第72話

 絢子あやこちゃんは直ぐに動いた。

 みんなに「みおなんの事は秘密にして、呼ぶ時はミオンって呼ぶこと!」と伝えた。

 最後に「みおなんを探している連中がいるから、絶対に秘密だからね!」と念を押した。

 すると、みんなで教室にいないクラスメイトにメッセージやら電話やらで、周知徹底させた。

「絢子ちゃん、ありがとう」

「良いってことよ!」

 ニッと笑った絢子ちゃん。

 頼もしいです。

「おい、大丈夫か?」

 昼休憩でいなかったみなと君と小祝こいわい君が戻って来た。

 息を切らしている…走って来たんだ。

「迷惑かけてごめん…」

「大丈夫だって。な、聡希さとき?」

 小祝君は頷いた。

「いつの間に呼び捨て!」

 絢子ちゃんのセンサーが反応する。

「まあな」

 ふんと鼻を鳴らして自慢気な湊君。

「なら、私も良い?」

 小祝君はこくこくと首を縦に振る。良いようだ。

「みおなんも下の方で呼んだら?」

 うーん…良いのかな…?

「良い…かな?」

 恐る恐る聞いてみた。

 すると小祝君は「良いよ」と一言。

「ありがとう…聡希君」

 分かりずらいけど、優しい人なのかも。

「私の時は頷いて、みおなんの時は返答するとか有り得ない!」

「別に…」

「むぅー!」

 絢子ちゃん、怒っちゃった。

 ふふ、可愛い。

「やっと笑顔になった!」

 絢子ちゃん…。

「乗り切るよ!」

「うん!」

 みんながいる、大丈夫…!



 お菓子に夢中な3人娘がようやく周りを知ってから、現状を伝えた。

「アイツらね」

 宮司みやじは睨み付けている、怖い。

 隣の琴坂ことさかは不安な表情だ。

 つばめさんは余裕に満ちている。

 まるで、何が起こっても大丈夫、と言わんばかりに。

 どっしりと構えてんな。

「すいませーん」

 男子が手をあげて店員を呼んだ。

「どうされましたか?」

 さっきの女子生徒だ。

「ここに、弓削ゆげさんがいると聞いて来たんですけど」

「そういった人はいませんが…?」

「えー、おかしいなー」

 首を傾げたそいつは、おもむろにスマホを出して、電話を始めた。

「あっつとむ、ちょっとさ…」

 と言って、教室を出て行った。

「つとむって?」

 挑夢はスマホをテーブルの真ん中に置いて指さした。

「この人」

「「「「「えっ」」」」」

 プロフィールを見るとー…。

「同じ中学…って」

 宮司は焦る。

「この人が、あの人達と繋がっていて」

 琴坂も状況を読めていた。

「居場所を教えてたってことね」

 深刻な顔でつばめさんは腕組み。

「どうすんだよ?」

 拓郎たくろうの言う通り。

「まず、様子を見よう?それからだよ~」

 お菓子に酔いしれる挑夢。

 きっと、俺達3年生が間に入ればごちゃごちゃするのを、挑夢は分かっていて、やんわりと止めているのだろう。

 電話から戻ってきた男子の後ろには、先程スマホで見たつとむという男子がいた。

「なぁ?」

 つとむは圧を全面に出す。

「は、はい?」

 会計の所にいた気弱な男子が、つとむに声をかけられて、ビビっている。

「嘘ついてんなよ」

 気弱な男子は俯いてしまった。

 これじゃあバレるじゃないか。

「どこにいんの?弓削は?」

 怖いから言いたい。でも、クラスメイトを裏切りたくはない。

 葛藤しているのが伝わる。

 誰か助けてやれよ。

 と思っていると、バックから男子が出てきて会計にいる気弱な男子の所に。


「変わる時間だけど」

「こ、小祝…」


 気弱な男子は小祝を見て安心した表情になった。

「あとは、お願い」

「うん」

 小祝は彼が座っていた椅子に腰かけた。

 気弱な男子はバックに下がった。

「あのさ、弓削は?」

 小祝に話しかけるつとむ。

「…さあ」

 文庫本をポケットから出して読み始めた。

「しらばっくれんな」

「…」

 動じない小祝。

「無視してんじゃねーよ!」

 会計の所にあるテーブルをつとむは足で蹴った。

「…」

 それでも、動じない小祝。

 ヤバい、ある意味最強かも。

 息を飲む3人娘。

「凄くない?小祝君」

 と宮司。

「凄いよ、うん」

 と琴坂。

「凄すぎて、語彙力が」

 とつばめさん。

「本領発揮だね~」

 意味深なことを言う挑夢。

「挑夢、なんか知ってんの?」

 拓郎は挑夢に質問した。

「まあまあ」

 ニヤニヤしてる挑夢。

 こうなると、もう俺は挑夢に任せるしかなくなる。

 余計なことをするよりも、挑夢に聞いた方が上手くいくから。

「落ち着けって功」

「だって…」

 今度はつとむの隣にいた男子が動いた。

「本当に知らないの?」

 優しく聞いてきている。気持ち悪い。

「そうだけど」

 本に集中して、相手の顔は見ない。

「バックにも?」

「うん」

 口を割らない小祝。賢者に見えてきた。

「君さ」

 イラついているその男子は、いきなり小祝の胸ぐらを掴んだ。

 その時に持っていた文庫本は落ちてしまった。

「嘘言ってどうすんの?」

 ここで、喧嘩は、良くない。

 他生徒や一般の人達は心配そうに見ている。


「はぁ…」


 誰もが聞こえた小祝の大きな溜め息。

 直ぐに鋭い眼力で相手を睨む小祝。


「この手を…離せ」


 相手は怯んだか、手をバッと離した。

 直ぐに制服を整えて、落ちた文庫本を拾う。

 そして相手の顔を目を見て。


「迷惑。周りを見れ」


 ハッキリと言った。


 そいつと、つとむ、座っていた他の仲間達が周りを見た。

 いたたまれなくなったのか、テーブルにいた仲間達は荷物を持って、教室を出た。

 つとむも舌打ちをして出ていき、最後に残った男子は「釣りはいらない」と言ってお金を置いて出て行った。

 小祝は彼らがいたテーブルにあった伝票を確認。

 黙って会計の所に戻って処理。

 何事もなかったかのように、小祝は椅子に座って読書を再開させた。

 教室の空気は一気に緩んだ。

 安心できる空間に戻ったのだ。

「すごっ!」

 宮司はそう言って拍手をした。

 すると、教室にいた全ての人達が拍手をしたのだった。

 それでも小祝は平然としていた。

 しかし、前髪で表情は分からなかったが、少しだけ頬を赤くしていたのは見えた。

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