第71話

 文化祭が始まり、グルッと見て回った。

 絢子あやこのクラスに午後3時に集合で、ペアで散らばった。

 ペアの内訳は分かってるだろうが。

 俺と琴坂ことさか拓郎たくろう宮司みやじ挑夢のぞむとつばめさんである。

「どこのクラスも気合い十分だな」

「そうだね」

 俺と琴坂は古本を扱う教室に来ていた。

「たくさんあるねー!」

 目をキラキラさせて本をじっくり見る琴坂。

「どれが良いかなぁ~?」

 楽しそうだ。

 琴坂はしばらく選んでいると、1冊本を手にした。

「これ…良いかも…」

 可愛らしいクマとウサギと人間の子供が描かれた表紙で、厚さはさほどない。

「うん、これにしよっと♪」

 決まった本を見計らい、俺は琴坂からその本をひょいっと持った。

「えっ?」

「待ってろ」

 会計の所に行って済ませた。

「はい、どうぞ」

 琴坂に本を渡した。

「い、いいの…?」

 申し訳なさそうな顔をする琴坂。

「プレゼント、な?」

 良いに決まってんだろう。

「ありがとう、雅虎まさとら君!」

 大事そうに本を持つ琴坂。

 そんな仕草も可愛く見えて仕方がない。

「あっ、そろそろ集合場所に行こう」

「本当だ」

 おやつの時間まであと5分。

 絢子のいるクラスに向かうことにした。



 全員集合し、お菓子パーティーが始まった。

 挑夢との約束で、結局みんなにお菓子を買ってやった。

 と言っても、拓郎は遅刻したから、宮司が「雅虎君と磯辺君で、よろしく!」と。

 つまり、俺と拓郎で折半して買った。

「お小遣いが…」

「遅刻したヤツが悪い」

 どんまい拓郎。

 テーブルにあるお菓子達は、可愛らしかった。

 様々な味や形のクッキーに、キャンディー、マカロン、和菓子なんかもあった。

 他にも、カップケーキなんかもあった。

 飲み物は、お菓子に合う紅茶、ミルクティー、レモンティー、ココアから選べる。

 女子3人はスマホで写真撮影会をしながらお菓子を食べていた。

「好きだな写真」

「俺には分からんなー」

「僕は分かるよ♪」

 挑夢も写真撮ってからお菓子を食べている。

 甘党だからか、イマドキ男子だからなのか。

 美味しく食べていると、あまり見ない制服を着た男女4人がやって来た。

 誰かを探しているのか、キョロキョロしている。

 ん?キョロキョロ…?

 まさか…!

「おい、挑夢挑夢」

「なぁに~?」

 ヤバい、すっかりお菓子に夢中だ。

「アイツらって…」

「ん~?おぉ…」

 挑夢は彼らを見てピンときたようだ。

 すると「すいませ~ん」と挑夢は店員を呼んだ。

「どうされましたか?」

 ヘンゼル風の衣装に身を包む女子が対応してくれるようだ。

「あのね?」

 挑夢はその女子にスマホ画面を見せた。

「…読んだ?」

「はい」

「んじゃ、お願い」

「かしこまりました」

 その女子はバックに下がった。

「さて、どうするかな~」

 また面白がってんな。

「手加減しろよ」

「ここは瀬戸せと君か小祝こいわい君が助けるパターンじゃなきゃ」

 てことはー…。

「動くなと」

「そゆこと♪」

 ウィンクで言うなし。

 本当にそれで良いのか?疑問だ。

 何か起こった場合、動くとしよう。



「えっ?」

 3年生の先輩からの伝言なんだけど、とクラスの女子が教えてくれた。

 私はバックからカーテンを少しだけ開けて、教室を見回すと…。

「…!?」

 い…いた…。

 前の学校の人達だ…。

 直ぐにカーテンを閉めた。

 私はその場に座り込む。

 呼吸は荒くなる。

 動転しているのが分かる。

 身体が悲鳴をあげている、助けて、と。

「みおなん!」

 お手洗いに行っていた絢子ちゃんが戻って来た。

「どうしたの!?」

「あ…あや、こ…ちゃ…ん…」

 絢子ちゃんに泣きついた。

 早く、早く、帰ってー…。

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