第51話

 厄介事が出来て、大変嫌なんだが。

「よっ、兄貴!」

「ふざけんな」

 磯辺いそべにからかわれてる今日この頃。

虎兄とらにいって呼べって言えばねぇ?」

「止めろ」

 宮司みやじまでからかわないでくれ。

みなと君、見る目あるなぁ」

「ないっての」

 琴坂ことさかまで…。

 後輩に慕われるのは良いのだが、普通が良かった。

「やれやれ…」

 心の内が言葉となって、口からポロッと出た。

 そういえば、絢子あやこの後ろにいた女子生徒。

 なんだか、琴坂に似ていると思った。

 雰囲気というか、なんというか。

 あの子もずっと1人で過ごしていたのかなーと。

 絢子のことだ、じっと見て勝手に解釈して、無理矢理連れて来たのだろう。

 あとで、あの猛獣に代わって謝罪せんと。

 あのうるさい絢子と友達になれば、きっと心強いと思うんだよな。

 あの姉にしてあの妹ですから。

 あと、瀬戸せと。なんとかしてくれ。



 ドキドキした。怖かった。

 後ろに隠れて様子を見てはいたけど、凄く怖かった。

 口から内臓が、心臓が飛び出そうなくらい。

弓削ゆげさん、ありがとね!」

 満面の笑顔で森枝もりえださんは私に感謝を伝えた。

「いえいえ」

 もう嫌だ。絶対先輩の学年の階に行かないからね。

「また何かあったら、よろー!」

 軽い…軽すぎ…。

 私の気持ち、考えて。

「ところで、弓削さん?」

「はい?」

 今度は何?

「下の名前なんだっけ?」

「み、澪那みおな…」

 話さないから忘れられるのは当たり前。

 慣れてるから平気。

「澪那…澪那…」

 私の名前をぶつぶつ呟き、そして何かを閃いた森枝さん。

「みおなん!」

 えっ?

「ねぇ、みおなんって呼んで良い?」

 興奮ぎみに私に提案した森枝さん。

「私のことは、絢子で良いから!」

 えっえっ?

 頭が混乱したが、心を落ち着かせてから。

「良い…よ?」

 OKをした。

「ありがとね!みおなん!」

 “みおなん”…悪くないかも。

 はっ!ダメダメ!油断大敵。

 建前の付き合いに止めとこう。

 傷付いた時、余計に後悔しちゃうから。



 弓削は何に警戒してんだ?

 警戒より怖がってるように感じる。

 気になる。マジで。

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