小話 その9

 懐かしの音楽を流しながら、私はパソコンと向き合う。

 キーボードをカタカタと文字を打ち込む。

 ピアノとはまた違って、楽しい。

「ここまでかな…」

 保存して閉じた。

 普通にみやびと同じ高校に行こうとしたけれど、私は夢をとって通信制にした。

 親に伝えた時、特に怒ることなく「好きにしたら良い」と、言ってくれた。

 そして、誕生日の日に「これを使いなさい」と、今使っているノートパソコンをプレゼントしてくれた。

 まだまだ土俵すら立ってはいないけど、中学の時よりも、最終選考に残る事が多くなっていた。

 あと1歩なのだ。

 何かが、足りない。

 それを掴めば、きっと…。

 そんなことを考えていると、スマホが振動していた。

 開いて見ると、のんちゃんからだ。

 時間を見て、もう21時。

 いつもの時間だ。

「ふふ♪」

 のんちゃんと知り合って、もう1年なんだね。

 たくさん話したなぁ。

 みぃ達とのこと、趣味のこと、パソコンが不調になった時には相談もして。

 ずっと話していたいって思える。

 おやすみ、て言葉が出ると寂しくなる。

 またね、て言葉を交わすけど、やっぱり、うん。

 思考がふわふわしてきた所で。

「あれ?」

 のんちゃんが写真を送ってきた。

 見てみると。


「…えええええ!?」


 ハッ…!

 口を手で抑えた。

 こんな夜に、お腹の底から声を出してしまった。

 ガタン!と部屋の戸が開いた。

 お母さんが心配して見に来たようだ。

「どうしたの!?」

 お母さんの顔は心配の色に染まっている。

「あっ…ごめんなさい…大丈夫だから」

 苦笑しながら伝えた。

「びっくりするから、静かにね」

「はい」

 お母さんは静かに戸を閉めて、部屋に戻って行った。

 気を取り直して、もう一度。

 雅虎まさとら君と磯辺いそべ君とのんちゃんの3人の写真。

 撮ったのは、みぃかさとだろう。

 驚いた…。

 のんちゃんが…のんちゃんが…。

「こんなに、カッコ良かったの!?」

 一体、何が?


『のんちゃん、痩せた?』

『そうだよ』

『心境の変化、とか?』

『そんなとこだね』


 どうして?

 も、ももももしかして…。

 同じ学校に好きな子が?

 そうであっても、おかしくはない。


『なんか、身長も高くない?』

『なんか、また伸びててね』


 身長伸びるのは、個人差があるとはいえ、のんちゃんにとっての身長の伸びは、ラストスパートだろうな。

 どのくらい、伸びるのかな?

 次に会うことになれば、見上げる感じかな?

 だとしたら、もう少し考えないと。

 可愛く見られるようにしないと。


 この後は、趣味の話で盛り上がった。

 最後には『おやすみ、またね』と交わして、やり取りは終わった。

 この寂しい感じで寝るのが、好きじゃない。

 でも、気付いたら朝だから、身体は眠気には勝てないようだ。

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