第65話

 花火を見終わってから。

 杏子きょうこ金戸かねと先輩の2人で帰り。

 雅深まさみは迎えに来ていた田所たどころさんが運転する車に乗って帰り。

 挑夢のぞむとつばめさんの2人で帰り。

 俺と琴坂ことさかで帰ることにした。

 現地解散のように散らばった。



「花火、綺麗だったね!」

「そうだな」

 本当は2人で見たかったんだが、仕方がない。

「私、枝垂れ桜みたいな花火が1番好きなんだ」

 あの花火は、でっかくて綺麗だよな。

「見ていて、ちょっとだけ湿っぽくなるのが、なんかグッとくるの」

「そうなんだ」

「よっぽどのことがない限り、夏にしか見られないからね、花火って」

 確かに。年に1度、夏にしか見られない。

 そんなイメージはある。

 それだけ、貴重な存在。

 夜空に大輪の花を見られる、それが花火。


「また一緒にー…その時は2人きりで」


 ドキッ…。

 恥ずかしながら言うから、余計に響いた。


「約束な」

「うん、約束だよ」

 それからは、2学期に入ってからの事を話ながら、無事に琴坂を家に送り届けた。


 ちゃんと言えば良かったな。

 綺麗だよ、似合ってる、なんて。

 でも、言えなかった。

 何故か?

 あまりにも、綺麗だったから。

 普段の眼鏡はなく、多分コンタクトだったのだろう。

 胸の辺りなんか、海の時と同じくらいに主張していて、琴坂を見たくても出来なかった。

 送り届けた時に、目に焼き付けるように見納めしたが、いつもと雰囲気が全く違っていた。

 大人っぽかった。

 きっと、つばめさん達女子のみんなで、琴坂をコーディネートしたのだろう。

 ドキドキした、ドキドキした。

「ただいまー」

 家に着いた。

「兄ちゃん、おかえりー!」

 特撮の緑のお面を頭の所に斜めにつけて、出迎えた幸虎ゆきとら

「どうだった?」

「楽しかった」

みやびちゃん、!」

 ん?

「幸虎…まさか…」

「みーちゃったー!」

 逃げやがったな幸虎。

「おーい、マジかー!」

 俺は直ぐ追った。

「きゃははー!」

 その後、幸虎を捕まえて、脇をこちょこちょしていたら、母さんに「うるさい!」と怒られたのだった。

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