第66話

 2学期がやって来た。


 変化があった。


「おはようございます、兄さん」

「おはよう」

 て、おい。

 登校していると、後ろから瀬戸せとが挨拶してきた。

 あの海以来、会ってはいなかったから、元気そうでなにより。

 そう思っていたのは一瞬にして飛ぶ。

「腰パン…止めたんか?」

「はい、きっぱり」

「すんげー、良いぞ」

「あざっす」

 心境変わりすぎ。

絢子あやこ弓削ゆげさんに、なんか言われたのか?」

 瀬戸は一瞬眉間にシワが寄ったが、直ぐなくなった。

 言葉を濁すように。

「まぁ…そんなとこっす」

 ふーん。

 詳細は聞かない方が良さそうだ。

「んじゃな」

「はい」

 玄関前で別れた。


 教室に近付くと、隣のクラスがなにやら騒がしかった。

 すると、そのクラスの女子数人が俺を見るや、その子達に囲まれた。

「えっ、なに?」

 初めてなんですが、女子に囲まれんの。


挑夢のぞむ君、どうしたの?」


 は?


「何が?」

 聞き直すと、半ギレで返ってきた。


「可愛い挑夢君が、イケメンになってんだけど、どういうことなの!?」


 はぁ!?


 俺は女子集団から抜け出し、挑夢のいる教室を覗く。


「えっ、…何で…!?」

「あっ、雅虎まさとら~」

 本人はいたって普通だ。

「挑夢、昼、一緒に良いか?」

「りょうか~い」

 ニコニコしている。

 面影はあるし、声も喋り方もあのまんま。

 ただ、見た目が変わっただけ。

 一体、何があったんだ?


「雅虎ー!」

拓郎たくろう、おっす」

 磯辺いそべ改め拓郎と挨拶を交わす。

「挑夢のやつ、ダイエットしたんかな?」

「見てびっくりしたよ」

 心臓に悪い…。

「あっ、おっはー♪」

「おう」

 相変わらずの宮司みやじ

「あっ、雅虎君おはよう!」

琴坂ことさか、おは…」

 目をパチパチ、瞬きをした。

「雅虎君、みやびのイメチェン、ヤバいでしょ!」

 そりゃあな。

 俺は1つ1つ確認するように質問した。

 その都度、琴坂は答えてくれた。

「眼鏡、は?」

「コンタクトに完全移行。でも、眼鏡持ち歩いてるよ」

「制服、もしかして直した?」

「うん、直した」

 クラっときて、椅子に座り込む。

 俺しか知らない琴坂が、みんなにバレるではないか。

 独り占めしたかった。

「雅虎君?」

 心配そうに俺を見る琴坂。

「だ、大丈夫だ」

 今日は変化がありすぎて、思考が追い付かないのであった。



「ダイエットする理由は?」

「気分転換?てきな~」

 のらりくらり、本音を言わない挑夢。

 2人で空き教室にて、昼休みを過ごしていた。

 彼の意向をくんでのこと。

「本当は?」

 声を低くして、圧をかけてみた。

 すると観念したのか。

 意外な言葉が、挑夢の口から出てきた。


「好きな人が…いるから…」


 ついに、きたか…。


「春か」

「うん」

「身近?」

「まあね」

「そうか」

「何かあれば、また話すよ~」


 なんか、嬉しくなった。


「まだ体重減らすんか?」

「身長の伸びによるね~」

 身長も何故か伸びていた。

「あと少しで、180センチだし」

「俺、越される」

「やった~♪」

 そんな感じで、挑夢の心境の変化に驚いたのだった。

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