第70話

 幼稚園に入ってから同年代の子と接するようになってからも、僕は他人に興味を示さなかった。

 小学生になってから、さらに人数が増えても、やはり興味を示さなかった。

 僕は人に興味を示さない分、小説や漫画、アニメの世界に没頭していて、彼らからたくさんの事を学んでいた。

 それで、満足していた。

 周りが恋や性に目覚めているのに、僕は変わらずみんなとは違うことに心踊らせ、ときめいていた。

 高校生になっても変わらない。

 そんな時、斜め後ろの席の女子に言われた。


『話しかけられたら、ちゃんとその人を見た方が良いよ』


 衝撃を受けた。

 初めて、注意をされた。

 初めて、怒られた。

 心が動いた、気がした。

 それからは、隣の森枝もりえださんと、僕の後ろの瀬戸せと君と、僕に衝撃を与えた斜め後ろの弓削ゆげさんと、いつの間にか一緒に行動をしていた。

 うるさいけど、うるさくない。

 そんな彼らの世界に、今日も僕は身を委ねる。



 文化祭当日。

 学校開放前に、空き教室で宮司みやじ琴坂ことさかが弓削さんに魔法を施していた。

 それを廊下で待つ俺と挑夢のぞむと瀬戸と小祝こいわい

 拓郎たくろうは寝坊した為、向かっている最中である。

「どんな魔法かな~?」

 今日もニコニコの挑夢。

「さあな」

 知らんよ、んなこと。

「兄さん、誰かこっちに向かってますね」

 瀬戸が指さした方を見ると、おっ。

「挑夢」

 隣の挑夢に肘でつついて教えた。

「ん~?あっ!」

 呼ぶ前に、挑夢は迎えに行った。

「つばめさん、ですか?」

「多分な」

 俺はこれで確信した。

 挑夢の好きな人は、つばめさんだ。

 間違いない。

「恋…ですか」

 ボソッと呟いた小祝。

 言葉に感情はないが、顔にはちょっとだけ温かみがあった。

 よく見たら、小祝の感情が分かるようになってきた。

「小祝、お前さ」

「何でしょう?」

 小祝は俺の方を見た。

「よく見たら、分かりやすいな」

 すると目をまん丸にして、からの、無表情に戻り。

「そんなことないです」

 俯いた。

 感情を隠すかのように。

 面白いやつだな。

 そんな会話をしていると、挑夢が戻って来た。

 隣には、やっぱりそうだ。

「おはよう、つばめさん」

「やぁ!雅虎まさとら君!」

 いつもと雰囲気が違っていた。

 スカートなんて珍しいな。

「てか、何で入れたんですか?」

 まだ開放前なのに。

「渡し物がありましてーって言ったら通してくれた」

 大きな紙袋を見せてきた。

 うちの学校、ゆるっ!

「でも、本当だからね!みぃ達どこ?」

「ここ」

「んじゃまた!」

 つばめさんは空き教室に入って行った。

 何を持ってきたのやら。



「お待たせー!入って入って!」

 宮司がドアを開けて顔だけ出して、俺達を呼んだ。

 なんとなく「お邪魔しまーす」と言ってから入ると。

「「「おぉ…」」」

 声が漏れた俺と挑夢と瀬戸。

「…」

 小祝は…分からん。

 が、停止はしているということは、驚いているんだろう。

 弓削さんは、魔法にかかった。

 青のカラーコンタクト、金髪のウィッグを使って。

「1番グレーテルっぽくない?」

 宮司はニッと笑って、自信に満ちた顔になっていた。

「横に並ぶの嫌かも!」

「絢子ちゃんいないと、私、死んじゃうから!」

「みおなん、ありがとう!」

 仲良しだこと。

「あとは、女優になってよ!」

「は、はい!」

 女優?なんじゃそりゃ。

「教室に悪いやつらが来ても動じないこと」

 弓削さんは頷く。

「得意なで乗り切りなさい」

 ん?えっ?

「英語、ペラペラなのか?」

「小さい頃から、教室に通ってまして…」

 なるほどな。

「絶対、目は泳いじゃダメ!バレるから!」

 力強く頷く弓削さん。

「んじゃ、教室戻るんで!先輩達、時間来たら来て下さーい♪」

「ありがとうございました!」

 絢子と弓削さんは教室に戻って行った。

「兄さん達、また」

 瀬戸も2人の後を追う。

 小祝はペコッと頭を下げてから行った。

「心配だなぁ…」

 と琴坂。

「ちゃんと言うこと聞いたら大丈夫大丈夫」

 と宮司。

「見違えたね~」

 と挑夢。

「あんなグレーテルちゃん…ドキドキ」

 とつばめさん。

 無事に楽しくなれば良いが。

 と、ドアが開いた。

「寝坊したー!」

 拓郎、到着。

「バカー!」

 宮司が拓郎の頭を叩く。

「いってぇ!さと!」

「遅刻の、寝坊の罰」

「ううっ…」

 叩かれた頭を押さえる拓郎であった。

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