第45話

「本当に…ごめんなさい…」


 深々と雅深まさみは頭を下げた。

 聞かなければ分からない、初めて知ることがたくさんあった。


「なんで…」


 杏子きょうこ


「なんであたしに言わなかったのよ!」


 杏子は雅深の胸ぐらを掴んで迫った。


「1番近くにいたあたしに…なんで頼んなかったのよ…」

「杏子…」


 2人は泣いていた。


「近いから…近すぎるから…言えなかった…」

「じゃあ、田所たどころさんに頼っても良かったんじゃ…」

「あの人は全部知ってるからこそ、なんて言えば良いか分かんなかったから…」


 辛さは本人にしか分からない。

 真に理解は出来ないけど、辛かったことはよく分かった。

 ちょっとした変化に気づいてやれば、何かが変わったのかな?


「雅深さん?」

「なに、かな?」


 恐る恐る琴坂ことさかは雅深にこう言った。


「1度きちんと、お父さんとお話したらどうですか?田所さんもお父さんの彼女さんも含めて」

「えっ」

「話した方が良いと思います」


 琴坂はハッキリと言った。


「怖いよ…無理だよ…」


 だよな、怖いよな。


「だったら僕らも一緒にいようか?」


 挑夢のぞむはフラットに優しく言った。


「でも人数多いから~ここは杏子ちゃんが代表で~」

「別に良いけど?あたしで良ければ」


 まんざらでもないな。

 さすが姉御だ。


「ありがとう…そうしようかな…」


 素直になる雅深…と思ったら。


「でも杏子は嫌」

「はぁ?」


 あれ?なんで?


「丸く収まりかけたのに…なんでまた崩すのよ!」

「口うるさそう」

「あんたね!」

「とにかく!杏子じゃなくてー…」


 チラチラと雅深が見ていたのは。


「琴坂さん、あなたが良い」

「わ、私?」


 キョトンとする琴坂。


「いや、あの、私なんて…」

「いてくれるだけで、落ち着きそうだから」

「雅深さん…」

「お願い、します…!」


 琴坂に向かって頭を下げた雅深。


「分かりました…お役に立てるか分からないですが…はい」


 苦笑しながらも了承した琴坂。


「ありがとう」


 雅深はようやく安心したようだ。


「ちゃんと本音を言えよ?」

「分かってる、まさちゃん」

「ぶちまけちゃいなよ!」

「はいはい、杏子」

「しんどくなったら深呼吸だよ~」

「うん、挑夢ちゃん」


 懐かしい感じになってきた。

 “幼馴染み”の“特別な絆”が、再び動き出した気がした。



 杏子と挑夢と雅深と、復活した金戸かねと先輩は帰った。

 今は俺と琴坂の2人だけ。


「やっと2人きりだね?」

「うん」


 久しぶりの2人きり。


「もしかして緊張してる?」


 いたずらっ子な顔をする琴坂。


「まあな」


 正直に言う。


「私も、だよ」


 そう言われると、余計にドキドキするんですが。

 それはそうと、俺は言わなければいけないことがある。


「ごめんな…」


 改めて謝った。


雅虎まさとら君…」

「1人にして…傷付けて…」

「ううん」


 琴坂は首を横に振った。


「信じてたから」


「雅虎君のこと、信じてた」


 俺は涙を堪えた。


「ありがとう…琴坂…」

「いえいえ」


 微笑む君が可愛くて愛しくて…。

 無意識に彼女を抱き締めた。


「本当に…ごめん…そして…」


「ありがとう」


 ギュッと抱き締めてくれた琴坂。

 それが、答えなんだと分かった。

 今じゃないけど…ちゃんと言おう。

 心の中で、決意した。

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