!」

 早く帰さんとな。

 フル装備とはいえ、寒いものは寒いからな。

 他愛ない会話をして歩く。

 こんな時間もー…どうなることやら。

 そんなこんなで、琴坂の家に着いた。

「んじゃ、またな」

 未練なく帰ろうと思っていたら「雅虎まさとら君」と、琴坂は鞄から赤いリボンの付いた青のチェック柄の包み紙でラッピングされた箱を出した。

「ずっとソワソワしていたね?」

 ギクッ…バレてた。

「人前だと嫌だし、恥ずかしいから、このタイミングになっちゃった」

 俺も恥ずかしいんで、助かります。

「どうぞ」

「ありがとう」

 箱を受け取り、じっと見た。

 手作りー…だよな?

 これは、本命ー…だよな?

 固まっていると琴坂はクスッと笑う。

「本命だから、安心して」

 心、読まれてるー!恥ずかしいー!

「じゃあまた明日♪」

「また明日」

 琴坂が家に入った所を見届けた。

 よし、急いで帰って、チョコ食べよう。

 ザックチョコボは、宮司すまん、幸虎ゆきとらにあげることにした。

 幸虎、ザックチョコボに凄く喜んでくれたんで良かった。

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