第84話

「も~い~くつね~る~と~♪」

「お正月」

「歌ってよー!」

 幸虎ゆきとらが楽しそうに歌っている所を邪魔したら怒られた。

 大晦日である。

「兄ちゃん兄ちゃん!」

「なんだ?」

「明日の元日、どう過ごすの?」

 あー、どうしようかなー。

「決めてないや」

 予定は全くないのだ。

「じゃあさ、みやびちゃんと僕と兄ちゃんで出掛けようよ!」

 何を言ってんだ。

「無理だね」

「えー!」

「いきなりはダメだぞ」

「聞いてよー!」

 それから幸虎はしつこく「聞いて聞いて」とうるさいため、メッセージを送った。

 数分後、返事がきた。

『良いよ!時間と場所決めよう!』

 まさかの快諾。

「幸虎、明日良いってさ」

「本当に!?わぁーい!」

 喜んでもらえて良かった。

 明日から新年か。早いなぁ…。



 いきなりのお誘いに驚いた。

 幸虎君がうるさいって、ふふっ。

 本当に仲の良い兄弟だなぁ。

「可愛い」

 呟いた。

 どんな服を着ていこうかな。

 選ぶのって楽しいんだよね。

 次の日になったら、変更したりして。

 天気も良いし、お出掛け日和だね。



「悪かったな」

「ううん、大丈夫」

 寝ている幸虎をおぶる俺。

 隣にいる琴坂ことさかのペースに合わせて歩く。

 日中、ショッピングモール内をぐるぐる見て回り、屋台も見て回って景品やらおまけやらを貰い。

 たくさん遊んだからか、眠くなってしまい、おぶることとなった。

 今は帰りである。

「楽しかったね♪」

「そうだな」

 幸虎が親と一緒にいてくれたら、もっと楽しかったんだが…まあいいか。

「幸虎君、本当に可愛いなぁ」

 琴坂は幸虎の顔を見ながら言った。

「私にはお兄ちゃんしかいないから、弟妹に憧れあるんだ」

「そうなんだ。元気ありすぎて大変だぞ」

「ふふふ」

 たいしたことない会話が続いた所で。

「勉強、大詰めだよな」

「そうだね…緊張してる」

 時間ないってのに、付き合わして悪いな。

「ごめんな、貴重な時間をさ」

「大丈夫。息抜きに良かったよ」

 そう言ってもらえて助かる。

「それにね」

 琴坂は立ち止まった。

 俺も止まる。


雅虎まさとら君との時間、大切だから」


 彼女は俺の目を見て言った。

 不意討ちは良くない。

 ドキドキしてきた。

 というより、バクバクしてる。

 幸虎、起きるなよ。

 起きてても寝た振りしろよ。

「ありがとう」

「えへへ♪」

 こうした時間もあっという間になくなるんだ。

 “大人”って、そうなのかな。

 時間を作っていく、上手く時間を使う。

 これも“大人”なんだよな。

「幸虎君いるのに、送ってくれてありがとう」

「いえいえ」

 送りたかったんだ。

 時間を有効に使いたいからな。

「受験、頑張れよ」

「うん、ありがとう!」

 琴坂は「またね!」と言って家の中に入って行った。


「さて、と」

 ゆっくりと家に向かって歩いた。

 家まで半分の所で幸虎は起きたのでおろし、手を繋いで帰った。

 幸虎、ありがとな。

 それにしても、兄ちゃんは疲れたよ。



 雅ちゃんと兄ちゃんが楽しそうに話している時に目が覚めていた。

 でも、起きちゃいけない気がして、寝てる振りをしていたのは、秘密だよ。

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