小話 その11

 眠れない。

 横になるだけで、体は休まるとはいえ、頭が冴えていると、本当に体は休んでいるのか疑問に思う。

 部屋を出てリビングに行った。

 珍しい、誰もいない。

 僕は食器棚からみさきちゃんのマグカップを出す。

 飲み物は特に。

 眺めたいだけだから。

 ソファに座って、マグカップに描かれている岬ちゃんを見る。

 君は素敵な微笑みと満面の笑顔で、僕を、岬ちゃんファンを、メロメロにしていく。

 そして、今日のことを思い出す。


『助けに行ったの!?』

『うん』

『その子にとっては少女漫画の主人公になった気分じゃないかな』

『どうだろう』

『どうしたの?なんだか素っ気ないよ?』

『岬ちゃん…ごめんなさい』

『なんで謝るの?』

『岬ちゃんがいるのに、その子をお姫様抱っこしてしまったから』

『わぁー!凄いじゃん!』

『えっ?』

『気にしないよ!だってその子を大事に出来るってことは、私のことも大事に出来るでしょ?』

『岬ちゃん…』

『2次元では私が1番、現実では私は1番にはなれないから』

『そんなこと!』

『あとで、きっと分かるよ』

 

「岬ちゃん…」

 現実世界に引き戻された。

「現実では、1番にはなれない…か…」

 そうなのか?

 岬ちゃんを1番に、考えていたけれど…。

 他に、1番が、自分の中に生まれたのか?

 それは一体…。


 考え過ぎたら、頭が疲れたのか、眠気がきて、ソファの前にあるテーブルにマグカップを置く。

 そして、ソファの上で横になると、そのまま眠ってしまった。

 次の日、目が覚めると「おはよう」と母さんが台所から声をかけた。

 毛布…そうか、寝てしまったのか。

 僕は起き上がり、毛布を畳んでソファに置いた。

 部屋に戻って、着替えを始める。

 今日も学校だから。



「おっはー聡希さとき!」

「おっす」

 今日も変わらず絢子あやこみなとがいた。

 でもー…。

「みおなん、今日と明日、学校休むんだって」

 そうなんだ…。

「なんか、ガッカリしたね?」

 ニヤッと笑う絢子。

「別に」

「強がんなってー!」

 バシバシと背中を叩かれた。痛い。

「まっ、無事なんだし、気にすんなって」

 湊まで面白がってない?


 はぁ…今日明日は、からかわれそうだ。

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