第54話

 遡ること1時間前。


「そ~んな時の僕だよ~」

「「あっ」」

 出入口の所にいた挑夢のぞむは、教室に入って来た。

「2人がいたから声かけようかと思ったら、話が聞こえて少し聞いちゃった」

「そういうことか」

「入ってくれば良いのに」

「いや~、2人だから邪魔しちゃ悪いなぁって」

 別に良いのに。

「ところで、あの後ろにいた女の子だっけ?」

「あぁ」

「僕、1年生のことは顔と名前だけは覚えてるよ~」

 さすがだな。

「あの子は弓削ゆげ澪那みおなさん」

 ほうほう。

絢子あやこちゃんと瀬戸せと君と同じクラスだよ~」

 ふむふむ。

 俺と琴坂ことさかは同じタイミングで頷く。

「それで、弓削さんについて知りたいの~?」

「うん、調べられる範囲内でお願いしたいかな」

 琴坂の方が積極的だ。

「OK~♪デザートか何かお願いね~♪」

「もちろん!ね?雅虎まさとら君」

「ん?あぁ…はい」

 あれ?俺も?

 てことは、割り勘…。

 まぁ琴坂の調査の時よりは、負担は軽いか。

「じゃあ、1週間待っててね~」

 挑夢の調査力に頼ることになるとはね。

「挑夢、お前将来探偵か?」

「ん?パパの探偵も良いけど~」

 挑夢の父親は探偵なのだ。

 浮気調査が主な仕事らしい。

「サイバーセキュリティに興味があるんだ~」

 なんか壮大な夢があるらしい。

「雅虎は?」

「まだ」

「夏休み前までに決めなきゃ間に合わないんじゃない?」

「だな」

「頑張れ~」

 そう言って挑夢は先に玄関に向かったのだった。

「のんちゃんなら、なれるんじゃないかな?」

「俺もそう思う」

「私は本が読みたいし、ずっと携わりたいから、司書なんか良いなって思ってる」

「へぇー」

 みんな考えてんだな。

 俺も考えないと。

 心に空虚を感じ、痛いなって思った。



 現在、琴坂は先に帰って俺は1人。

 進学就職相談室、と書かれた教室にいる。

 求人を見たがピンと来ず。

 専門学校短大の資料を見ても、自分は無反応だった。

 今は大学の資料を見ている。

 学力を考えずに片っ端からパラパラ見ては閉じ、次の資料次の資料と見ていく。

 何にもないな。

 俺は一体何がしたいのか。

 どんな職業を?

 どうにも目指す所が全くない。

 俺、大丈夫だろうか。

 早く見つけないとー…。

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