第64話
突然だった為、適当に半袖Tシャツにジーンズで、貴重品をポケットに突っ込んだ。
「兄ちゃんどこ行くの?」
「ん?祭り」
スニーカーを履いて、身だしなみを整える。
「えー!行きたーい!」
「
「あっ!もしかして、
「バーカ」
幸虎の額にでこぴん。
「いってぇ…!」
「んじゃな」
「気を付けてねー!」
時間は余裕あるけど、先に着くように出た。
※
「着いたーっと」
俺は
すると秒で返信が来た。
『今、家出たから!』
慌てなくても良いぞ。
ゆっくり待つことにする。
高校最後の夏休み。
好きな女の子と一緒に祭りを楽しむなんて、予想していなかった。
2学期になれば、彼女と会って1年経ったことになる。
最初は孤高の女の子が隣の席に来たから、どんな子なのか知りたくて、話しかけていたな。
苦手な早起きをしてまで、彼女のことを知りたかった。
今では、付き合う1歩手前。
後押しさえあれば、一気に事は進む。
でも、勇気が必要なわけで。
とりあえず、まずは、“名前から”だな。
呼ぼう呼ぼうが、ずるずると先延ばしに。
ヘタレですね、ごめんなさい。
「
「おぉ、琴さっ…」
目を疑った。
俺の目には、宝石のような輝きが見えている。
「浴衣、着てきたんだけど…?」
紺色に水の波紋と金魚が描かれている浴衣で、帯は朱色、帯紐は黄色。
少し伸びた髪は、一纏めにして留めていた。
俺、熱が出そうだ。倒れる。
良かった、持っていた冷たい缶コーヒーを額に当てて冷ました。
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
心配しないで、勝手に舞い上がってるだけだから。
「んじゃ、行こうか」
「うん」
どうしよう、ハンカチはあるが、ティッシュ持ってくれば良かった。
鼻血、出るなよ。
※
「突然でごめんね」
「いいよ、誰にも誘われてなかったし」
まっ、誘われていても、琴坂を優先して直ぐ断るけどな。
「どう屋台を回る?」
行き当たりばったりだと迷ったら嫌だしな。
「ザッと見てからにしないか?」
目星つけとけば良いだろう。
「節約家」
「いんや、ケチかもよ?」
「ふふ、面白い」
そんな会話をしながら、はぐれないように。
「手を繋ごうか」
「そうだね」
自然とスマートに手を繋げるようになったな。
最初はぎこちなかったのに。
懐かしいもんだ。
屋台をザッと見てから、話し合いの結果をもとに、ピンポイントで回った。
※
射的をして、2人して外した。
それでも笑い合った。
くじ引きをして、大当たりはなかったものの、琴坂はウサギのぬいぐるみを、俺はカメのぬいぐるみを当てた。
どちらも小さなぬいぐるみのキーホルダーなので、あとでスクールバッグに着けることにする。
うーん、ウサギとカメのように、すれ違わなければ良いな…。
次に、たこ焼きを買って食べた。
「あっつ!」
「気を付けてよね」
クスクスと琴坂は笑う。
猫舌にはキツかった。
今はキンキンに冷えたラムネを飲んで、ベンチに座ってゆっくりしていた。
「楽しかったね」
「楽しかったな」
俺は君がいるだけで、楽しくなるよ。
なんて、言わない。言えるか。
ラムネを飲みほすと、カランコロンと、涼しい音がした。
「んじゃ、花火見に行こうか」
「うん!」
この地元は、祭りやるなら、屋台、花火もセットだから、夏の締めにはピッタリだ。
「場所は確保してあるはずだから、そこに行こう♪」
それはどういうことですか?
「ふふふ♪」
なんだろう…嫌な感じが…する。
※
「やっと来たか!」
と、
「お久しぶりぃ♪」
と、
「待ってたよ~」
と、
「楽しかった?」
と、つばめさん。
「邪魔して悪い」
と、
「なんでだよ!」
と、ツッコミを入れてしまった。
苦笑する琴坂は話し始めた。
「あはは、実はね?」
先週、杏子から連絡があった、と琴坂。
その一部始終を見せてもらうと。
『雅ちゃん、久しぶり!』
『お久しぶりです、杏子先輩』
『あのさ、お祭り一緒に行こうよ!会いたいし!』
『はい、良いですが…』
『ん?』
『雅虎君と2人でと思ってまして』
『あー』
『すみません』
『分かった!2人きりの時間あげるから、花火は一緒に見よう!場所取りしとくし!』
『分かりました』
『のぞむぅ、つばめん、雅深、
『大丈夫です*^^*』
『虎ちゃんには内緒で、んじゃ!』
『承知しました』
「て、ことです」
バカ野郎…。
「雅ちゃんになんかあったら、て考えたら行動してた」
「杏子、俺はなんもしない」
「人は見かけによりません」
「オーマイガー」
頭を抱えた。
「さっ、座りたまえ」
「「お邪魔します」」
シートの上に座る。
『まもなく、花火が打ち上がります、ご覧下さい』
アナウンスの声で、1発目の花火は打ち上げられた。
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